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『永い言い訳』--本木雅弘ってSF小説に出てくるロボットみたいだ

映画 邦画

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監督・脚本・原作:西川美和
配給:アスミック・エース/公開:2016年10月14日/上映時間:124分
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、深津絵里

 

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77点
少年隊をリアルタイムで知っている年齢ではないため、本木雅弘という人は最初からエッジの効いたアーティストっぽい役者という認識である。あの人が『スシ食いねえ!』を歌って踊っていたとは、いくら当時の映像を見ても信じることができない。どっか違う世界に行ってしまった人、という感じか。今の本木雅弘って、ヤッくん、フッくんと会話が成り立つのかな。あと、今「ふっくん」で変換キー押したら「布川敏和」って出てきた。なんだこのパソコン。

先ほど本木雅弘のことをアーティストっぽいと書いたが、本作『永い言い訳』の冒頭シーンを観てからは、ロボットみたいだなあって思い始めた。自宅マンションで妻(深津絵里)に散髪されつつ、穏当な夫婦の会話をしようとする相手に対して皮肉っぽくキツい口調で当たっている。でもハサミを持った妻には成すがままで髪を切られ続けている。髪を切られるという行為には、相手に全てを委ねなけれないけないという絶対的な主従関係が発生する。「ちょっと顔を傾けて」と指示されたら抗うことはできないのだ。アシモフのロボット三原則に忠実な状況とも言える。

そんなロボット本木は、妻が死のうが哀しみもしない。告別式か何かの喪主の挨拶では、作家(本木雅弘は作家の役)らしいレトリックで「これから私は、誰に髪を切ってもらえばいいのでしょうか」などと感動的な言葉を並べるが、その場に応じた最適解を行っているだけにしか見えない。もしこれが漫画だったら、本木雅弘のフキダシの中は全部カタカナだ。だが本木雅弘は、哀しむという感情を持つことができない自分に対して苦悩し始め、荒れていく。このあたりもSF小説に出てくるロボットっぽいなあ。

さて、そんなロボット本木に対し、感情のみで形成された男こと竹原ピストルが現れる。妻同士が親友であり、同じく事故で妻を亡くすが、ただただ哀しみに囚われ続けている真逆の存在だ。ロボット本木はすがるかのように連絡を取り、一緒に食事をすることになるが、竹原ピストルの2人との子供との距離感がうまくとれず戸惑ってしまう。保育園児の女の子がアレルギーを発症したときのどうしていいのかわからない感じとか、小学6年生の男の子を2人きりになって会話が弾まない感じとか、観ているこっちまで「うわあ」ってなる。特に、なんとなく色々なことがわかり始めて、ちゃんとしようと健気に背伸びしている小6の男の子って、どう接したらいいかわからないもん。周囲に子供いない人なら、この気まずさは共感できると思う。

でもロボット本木はここで怯まない。長距離ドライバーゆえになかなか家に帰れない竹原ピストルに対し、子供2人の面倒を見ることを提案する。顔だけは怪訝な表情をするが、単純に好意を受け止める。ある意味では「自分の子供を奪われそうになっている」ような状況なのに。竹原ピストルはこのあとも、一瞬睨みつけるような顔をしてから実は何も考えていないとすぐ明らかになる顔芸を何度か繰り返す。映画の定石としては、下等だと思っていた相手に核心を突いた一言を投げつけられるシーンがあるものだが、感情のみで形成された竹原ピストルには無理なことであった。竹原ピストルが本木雅弘に対して一矢報いることは、ついぞ無かった。

ちなみに、妻を失ってからは荒れるだけでろくに仕事をせず、他人の子供と交流するだけのロボット本木に対して、「逃げてるだけでしょ」と核心を突いたのは「全てを悟っている男」こと池松壮亮であった。この人、どの映画でも「全てを悟ってる(つもり)」みたいな役ばかりで、どんどん顔がバカリズムに近づいている。この映画、池松壮亮の声だけ、ちょっとボリューム上げてなかったか? 気のせいか。

巧いなあと思ったのは、時間が経つことにロボット本木の髪の毛が伸びていくという演出。髪を切ってくれる妻がいないという現実を常に表現しているとともに、髪の毛と無精ひげという生命を感じさせる有機物の存在が徐々に目立つに連れて、ロボットの中に少しづつ人間らしい何かが芽生えているという象徴にもなっている。

はたしてロボット本木は人間になれたのか。そもそもこの場合、どういう結果を得られれば、人間になったと言えるのか。ひとつだけわかったことは、西川美和監督は、哀しみを抱くことのできない死者に向き合うよりも、新たなる生者に対して何かを抱かせるほうを選ばせたことである。ロボット本木と、竹原ピストルの双方に。

 

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原作小説

永い言い訳 (文春文庫)

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