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【邦画】『ファーストミッション』ネタバレ感想レビュー--熱意だけでは完成しえない技術の結晶が詰まったアクションの連続


総監督&脚本:HAYATE/アクティング監督:中山剛平/アクション監督:雲雀大輔
配給:?/上映時間:分/公開:2022年5月6日
出演:小玉百夏、HAYATE、津枝しんぺい、長野じゅりあ、小林純也、中嶋涼子、川口貴弘、関田安明、伊澤彩織

 

注意:文中で終盤の展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。ネタバレしても大して魅力は削がれない作品ではありますが。

 

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映画の冒頭で、「古の時代から船橋の血を守ってきた一族の末裔であるヒーロー兄妹」がいて、「バイオテロを企てている悪の組織」を早急に倒さないといけない、といった大袈裟なハッタリによる舞台設定が説明される。そして、この時点では理由は不明だが腹に傷を負って重傷となっている兄(演:HAYATE)に代わり、実務未経験の妹(演:小玉百夏)が、敵の集結する船橋の海沿いにある公園の歩道で、悪の組織集団と対峙する。

で、鑑賞前に事前情報を得ていなかったので驚いたのだが、なんとここから約25分に渡るワンカットアクションになるのである。まったく手の抜いていない、超本気の肉弾アクションとパルクールが息をつかせる間もなく連続する。扇子を持った姉妹とか適度にキャラクター性のある用心棒集団たちと相手をしながら、組織のボスを追いかけて船橋の歩道を縦横無尽に駆け回る妹。手持ちカメラも必死で彼女を追うが、奥のほうで別の何かが見切れるし、周囲の声も拾ってしまっている。

小さなドラマも内包している(妹は途中で袋叩きに遭うが兄の声が聞こえて復活する、など)ので飽きは来ないが、それでもさすがに20分も連続するアクションは観ているだけでも疲れてくると思い始めた時、最後の最後に出てきたのが伊澤沙織だったから、さらに驚いた。別に他の役者を低く見積もっているわけではなく、「有象無象の集団」と「謎めいたラスボス」という役柄上の差別化もあるのだが、それにしたってアクションのステージがひとり違う。単純に手足のスピードが段違いで、もはや残像しか見えないレベル。ここでまた緊張感が格段に上昇し、ワンカットの締めにはぴったりだった。

約25分のワンカットアクションが終わるとタイトルバックが出て、時間軸が巻き戻り、なぜ妹vs悪の組織集団に至ったかの経緯が説明されるパートになる。実は先ほどのワンカットは、依頼者(演:津枝しんぺい)がカメラで撮影していたものであった。なんやかんやあったのち、時間軸はワンカットシーンの冒頭に戻り、その裏では兄もまた戦っていたという種明かしのパートが始まる。こちらはこちらで1対多数のアクションが連続し、ちょっとしたコメディ要素によって第1パートのワンカットとは別種の緊張感を産み出している。

つまり本作は、「ワンカット長回しアクション」「そこまでの経緯を説明する前日譚」「ワンカットの裏側で起きていたこと」という3部構成になっており、冒頭のワンカットが実は劇中で撮影された映像だったという種明かしを含め、皆さんお気づきの通り『カメラを止めるな!』そのままなのである。

ここまで作品の骨格が同じだと興ざめするのが普通だが、まったく気にならない。前半と後半で物語が引っくり返るわけではないので、『カメ止め』最大の売りである構造的な仕掛けの面白さがあるわけではない。そうではなく、本作はアクションに様々なバリエーションを生み出すために『カメ止め』のシステムを拝借しているわけであり、手段と目的の順序が理に適っている。現時点では唯一の、『カメ止め』オマージュの成功例かもしれない。

あえて無理やりに注文を付けるとすれば、ワンカット前の短いシーンは無くして、『カメ止め』同様いきなりワンカットから始めたほうが衝撃は大きかったかもしれない。第2パートで冒頭と同じシーンが繰り返されるので、ここでちょっと停滞した感じを受けるし、ワンカットの部分は事前の情報をゼロにしたほうが純粋にアクションに対して盛り上がれる。

もうひとつ『カメ止め』に倣うならば、第1パートとは逆に第3パートでは、事前に全ての情報を観客に説明してほしかったかも。仄めかされてはいるのだけれど確信が持てないので、それぞれの登場人物についてどういう立場なのか判断の迷いが生じて、素直に目の前の出来事を楽しめなくなる瞬間がある。なんせ第2パートでは、ビルを消し飛ばせる銃で兄が撃たれて内臓が木っ端微塵になったけどブラックジャック的な医者によって一命を取り留めたというナンセンスな展開があるのだ。このリアリティ基準を用いれば、どんな解釈だって可能になってしまうのだから、観客は余計な深読みをしてしまいがちになる。

まあ、以上の文句はブログの文字数を埋めるためだけのいちゃもんみたいなものなので気にしないでください。熱意だけでは完成しえない技術の結晶によるアクションが詰まった傑作ですので、観られる環境にいる方は観て損は無い作品だと思います。
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