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【TV】『さんまのお笑い向上委員会』2022/02/27--明石家さんまのアナクロな女性観に潜む厄介な問題

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『さんまのお笑い向上委員会』
フジテレビ系列
2022/02/27放送

 

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ネットニュースでも話題になった、フジテレビを3月で退社予定の久慈暁子アナウンサーが収録中に泣いてしまった放送である。改めて説明すると、久慈アナが泣いたのは、お笑いコンビの鬼越トマホークによる「喧嘩ネタ」(喧嘩を仲裁した人に対して暴言を吐くネタ)で、「お前が辞めてもフジテレビはダメージ無いからな」と言われたからである。と、ネットニュースなどでは書かれているが、実際の放送をきちんと見ると、ちょっとニュアンスが違う。

鬼越トマホークの暴言を受けた後、司会の明石家さんまから「涙ぐんでるやないか」(泣いている、ではない)と指摘された久慈アナは、子供の泣きマネのように両手を目の下に当てるポーズを取って「えーん」と言っていた。久慈アナ、意図的におどけているのである。その様子からスタジオの芸人が盛り上がり、「鬼越が久慈アナを泣かせた」という既成事実が強固になるような流れに持っていった。あくまでバラエティ番組として盛り上がるにはどうすべきかを判断しての流れの形成である。

いや、久慈アナがおどけていたからと言って、彼女がは傷ついていないのだと主張したいわけではない。「普通に悪口でしたよね」とも言っていたし、自分のせいで収録を妨げないように取り繕っただけであろう。涙が出るなど本心が周囲に見つかってしまった直後に、場の空気を読んで「マジじゃないですよ」感を演出するのは日常でも見かける光景である。その一連からいまだ女性は社会から抑圧されているのだと論じるのも飛躍ではあるが的外れではないかもしれない。

ともかく、その場の芸人の感覚としては、泣く久慈アナよりも、焦る鬼越のほうに面白さを見つけ出したようであったが。で、久慈アナを励ます体での「女心が解っているやついるか」という明石家さんまのフリがあり、そこからランジャタイ・国崎のシュールな笑いが披露されたわけである。ちょっと文章で説明するのが難しいくらい謎なやつが。

特に『お笑い向上委員会』で多いのだが、明石家さんまはその場で偶発的にできた流れからの無茶ぶりを周囲の芸人にすることが多い。今回で言えば「女心が解ってるやつ」という呼びかけであり、むしろそのフリのために久慈アナの涙を利用しているようなものである。本来なら非難されるべき行為だが、森羅万象を笑いに繋げる明石家さんまの特異な本能がそうさせるのだから諦めるしかない。

なんせ、ランジャタイ・国崎が場をメチャクチャにしていて、もはや久慈アナなんかどうでも良くなっているのに、さんまはそれでも「他におるか、女心の解るやつ」と、久慈アナの件を蒸し返したフリを続けているのである。陣内智則とにかく明るい安村は、場の流れから久慈アナではなく国崎に乗っかったので目立たなかったが、さんまのフリへの執着は不思議な感じがした。確かに、妙に設定にこだわることが多いのだ、さんまって。

女の涙も笑いを産むための道具としてしか扱わない、そのストイックさは明石家さんま独自のものとして捉えるべきで、一般論と結びつけるのは野暮かもしれない。さんま、多数の芸人が入り乱れる中でも小ネタを挟み込んでは「自分のことしか考えていない」とツッコまれているくらい、ただただ笑いに貪欲なだけである。

ただ、明石家さんまに問題があるとすれば、久慈アナに対するフォローとして「泣いてる女は可愛らしい」「でも、かわいい」と合間合間に言っていた点だ。この発言で喜んでくれると考えているなら、かなりの時代錯誤である。だが、明石家さんまのアナクロな女性観は、今に始まったことではない。いつの時代も、常に意識が時代から半歩遅れている。『笑っていいとも!』のレギュラーだった頃には、すでにズレていた。

というより、アナクロな女性観は明石家さんまを構成する要素の中でも重要な一つなのである。それゆえ、フェミニズムの観点から真っ当な批判を入れれば入れるほど、むしろ明石家さんまのタレント性は増していく。明石家さんま、実は炎上レベルの発言をしょっちゅうしているのに、特に話題にならないのは、それがさんまにとっては正しい芸能活動だからだ。なかなか厄介な問題である。
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