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【特別企画】緊急事態宣言中でも営業している東京都内の映画館を巡ってみた

 2021年4月25日から、東京都と関西の3府県に緊急事態宣言が発令された。詳細は省くが、娯楽施設に対しては曖昧な"お願い"が前日になっていきなり出されたため、対象地域の映画館は翻弄されることとなった。大手シネコンはいずれも休業したが、ミニシアターや名画座の場合は、休業、時短営業、客席を絞っての営業、通常と変わらない営業と、それぞれ個別の判断を取っている。足並み揃えて一斉に休業した昨年とは、えらい違いだ。

どの映画館にとっても、健康と経営の狭間に立たされた中で、大きく苦慮したうえでの決断であろう。休業にしろ営業にしろ、その決断には敬意を示したい(どちらかを賞賛してどちらかを非難するのは間違っている)。

さて、緊急事態宣言中に営業している映画館は、実際にはどんな様子だったのか。当初の期間である4月25日から5月11日まで(のちに5月末まで延長)フルで営業した映画館は東京都内に15館ある。そのうち7館を実際に訪れたので、その様子を簡単にレポートしてみた。

 

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池袋シネマロサ
2021年4月29日(木・祝)

 

池袋は東側に大型シネコンが立ち並んでいるが、駅を挟んだ西側で映画館の火を灯し続けているのが池袋シネマロサ(他に2つあるけど)。ネット予約や前日販売は行わずチケットは当日に窓口販売のみ、支払いにカードは使えないなど、時代の流れに逆らうかのような昔気質なイメージがある。だが一方で、千鳥座席を今年3月まで続けており(ほとんどの映画館は昨年のうちに全席解放)、また今年からはポップコーンの販売を中止するなど、感染予防対策に熱心な映画館でもある。

そんなわけで雨の降る昭和の日、公開初日の飯塚健監督『FUNNY BUNNY』を鑑賞するべく池袋に降り立った。池袋シネマロサは座席の販売状況が公式サイトで確認できないので、余裕を持って上映時間より1時間ほど早い午前10時半頃に到着。今回の緊急事態宣言により千鳥座席に戻しているため、満席の可能性も考慮していたのだが、難なくチケットをゲットする。

アイスカフェオレを頼んだのにホットが出てきた近くのモリバコーヒーでミホノブルボンを育てて上映までの時間を潰したのち、改めて劇場に向かう。上映されるスクリーン1は2階にあり、階段を上がったところでスタッフにチケットを見せたあと手首での検温をされるのは従来通り。緊急事態宣言中だからといって更に特別なことはしていない模様。

『FUNNY BUNNY』の観客は、ざっと20名ほど。スクリーン1の総座席数が193席なので経営が心配になるレベルだが、よく考えたら平時からこんな程度か。池袋シネマロサの場合、そこそこメジャーな作品には普段からあまり人が入らず、座席が埋まるのは自主制作などの超小規模作品で舞台挨拶付きのとき、みたいな印象。おそらく映画の関係者が多く来るのだろう。壇上に溢れんばかりの大量の人間を乗せるロサおなじみの舞台挨拶の方式は現状では中止せざるを得ず、そこが痛手になっているかもしれない。

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千鳥座席になるように
テープで区分けされている

客層だが、妙齢の女性が多い。独り客が半分以上で、上映前も静かに座っている方がほとんどだが、ロビーで大きな声で喋っている4~5名の集団がいた。もちろんマスク着用してるし、別に咎められることではないのだけれど。ミニシアターは劇場よりもロビーのほうが感染リスクが高いんじゃないかと前から思っている。

ともあれ、別に緊急事態宣言だからといって何かが変わるわけでもなく、まあいつものロサでした。外の人通りが少ないのは雨だからかもしれないし、祝日とはいえ日中の池袋西側は以前からたいして人なんかいなかったかもしれない。鑑賞後、映画館から駅に向かう途中に異様な大行列があって何事かと思ったら、PCR検査センターだった。区画を一周していて、さらに地下鉄の階段まで伸びていた。ちょっとびっくりしたので行列の写真を撮ってTwitterにアップしたら、TBS『ニュース23』で、その写真が使用されたのだった。

