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【邦画】『君が落とした青空』ネタバレ感想レビュー--このカップル、男のほうに問題の9割があるのに、なんでタイムリープの試練を受けるのは女なのか?

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監督:Yuki Saito/脚本:鹿目けい子/原作:櫻いいよ
配給:ハピネットファントム・スタジオ/上映時間:93分/公開:2022年2月18日
出演:福本莉子、松田元太、板垣瑞生、横田真悠、莉子、矢柴俊博、松本若菜

 

注意:文中でラストの展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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ある1日を何度も繰り返しては、恋人がトラックに轢かれる展開をどうにかして回避しようとする、毎度おなじみの話である。主人公の成長がタイムリープを抜け出すための試練となっており、その成長の過程をメインで見せたいのだろう。つまり、あくまでSF設定は添え物であり、そこに細かい考証をして文句をつけるのは意味が無い。だが、添え物である以上は王道のセオリーを踏襲しないと、逆に悪目立ちしてしまって、本筋の物語を邪魔してしまう。その点で、本作『君が落とした青空』が、ちょっとねえ…。

高校生の実結(演:福本莉子)は、同級生の修弥(演:松田元太)と付き合い始めて2年目だが、毎月1日に映画館へ放課後デートするだけの薄い関係。「いつでも高校生料金だから映画サービスデーの1日じゃなくてもいいのに」と文句を垂れる実結だが、福本莉子が言うと映画館の回し者みたいだな。ともかく、本日は11月1日。平凡な学校生活の後、2人で映画館に向かう。

そして、TOHOシネマズではなく、まさかのイオンシネマを訪れる2人。ロゴは少し変えていたが、そこは明らかにイオンシネマ多摩センターだ山崎紘奈の後を継いでTOHOシネマズの新しい顔となった福本莉子が、ライバルのシネコンに嬉々として訪れるとは、なんたる裏切り行為。実は本作、東宝配給じゃないし、撮影の時点では福本莉子がTOHOシネマズの次期ナビゲーターになるとは(おそらく本人も含めて)誰も知らなかったのだろう。諸々のタイミングのせいでの不運だと思うが、劇中で何度もイオンシネマを訪れる福本莉子に対して、観客のほうが気まずくなってしまう。このことが知れたら、紙兎ロペにヤキ入れられるのではないか。

さて、映画館のロビーでスマホの着信を受ける修弥。誰かと電話で話した後、急用ができたと一方的にデートをキャンセルし、理由も言わずに立ち去ってしまう。修弥には同級生のトモカ(演:横田真悠)と二股をかけている疑惑があり、気が気ではない実結。そして夜、ちゃんと話したいから時計台まで来てくれと、修弥からLINEが来る。そして夜7時、時計台の下で言い争いになって道路を飛び出した実結を庇って、トラックに轢かれる修弥。雨の中、修弥を抱きかかえて泣き崩れる実結。そして、時計台に雷が落ちる(アレのオマージュなんだってさ)。

気が付くと自宅のベッドで目が覚める実結。時計を見ると11月1日の朝だった。家を出てから登校するまでの状況から、同じ日を繰り返していると気づく。実結は、修弥を死なせてはならないと、無理やり理由をつけて映画館デートを断る。時間が空いた修弥はトモカの誕生パーティーに出席し、これで未来は変わったと安堵する実結。だが夜になって、またもや修弥から時計台で会いたいとLINEが来てしまう。事故を止めなくてはと時計台まで必死で激走するが、やっぱり修弥は轢かれてしまう。

そして気が付くと自宅のベッドで・・・、ってさあ、今のは1ターン目だよ。修弥の事故を回避するのが目的なんだから、まず時計台に近づかせないようにするべきでしょう。LINEが来た時に「別の場所にして」って返信すればいいだけじゃん。それでも修弥は時計台に来てしまうので、ならば次のターンではその前の段階で・・・って流れがセオリーでしょう。なぜ、事故と直接の因果関係が不明な映画館デートに真っ先に手を付けるのか。そういう、風が吹けば桶屋が儲かる作戦はタイムリープの1ターン目にすることじゃない。

あと、1ターン目と(この後の)2ターン目の事故のシーンは編集がおかしくて、「実結が反対側の歩道を歩く修弥を見つける」→「実結が修弥の名を叫びながら走り出す」→「その実結をトラックが追い越していく」→「修弥が轢かれる」という流れなのである。これ、修弥は普通に歩いている場面しかなく、道路に飛び出す理由がまったく不明なのね。この流れだと、実結が名前を叫んでいたのに気づいた修弥が慌てて道路に飛び出したようにしか思えないのだが。

2ターン目は、映画館デートは予定通り行い、ロビーで早めに修弥にスマホの電源を切るように言う作戦。これで連絡は来ず一安心かと思いきや、映画館に突如現れるトモカ。そしてトモカと話をした後、やっぱりデートをキャンセルする修弥。以下略。1ターン目よりも2ターン目のほうが、時間軸では後の部分で変更をかけているのがなあ。こういう辺りが、タイムリープもののセオリーから外れていて、ムズムズする。

3ターン目。もう説明するのは面倒くさいので要点だけ言うと、実は修弥はトモカと同じ店でバイトをしていて、間違ってシフトが入っていたとトモカから連絡を受けたので、デートをキャンセルしてバイトに向かっていたのだった。と、修弥が白状して、互いが本音の感情をぶつけ合って、2人の仲は強固なものになる。めでたしめでたし。いや、バイトくらいさっさと言えよ。デートをドタキャンして恋人に不信感を与えてまで黙ってなきゃいけない理由は無いだろう。このカップル、9割がた修弥のほうに問題あると思うが。

※ あと、シフトが入っていたってのはトモカの嘘で、それで修弥を呼び出して告白してたけど、恋人との月一のデートを自己中の嘘で邪魔された挙句に付き合ってくれって、そんな告白が成功すると思っているのか? 悪女なのはいいけど、下手すぎだろ、その作戦。

で、日中に「実結と修弥が本音をぶつけ合う」という成長シーンが発生したのに、それでもまた修弥から時計台に来てくれとLINEが。これじゃあ、実結の成長とタイムリープが何も関係ないじゃん。セオリーを無視してばっか。なんだかんだで、今度は修弥を庇って実結がトラックに轢かれる。そして目覚めると、病院のベッドの上。時計は11月2日を指している。ついにタイムリープから抜け出した!

だが、修弥は実結を庇ってトラックに轢かれたと聞かされる。なんと、タイムリープする前のタイムラインに戻っていたのだ。タイムリープを繰り返していた部分は無かったことにされ、あんなに必死になって勝ち取った実結の成長も全て消去。なかなか悪意のある展開で、ギョッとしたのは確かだ。超常的な力の前では無力な人間は成す術がないという、かなり嫌な話なのかもしれない。

そもそも、2人のすれ違いの原因のほとんどは修弥にあるのに、タイムリープに陥って試練を受けるのは実結となっている構図が、この話の根本的におかしい点である。SFなどジャンル映画のセオリーを無視するのは、まずセオリーを把握したうえで行わないと、大惨事になるという好例であろう。

ついでに余談。この映画は実結の前に修弥が現れるラストカットで終わるわけだが、トラックに轢かれて意識不明で太いチューブを加えていた人が、そんなすぐに五体満足な状態で完全復活するのか? まず、トラックに轢かれた直後でも血が一滴も流れていないし、衝突した場所で倒れている(少しも吹っ飛んでいない)って、状況がワケわからない。この世界での交通事故って、どういう扱いなんだ? もしかしたら、それが一番のSFかもしれない。

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