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【邦画】最近観た邦画感想レビュー--『冬薔薇』『きさらぎ駅』『極主夫道 ザ・シネマ』『流浪の月』

最近観た邦画4作のレビューです。直接的に文中で結末には触れていませんが、ネタバレにはご注意ください。

 

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『冬薔薇(ふゆそうび)』
監督&脚本:阪本順治
配給:キノフィルムズ/上映時間:109分/公開:2022年6月3日
出演:伊藤健太郎、小林薫、余貴美子、真木蔵人、永山絢斗、毎熊克哉、坂東龍汰、河合優実、佐久本宝、和田光沙、笠松伴助、伊武雅刀、石橋蓮司

事実上の主人公は小林薫が演じる父親であり、「息子に対して正面きってぶつかることができない」というありがちであり好感を持ててしまう現代的な父親像が、実は息子にとっての悲劇を増大させてしまっている。父権の復活という一歩間違えれば教条主義的になりがちなテーマをオーバーではない物語に落とし込んでエンタメとして昇華しているうえに、アテ書きされた伊藤健太郎への手荒な復帰への後押しというメタ要素まであり、阪本順治監督の大胆かつ堅実な手腕が披露されている。知らず知らずのうちに父から子に因果が受け継がれるも単純な悲劇として終わらせない展開、余貴美子が体現する母という名の絶対的な存在感など、物語の骨格の中に含まれる魅力を数え出したらキリが無い。
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『きさらぎ駅』
監督:永江二朗/脚本:宮本武史
配給:東宝/上映時間:82分/公開:2022年6月3日
出演:恒松祐里、本田望結、莉子、寺坂頼我、木原瑠生、芹澤興人、佐藤江梨子、瀧七海、堰沢結衣

永江監督の前作『真・鮫島事件』と同じく、かつて流行したインターネット・ミームに別種のアプローチを加えて新たなホラーとして蘇らせている。回想軸と現在軸で別の人物を同じ境遇に置く構成によって都市伝説のアップデートを図る狙いは興味深い。とは言いつつも、ショッキングな映像による瞬間的な恐怖演出が率先されており、ジャンル・ムービーの基本に忠実に仕上げている。複数の人物による心理的葛藤が折り重なることでもたらされるラストは、もっと丁寧に描写すれば「本当に怖いのは人間」オチの傑作と成り得たかもしれないが、おそらくメインの観客層が求めているものではないのであろう。
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『極主夫道 ザ・シネマ』
監督:瑠東東一郎/脚本:宇田学/原作:おおのこうすけ
配給:ソニー・ピクチャーズエンターテイメント/上映時間:117分/公開:2022年6月3日
出演:玉木宏、川口春奈、志尊淳、古川雄大、玉城ティナ、MEGUMI、安井順平、田中道子、白鳥玉季、水橋研二、本多力、くっきー!、中川大輔、片岡久道、橋本じゅん、滝藤賢一、稲森いずみ、竹中直人、吉田鋼太郎、松本まりか、安達祐実、新川優愛、渡辺邦斗、猪塚健太、藤田朋子

元極道の専業主夫がご近所トラブルを解決するコメディ、のつもりなのだろうが、取り上げた題材に対する最低限の敬意すらないので、不快感ばかりが先立つ。ワイヤーで吊るされてポーズを決めるだけの空中戦など、放棄されたリアリズムがことごとく笑いを殺してしまっているのが、とにかく歯痒い。「ヤクザが保育園の立ち退きを迫る」という俄には信じられない設定を、こじつけもせずにそのまま受け入れろというのは、あまりに観客を馬鹿にしていないか。くっきー!のアドリブによる話芸が劇中で最も安定感のある笑いを担保しているのは、コメディ映画としては大問題であろう。
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『流浪の月』
監督&脚本:李相日/原作:凪良ゆう
配給:ギャガ/上映時間:150分/公開:2022年5月13日
出演:広瀬すず、松坂桃李、横浜流星、多部未華子、趣里、三浦貴大、白鳥玉季、増田光桜、内田也哉子、柄本明

かつての児童誘拐犯と被害者が時を経て再び出会うという展開により、言語化できない複雑な感情の表現を残酷に抉り出すことに成功している。だが特に後半、まるで主人公たちを追い詰めるために警察やネット民が都合よく動かされているかのように、悪い意味で図式的かつ作品の質感とは不釣り合いな非現実性が露呈してくる。あの子供の小学校は何をしているのか。あと純粋に気になるのだが、「ネットに個人情報が流出」→「自宅や職場に大量の落書きや張り紙」という最近の邦画でよく見る一連の流れは、現実にはどれくらい起きていることなのだろうか。
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