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この写真がニュースで使われた

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下高井戸シネマ
2021年5月1日(土)

 

下高井戸駅のすぐ近く、マンションの2階に位置する1スクリーンのみの映画館。新旧洋邦問わず、様々な映画を取り扱っているが、少し前に公開された新作映画を上映することが多い(現在も『罪の声』など上映中)ので、ムーブオーバー館としての性格が強いか。実を言うと訪れたのが今回で3回目なので、普段と緊急事態宣言中とで何が違うのかはボクには判断できなかったです。

朝10時から上映されるルキノ・ヴィスコンティ監督の名作『異邦人』デジタルリマスター版を鑑賞。池袋シネマロサと同じく、チケットは窓口販売のみ。円形状に穴のあいたガラス(刑務所の面会室みたいなやつ)が設けられた、昔ながらのカウンターでチケットを購入する。感染予防対策はとっくの昔から行われていた。初回のチケット販売は上映開始の30分前だというので時間ちょうどに行ってみると、すでに10人ほど並んでいた。

チケット販売開始時刻の時点で、ロビーからスクリーンのある劇場内まで解放されていた。これは朝一の初回だからであって、次の上映からはチケットに記載された番号順に呼ばれて入場する方式のはず。これだとどうしても人の流れを停滞させてしまうし、ロビーが狭いのもあり、その時の密状況は気になる。ちなみに新宿のK's cinemaも同じ方式だったのだが、ロビーで密になるのを防ぐためか、つい最近になって指定席&ネット予約可に変更していた。このK's cinemaの方向転換は、けっこう驚いている。

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下高井戸シネマで職業体験した小学生による壁新聞
読んでみたら意外と面白かった

客席は(千鳥座席などではなく)全て解放されていて、全席自由席。真ん中に縦に通路があるタイプなので、中央から席が埋まる。観客は、比較的中高年が多めだが、老若男女幅広く40人以上はいた。126席に40人だと、けっこう埋まっているように見える。この日が映画サービスデーで一律1100円と安いのも客が多い理由だろう。

独り客がほとんどで、男女の2人連れが数組。もっとも、知り合い同士でも一席空けで座っていて会話もほとんどしない方もいる。誰も頼んでいないのに、観客が自ら勝手に一席空けで座っているのは興味深い。我々は調教されたのか。なお、上映前のスクリーンには、ミニシアターエイドのお礼の映像(クラファンした人の名前が延々と出るやつ)が流れていた。これ見るの久しぶり。

下高井戸シネマは、アナウンスが聞こえるほど駅から近いにも関わらず、駅前というよりは商業地と住宅地の境目みたいな落ち着いた場所にある。そんな周囲の雰囲気とか、どちらかというと純文学的な傾向の強い公開作品の方向性などから、愚直な生真面目さを感じる。良くも悪くも、都内の名画座やミニシアターに感じられるノリの軽さとか、反体制的な熱さが無い。そんな「クラスの大人しい優等生」みたいなタイプの映画館が、国や都の方針に逆らって緊急事態宣言中も営業しているところに、現在の異常性を見てしまうわけだが。

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大阪王将 下高井戸店の
下高井戸炒飯セット
 

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ユーロスペース
2021年5月3日(月・祝)

 

東京のミニシアターの雄として、円山町に君臨する3スクリーン(ユーロライブを含む)の映画館。支配人は新聞取材にて、1日2万円の協力金に対して「香典のつもりか」と言い放ち、話題となった。ずっとミニシアターエイドを率いてきたスポークスマンが求心力を失って以降は、その後任としての活躍も期待される。しかし渋谷スクランブル交差点から東急文化会館までの道のり、祝日の午後とは思えないほど人が少ない。小池百合子の目論見は、ある程度は成功しているのだな。

