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【邦画】『劇場版・打姫オバカミーコ』ネタバレあり感想レビュー--須田亜香里の漫画的な誇張フェイスが意外にもハマっていた

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監督&脚本:松田圭太/原作:片山まさゆき
配給:アイエス・フィールド/上映時間:94分/公開:2021年2月5日
出演:須田亜香里、萩原聖人、百合沙、小田あさ美、日比美思、片山まさゆき、逢澤みちる、天木じゅん、じゃい、内山信二、波岡一喜

 

注意:文中で終盤の展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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ネット配信ドラマの総集編が、ついに映画館に登場! まあ、最近は『アンダードッグ』とか、アニメだけど『日本沈没2020』もあるので、それ自体が一概に悪いわけではないが、時代ではある。原作は片山まさゆきの麻雀漫画で、ABEMAプレミアムにて全5話で先行配信されたドラマの総集編。もっとも本来は劇場公開と配信を同時に行う予定が、昨今の事情で映画のほうだけ遅れてしまったらしい。つまり劇場版ありきの企画なので、総集編にありがちな長い話を無理に切り詰めたおかしさは、それほど感じなかった。なお、配信ドラマのほうは未見です。

池袋シネマ・ロサにて1日1回の上映。てっきりガラガラかと思いきや、(千鳥座席とはいえ)けっこうな客入りで驚いた。しかも、あちこちで「お久しぶりです、来てたんですね」と挨拶が交わされている。もしかして、ボク以外は全員が顔見知りなのか? 麻雀つながりなのか、須田亜香里つながりなのかは判然としなかったが。

さて、映画の中身だが、麻雀のルールを知っている観客しかいない前提なのは面食らった。この場合だとどの牌を切ればいいのかとか、CGを使って説明したりする。そんなに麻雀映画をたくさん観ているわけではないが、ここまで門外漢を完全無視する作品は珍しい。麻雀好きには嬉しいかもしれないが、須田亜香里が目当ての観客はどう思っているのだろう。

ボク自身は麻雀が全く解らないので、これから述べることはピントがずれているかもしれない。もっとも、麻雀用語が何も注釈なく出てきても、劇中の様子からどういうものなのかそれなりに予測することはできる。なので実際のところ、あまり置いてけぼり感は無いのだが、それより引っかかるのが麻雀プロの資格とかランクの扱いなのである。

主人公のミーコこと丘葉未唯子(演:須田亜香里)は、JMP(日本麻雀プロフェッショナル)所属のプロ雀士だが、腕前は素人レベル。ミーコは、雀荘で偶然出会った昨年の風王戦王者・波溜晴(演:萩原聖人)に強引に弟子入りする。しかし波溜は退会届をJMP代表に渡していた。弟子を取るにはプロ雀士でなくてはいけないので退会を撤回しようとするが、ライバル雀士の我鷹愁(演:波岡一喜)が勝手に退会を受理していた。

波溜は我鷹に頭を下げて、格下のD2リーグ所属にしてもらう。そして、もしもミーコが女流リーグ戦で優勝したらAリーグに戻してもらうと約束を取り付ける。だが、女流雀士はミーコ以外の全員が我鷹の弟子であり、ミーコを決勝に上げるなと命じられている。しかも決勝では前年王者で圧倒的な強さを誇る馬杉寧香(演:百合沙)が待ち構えている。

王道のサクセスストーリーのための御膳立てだが、気になる点が多い。我鷹は実力が日本トップとはいえ、ただの雀士のひとりに過ぎない。なのに、他人のランクを好き勝手に決める権限があるのは何なのか? あと、ミーコがプロ雀士になれたのは「ルックスで選ばれた」とか言われてるんだけど、麻雀プロの世界ってそんな適当なの?

将棋だったら、羽生善治が独断で藤井総太の段位を決めるとかありえないでしょう。どんな競技でも、プロの資格とかランクは実践による勝敗によって決定されるのが普通だ。麻雀だけ例外なのかと、気になって原作を読んでみたが、この辺の設定は同じだった。もっとも、まずJMP自体が架空の団体だったりするので、あくまでフィクションの世界観であるらしいが。生徒会が全てを牛耳っている学園アニメみたいなものか。

ミーコは女流リーグ戦の予選初日にて、他の女流雀士からイジメを受けて、調子を崩して惨敗する。まあ、対局中のマナーがなってないのをキツく指摘されているだけなので、それはイジメなのか微妙だが。休憩の合間に波溜からアドバイスを受けてからは、ミーコの後ろに波溜の幻影か何かが立つようになる。牌山を間違えたために「それは違いますよ」と言われて落ち込むミーコに、「それはイジメじゃない。ミスを指摘されただけだ」と波溜が後ろからツッコんでいるのは、少し面白かった。

しかしこの、対局中のミーコの後ろに波溜の姿があるという演出表現は、どう解釈すればいいのだろう。この場合の波溜は何者なのか。ミーコの脳内幻想というのが最も真っ当な解釈だが、波溜はミーコにアドバイスするわけではなく、ミーコの打ち方に対して「そうだ」とか「違う」とか言っている。完全に自我があるので、波溜が幽体離脱しているのだろうか。

女流リーグ戦の決勝戦の直前にミーコが自信喪失して失踪するという展開のために挿入されたペア戦が映画的に最も大きい見せ場にされているなど、エピソードのボリュームバランスが悪い点は見受けられるが、それでも決勝戦が始まって「ミーコが再び前を向いた瞬間」でブツッと終わらせたのは、脚本のセオリー無視にも関わらず清々しさがあった。それと、良い意味で裏切られたのは、全ての役者に関して、マンガ的なキャラクター演技が絶妙にハマっていたのだ。

波岡一喜が達者な役者なのはご存知の通りで、今回は典型的な嫌味な悪役であるが、そこに少しだけ愛嬌を混ぜて不快感を下げる手腕は、さすがだった(原作だと、序盤はただの嫌な奴だが、正しい改変だろう)。腰巾着の内山信二との掛け合いも、ただ馬鹿にしているだけではなく、(おそらくアドリブのつけ足しで)彼に対する愛着を垣間見せるような、その匙加減の絶妙さ。「馬杉寧香、優勝しろ。そして、俺と寝ろ」という意味不明な脳内セリフも、波岡一喜の創造した絶妙なバランスのキャラだからこそ納得させられてしまったし。

そして、須田亜香里である。バラエティ番組の出演時にも感じているが、この人は普段から喜怒哀楽の表情が非常にマンガ的な誇張フェイスなのである。特に哀しみを表現するときに顕著なのだが、アイドルらしからぬ「顔が崩れる」状態を自然にできてしまうのだ。特定ジャンルの邦画では戦力になりそうな存在だが、どうだろうか。ギャグ強めのラブコメ漫画の実写化とか、向いているんじゃないかな。『ぐらんぶる』みたいなの。
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原作漫画

打姫オバカミーコ (1) (近代麻雀コミックス)

打姫オバカミーコ (1) (近代麻雀コミックス)

 

 

 

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