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【邦画】『唇はどこ?』--虚実を超えた先に起こる、小さな小さな奇跡

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監督、脚本、編集:長崎俊一/撮影監督:渡部眞/製作国:日本
配給:名古屋学芸大学/公開:2015年12月12日/上映時間:98分
出演/久具巨林、廣瀬菜都美、宮谷達也、鈴木理恵子、山本一樹

 

長崎俊一監督『少女たちの羅針盤』は傑作だった。2011年のベスト邦画だった、と言いたいところだが、この年には『モテキ』も公開していた。『モテキ』は誰も押さないだろうという不安から、人に会うたびに勧めていた。『少女たちの羅針盤』はどうせみんなが絶賛するだろうからいいやと、あまり気にかけていなかった。そしたらいろんな映画賞とか年末のベスト10企画とか『モテキ』は食いこんでくるのに『少女たちの羅針盤』は完全無視だよ。なんだよ。今からでも「これ、すげえよ」って方々で言いふらそうかな。

さて、長崎俊一監督最新作『唇はどこ?』は、名古屋学芸大学の映画プロジェクトとして製作された。ストーリーは少しだけメタ的で、「唇はどこ?」という映画に出演が決まった5人の学生が、連日続くリハーサルの果てに虚実を超えて、小さな奇跡を体験する。って書くと大袈裟なんだけど。公式の紹介文だと「スリリング」って単語を使っているが、鑑賞前に「スリリング」って聞かされると変に期待しちゃうよね。実際に劇中で起こるのは本当に小さな「え、それのどこが奇跡?」って程度のものである。だが紛れもなく奇跡なのだ。

撮影前にリハーサルを繰り返す5人。あるシーンの演技を行い、監督(長崎俊一本人)からダメ出しを受け、また同じ演技を行う。これが何度も何度も繰り返される。細かくカットを割って時間を飛ばしているので、実際にはさして長くないシーンだが、カットとカットの間で繰り返されているはずのリハーサルを想像したら気が遠くなってくる。監督からの「今、この人物は何を考えていると思う?」的な質問が飛び、答えると「じゃあ、それを意識してやってみて」とか言われる。実際、監督の言っている内容は理にかなっている。抽象的でどうすればいいのかわからないようなことは言わないし、基本的に口調も穏やかだ。しかし、ものすごくつまらない(この作品が、ではなく劇中で監督の言っていることが)。こんな息苦しい経験をしなきゃいけない役者になんてならなくて良かったと心から思った。役者になりたいと思ったこと、人生で一度もないけど。

役者である学生のほうは、監督側に反感は覚えるが中身は正しいので反論はできない。自分たちの不甲斐なさやリハ中の圧迫感もあり、路上や公園で独自にリハーサルを行う。実は虚実を超えた先の奇跡が起こるのは、いつもこの時だ。逆に、室内のリハーサル中に奇跡らしきことはひとつも起こらない。本作のこだわりは、ここにあると思う。

わかりやすい奇跡は、実際にはそこにいないはずの存在がスクリーンに映るところと、あとラストだろう。あのラストの展開を、リハーサルを繰り返した彼らだからこそたどり着いた境地と捉えることはできる。で、あの程度の軌跡なら、役者ではなリハーサルを何度も繰り返したこともない我々でも体験したことがあるのではないか。虚実を超えるきっかけなんて、実は些細なことなのかもしれない。

 

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