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【邦画】『ネズラ1964』ネタバレあり感想レビュー--仲間内でわいわいやるだけの映画には勿体ないほど面白い素材なんだけどなあ

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監督&脚本:横川寛人
配給:KADOKAWA/上映時間:60分/公開:2021年1月16日
出演:螢雪次朗、菊沢将憲、米山冬馬、小野ひまわり、斉藤麻衣、大迫一平、内田喜郎、佐藤昇、佐野史郎、古谷敏、マッハ文朱

 

注意:文中で終盤の展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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時は1963年(ややこしいのだが、劇中の舞台はタイトルの前年)、映画会社「太映」の社長・ナガノは、大ヒットしているライバル会社の怪獣映画に匹敵するものを自分たちも作ろうと提案する。そこでの企画会議に参加した特技監督のツカジによる、実際の生きたネズミをミニチュアセットに置いて撮影するアイデアが採用され、正月公開に向けて撮影が始まったもののトラブルが相次ぎ…。

映画会社の名前が「太映」で、蛍雪次朗が演じる社長のフルネームが「永野雄一」なので、もちろんモデルは大映だし、ライバル会社の大ヒット怪獣映画がゴジラを指しているのは自明ですね。それ以前に、大映がガメラより前に『大群獣ネズラ』という怪獣映画を撮ろうとして頓挫した件を知っていればタイトルの時点で内容は予測できるし、観客のほとんどは事前にあらすじに目を通しているであろう。諸々の事情を把握している観客を対象とした作品である。

これは昔から引っかかっているのだけれど、「大映」を「太映」、「永田雅一」を「永野雄一」など、元ネタが丸わかりの名称変更って、なんか嫌なのである。風景に映る看板とかなら事情も解るが、物語上重要な固有名詞でこういうことやられるとさあ。別に本作の場合は実名でも問題ない気がするが、フィクションだと強調したいなら、名称は完全に変更して、気が散らないようにしてほしい。トラブルを避けるつもりだとしても、たとえば永田雅一の親族から抗議されたときに、この名前では「これは架空の人物です」とは主張できないだろうし。

さて、本作は60分しかないので、『大群獣ネズラ』の制作から頓挫に至る過程を早足で見せるわけだが、撮影時にネズミが思うように動かなかったりなどして、スタッフが疲弊したり苛立ったりする短いシーンが並ぶのみ。展開はあるが物語と呼べるほどのものは無く、個々の断片が順繰りに提示されるだけで、なんとも味気ない。ある時から撮影時にスタッフがガスマスクをつけるのだが、その理由は説明してくれないとか、「どうせみんな知ってるからいいでしょ」感が強い。なんとも内輪というか。

で、マッハ文朱演じる抗議団体の代表が不衛生だと撮影現場に乗り込んできて、社長の決断で制作は中止。撮影に使用されたネズミは生きたまま焼却処分される。その様子を離れたところで見守っていた社長が、「マンモスネズラ」(本作にて新たに登場した巨大怪獣)の幻影を見てパニックに陥る。いや、劇中でのナガノ社長って大して何もしておらず、カリカチュアされた「社長然とした出で立ちの人」でしかないのだが、なぜ映画の締めを担っているのか。『大群獣ネズラ』に最も思い入れがあるのは実質的な主人公である特技監督のツカジなので、幻影を見るべきは彼ではないのか。

で、社長がガメラの着想を得たところで映画自体は終わり、エンディング曲(ここもややこしくて、エンディング曲が2つあるのだが、それはともかく)が流れるのだけれど、この『ネズラマーチ』という曲を高らかに歌い上げているのがマッハ文朱なのね。この人は劇中で『大群獣ネズラ』を制作中止に追い込んだ役だよ。そんな人に「ネズラ! ネズラ!」って歌われても、どういう気持ちになればいいの?

社長を演じた蛍雪次朗も、マッハ文朱も、ガメラとは縁の深い役者なのである。その前提を知っていれば、最後に花を持たせているのも理解できるけど、映画自体の構造的なおかしさよりもファンサービスが優先されているのは頂けない。こういうことをしている時点で、内輪のノリでしかなく、そもそも外側の人間は視野に入っていない。まあ、観る前から内輪向けの映画なんだろうとは解ってはいたけど、それでもさあ。

史実としての『大群獣ネズラ』の撮影状況や制作中止の流れは、ちょっと検索してみただけでも、非常に興味深いものがある。もしも『大群獣ネズラ』が完成していて正月映画として公開され、ゴジラに対抗するものがガメラではなく哺乳類の群れだとなっていれば、日本人の脳内に根付く怪獣の固定概念も違ったものになっていたかもしれない。それなりの予算によって『大群獣ネズラ』制作の内幕を描く映画が出てくれば、ぜひ観たい。これ、内輪のノリで済ませていい案件ではないのではないか。
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