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【邦画】『ビジランテ』--地方都市の闇の前では、一家族の話など些末なことなのか

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監督&脚本:入江悠
配給:東京テアトル/公開:2017年12月9日/上映時間:125分
出演:大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太、篠田麻里子、嶋田久作、間宮夕貴

 

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60点
映画は、答えではなく問いであってほしいと思っている。もちろん映画の種類にもよるのだが、「現実における社会の闇を鋭く抉る」的なテーマだったら、映画内で唯一の回答を示して完結させるようなことはしてほしくない。観ているこちら側に問いを投げかけ、色々と考えさせられるほうが、良い映画を観たという気分になる。

入江悠監督『ビジランテ』は、まさにそんな問いかけをしてくる映画だ。最近やたらと多い「閉塞した地方都市」モノだが、自主制作から大作まで手掛けてきた監督の経験値と、この内容にしては豊富そうな資金面もあって、他の似たような作品とは一線を画した風格を漂わせている。

ところが、だ。この映画が投げかけてくる問いに、うまく答えることができない。別に難問だから、というわけではない。物語をきちんと完結させず、観客の側に放り投げているため、問いは確かにある。だが、答えるために必要な材料が揃っていないのである。どういうことか、具体的に説明する。

舞台は埼玉の地方都市で、主人公は40前後の男3兄弟。次男は市会議員、三男は暴力団のしのぎであるデリヘルの雇われ店長。3人の父親が死んだところから物語本編は始まる。市が進めているアウトレットモールの建設のため、次男にとっては父親が持っていた土地の相続が必要となる。三男は興味もないのですんなりいくと思ったところに、小学生の時に家から逃げ出した長男が30年ぶりに現れる。しかも土地を自分に譲るという父親の遺言状とともに。

ここから、土地の相続を巡る3兄弟のゴタゴタが始まる。ここでひとつ、映画内で明示してくれない件がある。長男が、なぜこの土地の権利にこだわっているのか不明なのだ。他の土地なら別にいいというスタンスだし、「親父が満州から引き揚げて最初に手に入れた土地だから」という漠然とした理由は言っていたが、納得できるものではない。

なぜ長男が父親から遺言を受け取っているのかも、重要な件だが、まったく明かされない。ヒントすらない。このように、この映画の問いかけに答えるために必要な材料について、きちんと教えてくれないのだ。メインであり、尺も存分に使っている3兄弟の話について、特に明かされない件が多い。

一方で、アウトレットモールを建設しようとする市議会の動き、それに付随して篠田麻里子が演じる次男の妻の暗躍については、割とほのめかされている。その結果、3兄弟の件とはスケールの違う大きな話が同時進行している。というより、3兄弟の土地の話は、地方都市の巨大な暗部における枝葉末節な挿話にすぎないようだ。

実際、3兄弟のいざこざは、結局は大勢に影響を与えていない。いいようにやられているだけだ。この映画を観終わった後に感じる無力感の原因である。「地方都市の闇の前では一家族のことなんかどうでもいい」というある意味で現実に即したために3兄弟の件を蔑ろにしてしまったせいで、問いかけに関する必要な材料が揃っていないという事態に陥ってしまっているのである。

 

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