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【邦画】『おとなの事情 スマホをのぞいたら』ネタバレあり感想レビュー--暴露される秘密がどれも予想の範疇を超えないので、ただただ味気ない結果に

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監督:光野道夫/脚本:岡田惠和/原作:映画“Pefettie Sconosciuti”
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント/上映時間:101分/公開:2021年1月8日
出演:東山紀之、常盤貴子、増岡徹、田口浩正、木南晴夏、渕上泰史、鈴木保奈美、室龍太、桜田ひより

 

注意:文中で終盤の展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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世界で最も多くリメイクされた映画としてギネスに載っているイタリア映画の日本版リメイク。年に一度のパーティーに集まった3組の夫婦と1人の独身男が、「夫婦の中に秘密があっていのか」という話の流れで全員のスマホを見せることになる。そこにメールや着信が次々と届き、皆の秘密が露わになって大騒ぎに・・・というワンシチュエーション・コメディなのだが、先に結論を言ってしまうと、まったく想像を超える展開が出てこないので、ただただ味気無くて物足りなかった。

まず、吹雪の中でコンビーフを口にかきこむモノクロのイメージ映像のあと、登場人物の紹介を兼ねつつ、パーティーに向かう前の各人の様子が描かれる。いちいち指輪が光るCG演出を入れている時点で「あ、これ、ヤバいやつだな」と予測するが、姑とうまくいっていないとか、娘が母親である自分にだけ冷たいとか、わりかし定番の"不安の種"が観客へと説明される。

で、ダラダラと展開を並べても仕方ないので、露わになる秘密を先に言っちゃうけど、たとえば六甲絵里(演:鈴木保奈美)と隆(演:増岡徹)の医者夫婦。隆の元に娘の智慧(演:桜田ひより)から電話がかかってきて、実は母親に内緒で父親にだけ「妊娠していたかも」と相談していたと判明。娘は最初に「近くにお母さんいないよね?」と確認するけど、相手がスピーカー通話の時点で警戒しないだろうか。小さなことだが、全体的にこういう細部での詰めの甘さが目立つ。

娘が妊娠しているのに母親にだけ隠しているなら、まだ衝撃かもしれない(それでもベタの範疇だけど)。でもこれ、検査したら妊娠してなかったって結論なんだよ。家族間の問題ではあるけど、母親に報告する段階ではないという判断も客観的に見ておかしくないのでは。それはともかく、冒頭で仄めかされる六甲家の家族関係から推察できる予測を、何ら超えてこない回答が出てくるだけなので、どうにも盛り上がりに欠けるのが問題。

一方の、園山薫(演:常盤貴子)と零士(演:田口浩正)の夫婦。冒頭の"不安の種"描写の中で唯一、定番の範疇に収まっていなかったのが、常盤貴子が出かける直前にパンツを脱ぐシーンである。これはどんなオチなんだと期待していたが、出会い系アプリで知り合った男から「今日は一日ノーパンでいろ」と指示されていたからだって。もうちょっと、捻ってほしいんだけど。常盤貴子が全員の前でスカートをたくし上げるのはショッキングであるが、瞬間的な刺激でしかない。

そんな感じのネタバラシばかりで、予想の斜め上を行く展開がひとつも無く、本当に物足りない。暴露される秘密のほとんどが色恋沙汰なのも、想像力の貧困さを露呈しているだけみたいだし。ご想像の通り、パーティー参加者同士の逢引きも出てくるよ。あと、よくよく思い返してみると、どこもトラブルは夫婦間に収まっていて、家族以外の他人との関係性にはほとんど亀裂らしきものが発生しない。もうちょっと人間関係が複雑に絡んでもいいのに。観客の状況把握能力をめちゃくちゃ低く見積もっているのか。