映画館の入口前では、5月8日から公開する『なんのちゃんの第二次世界大戦』の関係者(たぶん、監督)がチラシを配っていた。手渡しはNGなので、箱に入れたチラシから通行人が取っていくスタイル。受け取ったらめちゃくちゃ感謝された。緊急事態宣言中での公開を決行するらしく、その英断は支持したい。(後日の政府発表により、公開期間がすべて緊急事態宣言中となってしまったようだ)

15時25分上映開始の『砕け散るところを見せてあげる』を鑑賞。すでにネット予約をしていたので、タッチパネルにてチケットを発券(ちなみにユーロスペースが全席指定席&ネット予約可にしたのは『この世界の片隅に』の大ヒットがきっかけらしい)。ロビーに待ちの観客は10人もいなかったが、開場時刻になったので手首の検温をして入場・着席してからは、後から次々と人が入ってきた。ユーロスペースのロビーは普段から人が密集する傾向があるので、開場時間に合わせて来場し、密になるのを避けた観客がけっこういたのかも。スクリーン1は元々の92席を千鳥座席にしていて、そこに40人くらいの観客がいたので、満席に近い大入りと言っていい。

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意外にも密ではなかったロビー

それにしても、この客の入りは意外であった。『砕け散るところを~』は公開からすでに1ヶ月が経っていて、出演者のファンなど観たい人はすでに観ている作品である。それにユーロの場合、2日前の5月1日もしくは翌日の火曜日であれば、チケット代金が安くなるのだ。通常料金のエアポケットみたいな日に、ユーロスペースの本流ではないメジャー寄りの邦画(ユーロ公開作は小規模の洋画と超小規模の邦画がメイン)をわざわざ観に来る人が、そんなにいるとは思わなかった。

観客は20~30代くらいの若い人が多かった。女性が4~5割くらいと目立つ。ふと思ったのだが、都内在住の映画館好きでも、ほとんどシネコンしか行かない人は少なくない。そんなシネコン勢が、ここしか空いていないからと普段は行かないミニシアターに来たとして、戦時中の沖縄県知事のドキュメンタリー映画を観るよりも、シネコンでもかかる程度にはメジャーな作品を選ぶのは心理的道理か。隣のスクリーンでは『花束みたいな恋をした』を上映していたが、こちらも大入りだったと予想される。

なお、ボクは映画館で隣に知らない観客が座っても気にならないタチなのだが、ユーロスペースに限っては両隣に人がいない現状の千鳥座席を快適だと思ってしまうのは事実。なんせ、ユーロスペースは椅子の幅がとにかく小さい。手掛けの内側に両肘を収めようとすると非常に窮屈になってしまい、身体がガチガチに固まるので。あと、男性用小便器が使いづらい。すみません、ただの愚痴です。

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シネマヴェーラ渋谷
2021年5月3日(月・祝)

 

ユーロスペースにて鑑賞終了後、平時の祝日であれば満席で入店できない近くのタリーズに入り、スーパークリークを育てて時間を潰したのち、再び同じビルに戻る。ユーロスペースがあるのは3階だが、次は4階にある名画座・シネマヴェーラ渋谷が目当てだ。

洋画邦画を問わず、おおよそ1ヶ月の期間によるオリジナルの特集企画を組んで、けしてメジャーではない古い作品を上映している1スクリーンの名画座。かつては1日2本を交互に上映していて観客は1日何度でも観てよい流し込み制だったが、少し前に1本ごとの入れ替え制に変更した。現在は「Men & The Guns」特集と銘打って、リチャード・フライシャーなど3人の映画監督によるB級アクション作品を1日4~5本、日替わりで上映している。なお、緊急事態宣言を受けて時短営業に切り替えたため、最終回の上映は急遽中止になっている。

ここは全席解放の自由席で、整理番号順に入場する方式。ボクがロビーに着いたのと同時に開場が始まり、「カウンターでチケットを購入&手首で検温する人たち」と「劇場入口前で自分の番号が呼ばれるのを待っている人たち」の、2つの滞留ができていたが、適度にディスタンスは保たれ密というほどの状況は起こらず、さくさくと人は流れていた。スタッフの手際が良いのはもちろんだが、観客のほうもスムーズな人の流れを作るのが上手くなっていないか。ここは常連客が大半だろうから、慣れているのかもしれない。

