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【邦画】『島々清しゃ』感想レビュー--少女は耳を見せるだけで「顔つき」が変わる

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監督:新藤風/脚本:磯田健一郎
配給:東京テアトル/公開:2017年1月21日/上映時間:100分
出演:伊東蒼、安藤サクラ、金城実、山田真歩、渋川清彦

 

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66点
フルートを吹くのは難しいと、聞いたことがある。肺活量なのかテクニックなのかわからないが、音を出すだけでも大変らしい。松居直美だったか誰だったか忘れたが、何かの企画で吹くことになったけどまず音を出すところまでいけないと嘆いていた。あと、『タモリ倶楽部』に出演した把瑠都がまったくフルートを吹けなかったのを覚えている。ついでに、最近フルートが出てきた映画といえば『TOO YOUNG TOO DIE!』か。あれは単純にあざとかった。

ボクの持っているフルートに関する知識は以上である。本当にどうでもいい話だが、今回の映画『島々清しゃ』が、楽器をまったくやったことのない少女がいきなりフルートに挑戦する話だったので、ちょっと余談から始めてみた。吹奏楽部に入りたいという少女に対して年上の部員(中学生?)がフルートを渡してきた時には「新手のイジメか?」って思ってしまった。ボクの心が汚れているからです。ごめんなさい。

沖縄県、慶良間諸島のある島にて、心を閉ざした少女と東京からやってきた女性バイオリニストの交流を描く。少女は耳が良すぎるがためにちょっとした音のズレも不快感が発生してしまい、夏でもファーつきの耳当てをしている。吹奏楽部の下手くそな音に我慢がならず、しょっちゅう怒鳴り込んでは返り討ちに遭っている。

舞台が沖縄県というと、まるで次元が違うかのようなマジックリアリズムを期待してしまうが、本作に関しては要素のひとつにとどめている。さすがに背景には沖縄の海や砂浜をふんだんに取り入れるが、あとは小道具として米軍機や泡盛などがあるのと、バイオリニスト(安藤サクラ)を「ヤマトから来たよそ者」という位置づけにするためくらいか、沖縄としての要素は。ああ、もちろん沖縄民謡「島々清しゃ」も重要な要素だが。

人とは違う能力のために他人を受け入れられず、それゆえ周囲から受け入れてくれることもない。少女はコミュニティの外から来た「異物」を介することで、他人との共存に対して真剣に向き合い、周囲も巻き込まれる形で変化していく。構造的にはよくある成長譚ではあるが、沖縄の風景と何より随所に挟まれる音楽の素晴らしさが全体を覆うことによって、心地よい仕上がりとなっている。

最後に少女は、耳当てを取る。他人との壁を取り除く決心をするという意味合いであるが、そこで劇中で初めて耳を見せる。ちょっと個人的なことだが、似顔絵を描く際、耳の位置で顔全体のバランスを計算している。そのため、耳が見えないと顔のパーツの位置が不安定になりがちで、髪の長い女性が耳を隠していたりすると、アタリが取れなくてとたんに似顔絵が描きづらくなる。本作では耳を露にすることで少女の顔つきが急に締まって見えるから不思議だ。少女が成長したことを顔つきだけで表現している、あのアップの画だけでも、この映画の価値はある。

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