本来なら場の特異点となるべきなのが、唯一独身の小山三平(演:東山紀之)で、前半は、実は浮気中の園山零士に頼まれてこっそりスマホを交換する。すると三平のスマホにヒデ(演:室龍太)という若い男からの明らかに恋人然とした着信が相次ぐ。わざわざ動画でメッセージを送ってくるのが気になるが、それはともかく、自分のスマホだと偽っていた零士が「実はゲイなんだ」と取り繕い始める。

この映画における同性愛の扱いに関しては、そこまで不快ではない。「理解は示そうとするが、どうしても戸惑ってしまう」という周囲の反応は現在のリアルであろう。同性愛者当人である三平が、男性の恋人を皆に紹介する勇気が無かったと演説しだすのも、まあ気持ちは理解できる。配慮が過ぎて、物語が平板になってしまっているのが難点だけど。

だがこの一連での最大の矛盾は零士がゲイだと偽る件で、浮気を隠すために三平とスマホを交換したはずなのに、男性の恋人がいると(嘘の)主張をしてしまっては、浮気している点では変わらないではないか。別に三平を何かから庇っているわけでもない。テンパって訳が解らなくなっているという解釈が正解かもしれないが、劇中で一番の「複雑な状況によるコメディ展開」なのに、どうしても素直に笑えない。

でまあ、すべての夫婦関係がグチャグチャになったあとで、彼ら7人の出会いの時の話になって盛り上がり、なんだかんだで元に戻ったかのようになる。台風で洪水が起こってビルの屋上の機械室に逃げ込んだ8人(六甲夫婦の娘を含む)が励まし合いながら2日間を耐えて「奇跡の生還」を果たしたというのが、その出会い。その時の面白エピソードで盛り上がって、まあ色々あったけどこれからもよろしくね的な大団円を迎える。

つまり、この「奇跡の生還」エピソードは、人間関係を修復するための大きな要素なのである。でもこのエピソード、断片的な会話から情報を整理して組み立てようとしても、具体的な状況がうまく頭に浮かべられない。まずこれ、台風なんだよ。待っていれば過ぎ去っていくものなので、一応の身の安全が確保されれば、そこまで絶望するほどでもない(食料も確保されている)。冒頭のイメージ描写とか会話の内容とかからだと、なんか吹雪の雪山で遭難したみたいな感じだったけど、「じりじりと死の恐怖が迫る」みたいな状況とは思えないんだよなあ。

しかも、新聞記事がちょっと映るけど、現場が立川って書いてあるのね。ビルの2階の床まで水が来たって言っているから、てっきり津波が起こったのだろうと思っていたが、内陸じゃないか。立川なんていう都心すぐのインフラ的にも重要な地域で、そんな大規模の洪水が起きたのなら、戦後日本史に刻まれるほどの大災害である。2年前に長野県の千曲川が氾濫したけど、人口や都市機能を考えれば、被害はその比ではないはずだし。3日後に8人が救出されたなんて、おそらくそこかしかこで起きていることで、本来は新聞記事にすらならないだろう。

パンフレットにて、脚本の岡田惠和は「ウエットだし、災害というものを設定に入れると、拒否感のある人もいるかもしれない。なので、台風や地震など、具体的な災害にイメージが結びつかないようにはしています」と語っている。なんだよ、わざとやっていたのか。実際の被害者への配慮は大切だけど、状況そのものを曖昧な描写にする手段は間違っている。しかも、人間関係を修復させるためのエピソードをぼんやりさせてしまっては、物語の力は急速に失われるだけなのに。同性愛もそうだけど、変に過剰な配慮が、物語の構築よりも優先されちゃっているのがなあ。

あと、ここまで一度も触れてこなかった向井杏(演:木南晴夏)と幸治(演:渕上泰史)の夫妻なんだけど、幸治が浮気相手のギャルを妊娠させた(しかも相手は大喜び)ってのは他の人とは比較にならないほど大問題なので、このあと更なる修羅場が訪れると思います。くわばらくわばら。
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元ネタの映画。

おとなの事情(字幕版)

おとなの事情(字幕版)

  • 発売日: 2017/10/05
  • メディア: Prime Video
 

 

 

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