アンソニー・マン監督の『必死の逃避行』という1947年の映画を鑑賞。ギャングに逆恨みされた主人公と新婚の妻の逃避行を描くが、ギャングのほうが頭が悪いので安心して観られる、いかにもなプログラムピクチャー。観客は60人以上いて、142席のほぼ半分が埋まっていた。客層は高齢者と若者の半々で、男性が8割くらい。大半は独り客。これは普段の名画座の客層そのまま。特に、シネマヴェーラ渋谷と神保町シアターは、客層の構成がよく似ている。

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夜の最終回を中止する旨の張り紙

下高井戸シネマと同じく、調教済みの観客たちは奇麗に一つ空けで座っていた。映画館では知らない人の隣に座ったらマナー違反だ、みたいな雰囲気が発生しつつあるかも。禁止事項ではないのに観客が勝手に空気を読んで新たなマナーが発生するのは、良くない傾向でもあるが。ただ、シネマヴェーラ渋谷の椅子はユーロスペースと同じなので、単に快適に座りたいだけなのが一番の理由なのかもしれない。

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池袋新文芸坐
2021年5月5日(水・祝)

 

ご存知、東京どころか日本における名画座の代表的存在として長い歴史を誇る映画館。世間的にはメインストリームから外れたサブカル街道(映画秘宝的とでもいいますか)を突っ走っているイメージだが、その手の企画が注目されがちなだけで、王道エンタメ大作の2本立て上映など、真っ当なムーブオーバー館としての活動も並行している。近くのグラシネやTOHOシネマズに行ったついでに寄るのも乙な映画館だと思うけど、シネコン勢に情報が届いているかどうか。

池袋駅東口から映画館付近に向かう道中、とても緊急事態宣言中とは思えない大量の人間がわらわらと路地に溢れていて度肝を抜かれた。午前10時になる直前だったので、一帯に密集するパチスロ店の開店を待つ人々だったわけだが。池袋新文芸坐の出入口付近にも長蛇の列があり、これも下階のパチスロ店の客。数日前にPCR検査の行列に驚いていたばかりだが、その比じゃなかった。

子供の日なのでクローネンバーグ監督『ザ・ブルード 怒りのメタファー』『スキャナーズ』の2本立ての通常上映を鑑賞。オールナイトなど特別上映は前売り券があるが、通常上映は当日券のみ。自動券売機の前にスタッフが立っていて、現金を渡すと代わりに買ってくれるシステム。別に感染症対策ではなく、昔からチケット購入の行列が発生したときは、この対応。おそらく、これが一番早く列を捌けるのだろう。

そのまま目の前のカウンターにチケットを渡して、顔面サーモで検温したら入場。チケットは回収されちゃうので、コレクターとしては残念。すでに解放されている劇場内に入ると、本気で驚いたのだが、朝一なのに観客は200人は超えていた。全部で266席と緊急事態宣言中に営業している都内映画館の中では断トツで座席が多いのだが、相当な大入り。白髪交じりの中高年男性が比較的多いが、老若男女が幅広くいる。若い女性の独り客も目立つ。すごいな、クローネンバーグ。

しかも、朝一の『ザ・ブルード 怒りのメタファー』を観た人のほとんどは、次の『スキャナーズ』も続けて観るわけである。そこに『スキャナーズ』から観る観客が単純にプラスされるので、2本目は266席がほとんど埋まっていた。休日の池袋新文芸坐では珍しくない光景なんだけど、今の時期だとさすがに圧巻。知らない人の隣に座るのに、新幹線で座席を倒す時のように「よろしいですか?」と確認している人もいた。必要ない気づかいだと思いますよ、それ。新文芸坐の椅子は大きいし。

