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【邦画】『コントラ KONTORA』ネタバレあり感想レビュー--「戦争の記憶」を家族を再生させるためのポジティブな要素として扱うのは目新しい

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監督&脚本:アンシュル・チョウハン
配給:リアリーライクフィルムズ、Cinemago/上映時間:124分/公開:2021年3月20日
出演:円井わん、間瀬英正、山田太一、小島聖良、清水拓蔵

 

注意:文中で中盤までの展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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インド出身で日本在住のアンシュル・チョウハン監督が、祖父との思い出を大元にして脚本を書いた、本人曰く"パーソナルな映画"。それを日本の片田舎(ロケ地は岐阜県)を舞台にして、低予算の日本映画にありがちな、ぎこちない家族の話にきちんと変換しているのは、単純に巧い。クレジット上は脚本もアンシュル・チョウハンのみで、優秀なアドバイザーがいた可能性もあるが、日本の風土に対して外部からの目線ではなく当事者として把握していたのは驚きだ。この映画を評するのに、「外国出身ならではの」みたいな陳腐な言い回しは成立しない。

高校生のソラ(演:円井わん)は、祖父が戦時中につけていた日記を手にしたまま家で亡くなっているのを発見する。ちょうど父(演:山田太一 『ふぞろいの林檎たち』の脚本家とは別人)が帰宅してきたので、とっさに日記を隠すソラ。日記の記述やイラストによると、どうやら祖父は近所のどこかに宝を埋めたらしく、ソラは学校をサボって心当たりのある山へ行っては穴を掘るようになる。

たまたま、戦時中の祖父の日記が発見されたことで現実が歪んでいく小説(原浩『火喰鳥を、喰う』)を読んだばかりだったので、祖父の日記を読んだためにソラが狂気めいていく展開はすんなり入っていけた。ただそれとは別に、日記の記述から「祖父がどこかに宝を埋めた」と読み取るのは難しい気もしたが(ボク自身は、ソラが穴を掘っている理由が最初解らなかった)。なぜ「鉄腕」という単語から、宝を想像するのか。ボクが何か見落としたのか?

一方、町には無言で後ろ向きに歩く謎の男(演:間瀬英正)が現れる。ある夜、ソラと口論しながら車を運転していた父は、その男を轢いてしまう。飲酒運転でもあった父は倒れている男を放置しようとするが、ソラに激高されたために家に連れ帰る。手当てをして一晩寝かせるが、翌朝早く、金を握らせて家から男を追い出す父。しかしソラはこっそりと男を連れ帰り、風呂に入れて食事を与えて(男は箸を使わず手掴みで食べる)、祖父の服を着せてから外に出す。

そしてソラは山に穴掘りにでかけるのだが、そのあとに父が帰宅。後ろ歩きの男が家に戻ってきた形跡を見て、ソラの不在に大慌てになる。河原にいた男を見つけて掴みかかるが、もちろん喋らない。とりあえず男を車に乗せて、近所を探し回ると、夜になって山から下りてきたソラを発見する。そこで父は日記の存在を知り、書かれたイラストから宝のある場所に思い当たる。だが父と険悪ムードの叔父も日記をパラパラと見ただけで全てを察知、抜け駆けして宝を先に奪おうと画策する。

で、宝の埋まっているであろう場所で主要人物全員が鉢合わせして、一触即発の雰囲気になったところで後ろ歩きの男が自分の頭を石で叩き始めて、「なんだこいつ~」(byジョイマン池谷)状態になった叔父は退散する。こうして展開を文字にしてみると、あちこち強引なんだけど、後ろ歩きの男を筆頭に全体的に抽象性が高い空気感なので、そんなに気にならない。言い忘れていたけど、本作は全編モノクロで、照明をほとんど使わず自然光だけで撮るのが得意なカメラマンによる映像である点も、抽象性に拍車をかけている

一応、ここまでが物語の中盤くらい。このあとの展開としては、宝として発見される戦時中のあるものが、不仲だった父子の関係を修復したりする。簡単に言うと、過去の戦争の記憶が現在の家族を再生させる話ですね。後ろ歩きの男も、時間を逆に辿っているから戦時中から来たのだとか、ぼんやりした存在ゆえ、どうにでもこじつけ可能だし。戦争を扱う際に、我々はどうしたって過去からは切り離すことができないと結論付けるのはありがちだが、それを非常にポジティブな形で提示したのが目新しい。

思い返してみると、もっとも映画の主軸でありテーマを担っていそうな後ろ歩きの男は、実のところコメディリリーフみたいな存在だったのが、なかなか面白い構成である。体中に電飾を巻いてはしゃぐとか、無意味に変なシーンもたくさんあるし。そういうインパクトを含めて、全体的には好ましい作品ではあった。ただ不満も少なくなくて、一番の問題は、さすがに上映時間142分は長すぎる。いくらなんでも後ろ歩きの男の存在感だけで保てられる時間ではなく、弛緩した印象は免れない。

上映時間が長くなるのは、アドリブ演技の長回しを頻繁に行っているのが一番の原因だろうけど、そこは作品の面白さを担保している部分でもある。だとすれば、いくつかのシーンを丸々削るくらいすべきだったかもしれない。後ろ歩きの男が市井の人々から奇異に見られるシーンが序盤に何度もあるが、ラストシーンとの辻褄を考えても、全て必要ないのではないか。本作のような抽象性の高い作品の場合、コンパクトにまとめたほうが、メッセージ性も伝わりやすくなりそうなのだが。
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