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新文芸坐のバミリは解りやすい

さて、池袋新文芸坐の抱える大きな問題。劇場内では飲み物はOKだが食べ物は禁止で、腹を満たすためにはロビーか一旦建物の外に出る必要がある。外に出るには外出券を受け取らなくてはならず、なかなか面倒。1本目と2本目の間はちょうど昼時だったので、ロビーの狭い一角(かつての喫煙所)にて持参したパンやおにぎりを頬張る観客が10名以上も密集していた。劇場内で食べるより、むしろ危険性は高まっている気がしてならない。密を避けるためか、薄暗い通路の隅に立ってひとりパンを食べている女性もいた。霊かと思った。

池袋新文芸坐は266席を全席開放しており、劇場内の観客が長く留まる2本立てやオールナイトも行っているなど、おそらく大きな決意を持って"通常通り"を貫いているのである。それは素晴らしい信念ではあり支持したいが、その一方では、今回取り上げた中でロビーの密状態が最も心配になった映画館でもある。スタッフの誘導や観客の自主的な配慮は充分に機能しているし、現状ではこれが最善なのは重々に承知しているが、それでも「感染の恐怖」を感じたことは付記しておく。とりあえず、食事のルールは再考したほうがいいかも。

ちなみに余談だが、鑑賞後にサンシャイン通り方面を歩いてみたところ、渋谷と同じく祝日にしては人が少なかった。しかしロッテリアやカフェドクリエに入ってみると満席に近く、しかもマスクなしで大声で会話するグループがたくさんいた。あちこちに規制が及ぶ中で、ファーストフードやコーヒーチェーンがあまり問題視されていないのはなぜなのか。

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カフェドクリエでは
こんな札を渡された

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キネカ大森
2021年5月6日(木)

 

緊急事態宣言中でも営業を決めた都内映画館の中で、もっとも意外だったのがキネカ大森である。というのも、キネカ大森は西友大森店のビルの5階にあるのだ。たとえばアップリンクの場合、渋谷は営業するがパルコの地下にある吉祥寺は休業するなど、商業施設の一角を間借りしている映画館は、テナントだけでなく家主の意向も関わってくる。キネカ大森が営業しているということは、西友が「映画館は生活に必要だ」と判断したわけだ。しかも、テアトルシネマグループの中では例外的に営業しているので、テアトル以上に西友の強い意志の表れかもしれない。知らないけど。

そんなわけで、地理的な事情で滅多に行かないキネカ大森へ久しぶりの見参。西友大森店の5階は主に飲食ゾーンだが、敷地の半分はパーテーションで封鎖され、営業中の数店舗も昼時にもかかわらず閑古鳥状態。まあ、カレンダー上は平日だからかもしれないが。やけに照明を抑えられた薄暗い飲食ゾーンを突き抜けると、奥にキネカ大森の入口がある。中に入ると、急に明るい。

ここのロビーは適度にオシャレにまとめられていて、広々と開放的な空間である。全部で3スクリーンあるが、それぞれ134席、69席、40席と座席数は少ないので、ロビーが密状態になる危険性は他と比べれば格段に低そうである。上映までの時間つぶしのために、あちこちに本が置いてあるのが特徴。京極夏彦『魍魎の匣』まであるが、それは映画の待ち時間に読める代物じゃない気もする。

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開放的な空間のロビー

壁に貼られていた新聞記事を見て驚いたのだが、キネカ大森は開館した1984年の段階で「シネマ・コンプレックス」と呼ばれていたという。日本初のシネコンは1993年開業のワーナーマイカル海老名(現・イオンシネマ海老名)というのが定説だが、それより9年前の新聞に「シネマ・コンプレックス」と記載されているのであれば、歴史の修正が必要であろう。今とはシネコンという言葉の意味が違うのかもしれないが。というか、シネコンの明確な定義って存在しないのだけれど。福島県の映画館・まちポレいわきが「日本で一番小さなシネコン」を自称しているが、それを否定できる根拠は無いのだ。

設立当時のキネカ大森がシネコンと呼ばれたのは、新作のメジャー作品を上映するロードショー館、小規模作品を上映するミニシアター、そして旧作2本立てを流し込みで上映する名画座という形態の異なる3つのスタイルを、それぞれのスクリーンで分担したからである。これは画期的であるし、他に存在しないと思われる。何より、こんな面倒くさいスタイルを30年以上経った今でも続けているのは驚く(入れ替え制と流し込み制を隣同士で上映するなんて、観客の管理だけでも大変だろうに)。かくして、緊急事態宣言中に『名探偵コナン 緋色の弾丸』を上映している都内唯一の映画館となったわけだ。

今回はミニシアター形式のスクリーン2で、アメリカのドキュメンタリー映画『ブックセラーズ』を鑑賞。チケット購入時の検温は、機械に掌をかざす初めてのパターン。しばらくロビーで待った後、上映10分前になったので劇場内に入る。なお、たまにここで勝手にスタッフをやっているという片桐はいりさんは、この日はいなかった。観客は15名ほどで、全部で69席からすると、やや少ない印象。高齢者の男性が主で、若い男性(といっても30代くらい)が4~5名。女性は高齢者のみで、2~3名。今回は、見事に独り客オンリーだった。

この日は平日であるし、テアトルシネマの会員だと安くなる木曜日でもあるので、それらを反映した客層なのだろう。とりあえずここで公開されている映画なら観てみようか、という感じの「近隣に住んでいる映画館のファン」が、立地からすると多い気がする。カウンターのスタッフに気さくに話しかけているお爺さんもいたし。まあ、そういう人はどこでもいるけど。

平時を知らないのでこの日だけの印象だが、観客は多くなくゆったりと鑑賞できるし、ロビーは広くてある程度は長居できる環境だし、大森駅周辺も(おそらく普段から)そんなに混雑していない。薄暗い通路の奥にある「隠れ家的な店」みたいな雰囲気を含めて、都会の密を避けるために逃げ込むにはうってつけの場所かもしれない。

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ドラえもんがコナンを宣伝しているみたいになってた

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ラピュタ阿佐ヶ谷
2021年5月9日(日)

 

 阿佐ヶ谷北側の商店街の奥に位置して自己主張の強い外観の建物がラピュタ阿佐ヶ谷。1か月程度の期間で、昔の邦画を集めたオリジナルの特集を組むスタイルの名画座である。似たタイプの神保町シアターやシネマヴェーラ渋谷と比べると、ほんの少しだが、特集内容にアバンギャルドな方向性を感じる。その割には観客の年齢層の平均が他より高く思えるのは不思議だが。

現在は、昨年8月に亡くなった脚本家・桂千穂の特集を行っている(他にモーニングとレイトでは別の特集を上映中)。実は前日の土曜日に訪れる予定だったが、『蔵の中』が上映2時間前の時点で満席だったので諦めたのだった。満席なのは、上映後にトークショーがあるからかもしれない。

そんなわけで翌日の日曜日。これならそんなに客は入らないのではないかと、にっかつロマンポルノ映画『ズームアップ 暴行現場』にする。といっても前日のことがあるので上映の1時間半前に着いたら、その時点で整理番号43番だった。全部で48席なので、ギリギリではないか。え、これ、そんな大人気作品なの?

ともかく上映まで時間が空いた。阿佐ヶ谷駅周辺のコーヒーチェーンやハンバーガーショップは昼前のため混雑していて飛沫感染が怖かったので、一旦青梅通りまで歩いて客の少ないミスタードーナツに入り、グラスワンダーを育てて時間を潰したのち、再び戻る。ラピュタ阿佐ヶ谷は1階がロビー、外階段を上がった2階が劇場になっている。座席数を考えれば、ロビーは比較的広く、全体の空間デザインが統一されている。「木の温もりで覆われた空間」って雑誌の紹介文に書かれそうな、そんな感じ。

で、客層だが、見事におじさんだらけ。おじいさんが数人で、あとはおじさん。総白髪の人は数名で、あとは白髪が少し混じる黒髪の人だらけ、といえばイメージしやすいか。そんな無数のおじさんたちが、一言も喋らず洒落たロビーを覆いつくしているのである。にっかつロマンポルノなのだから正しい客層だけれど、ちょっと変な光景。

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木の温もりが伝わる的なロビー

10分前になったら階段下のスタッフが整理番号順に呼び込んでいくスタイルで、おじさんがひとりまたひとりと外階段を上がっていく。48席(部屋の後ろに予備の椅子が用意されていたので、もう少し多いかも)と今回取り上げた中では座席数は最も少ないのだが、それにしても劇場内に入ってみると、妙に圧迫感を感じる。椅子の座り心地は良い(手掛けが固くないのがポイント)のだが。

というのも、ここの劇場内は天井が低いのである。床面が段差形状なので位置によって異なるが、天井高は3~4mくらい。一般的な住宅の居間より少し高い程度。他の映画館は、小さいところでも天井高は10mくらいあるので、えらく違う。最近は空気感染の危険性も言われ始めているが、だとすると部屋の体積の小ささは気になってしまう。もちろん、法律で定められた換気回数を守っている以上、感染リスクは他と同じように抑えられているはずである。

次の回で上映される『蔵の中』も、続けて鑑賞した。あ、ここは1本ごとの入れ替え制なので、料金はそれぞれ支払ってます。こちらは横溝正史原作の角川映画なので、先ほどより客層の年齢幅は上下とも広がっている。女性が7~8名。大半が独り客なのは変わらない。何ヶ所か座席が空いていたので、満席では無かった模様。

元々、ラピュタ阿佐ヶ谷という映画館は、外界の喧騒と遮断された非日常な空間となるよう計画されている。奥まった立地、洒落たロビー、天井の低い劇場などなど、いずれも非日常の構成に作用している。そもそも、50人近いおじさんが狭い部屋に集まってポルノ映画を無言で観ている時点で、非日常でしかないのは自明なのだが。というか本来は映画館って、どうしようもない日常を少しの時間だけ忘れさせてくれるような、非日常を体感するための場所だったはず。ラピュタ阿佐ヶ谷は、そんな映画館本来の使命を今も貫いているのだと、今回訪れたことで改めて感じたのだった。

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阿佐ヶ谷アニメストリートだった過去が無かったことに

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まとめ

長々と書いてしまったが、読んでいる方の多くが知りたいのは次の一点だろう。映画館は感染のリスクが高いのか低いのか、どっちなんだと。ボクは感染症の専門家ではないので、断言は不可能なのだが、判断するための客観的な事実は提示できると思う。以下に箇条書きで並べてみた。

・程度の差はあるが、どこもそれなりに観客は入っている

・小さな映画館は独り客が大半を占めている

・客層は映画館によって偏りはあるが、全体としては老若男女問わず幅広い

・入場前に検温しているのは今回訪れた7つの映画館のうち5つ

・1年以上もこんな状況だからか、スタッフの対応は慣れた感じ

・観客も順応してきて、密にならない行動におのずとなっている

・ロビーは狭いので、映画館によっては密になりがちなところもある

 

やはり、独り客が大半なので、場内での会話が非常に少ないのは重要なポイントではないか。マスクは当然として、数少ない2人連れやグループ客も、必要最低限のボリュームでしか喋っていない。また、場内でほとんど喋らず外に出てから会話を始めたので「あ、この人たちって知り合いだったんだ」と気付くことも何度もあった。それくらい、観客は会話による飛沫感染に気を使っている。

ただ、本文では池袋新文芸坐のときに触れたが、他にも「食事はロビーのみ」のルールを掲げている映画館はあった。昨年の一時期に映画館の共通ルールだったのを今でも継続しているからだと思うが、これってロビーがだだっ広いシネコンだから有効な策であろう。ロビーの狭いミニシアターや名画座では、逆効果としか思えない。これだけは再考を望む。

そんなこんなで、映画館文化が途絶えることが無いように祈りつつ、これからも生きていく所存です。

 

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