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【邦画】『電車を止めるな! のろいの4.6㎞』ネタバレあり感想レビュー--銚子電鉄のお家芸とはいえ、自虐にも技術やセンスが必要なはずなのだ

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監督:赤井宏次/脚本:赤井宏次、竹本勝紀、寺井広樹、吉村みやこ/原作:寺井広樹
配給:銚子電鉄鉄道/上映時間:84分/公開:2020年12月18日
出演:コウガシノブ、末永百合恵、HINA、松本倖大、道井良樹、池上恵、相馬絵美、手塚涼大、秦野豪、村井美樹、木村裕子、柏木亮、谷口礼子、泣石家霊照、五十嵐はるみ、片岡馨、神部日龍、井上真悟、Toshiyuki Kurasawa、前田けゑ、タベタタカヒロ、江上大介、中田敦彦、日野日出志

 

注意:文中でラストの展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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千葉にあるローカル鉄道の銚子電鉄が、変電所の修繕工事の資金調達のために制作した映画。当初の映画公開は2019年の夏頃だったはずだが、延期を重ねた末に、2020年の年末にやっと公開された(こんなんで資金調達できるんだろうか?)。そのおかげで、タイトルのパロディも「今それかよ」と一周回って少し面白くなっている。なお、このタイトルは「銚子電鉄が倒産して電車が止まってしまうのを止めなくては」という意味であり、映画の内容と元ネタとは、ほぼ無関係でした。

公開館の池袋シネマロサのロビーでは、ぬれ煎餅や「まずい棒」といった銚子電鉄が販売している菓子が売られていて、なんだか不思議な光景。劇中でも言及されるが、銚子電鉄は本業の電車よりも菓子のほうが売り上げが大きく、もはや食品メーカーだそうな。入場特典として、「おとうさんのぼうし」という新発売の菓子と、銚子電鉄の一日フリー乗車券まで貰えた。当日料金2000円には、これも含まれていたか。

さて、あらすじ。まずは講演だか説明会だかの会場の模様から始まる。司会進行を務める村井美樹(本人)が「私はソフトな鉄道マニア、略してソフ鉄です」と無意味に自己紹介した後、銚子電鉄の社長・蔵元(演:コウガシノブ)が壇上に上がり、銚子電鉄の現状をプレゼンする。ぬれ煎餅の売り上げで何とか持ちこたえているとか、風車小屋を模した駅舎からは羽が無くなって単なる小屋になっているとか、そんなオモシロ自虐のプレゼンに、聴衆は大ウケだ。

プレゼンの最後に、赤字からの起死回生の一発として映画制作を掲げる社長(と、呆気にとられる村井美樹)。なのだが、社員たちから電車内で霊を見たという報告が相次いだことから、真夜中に電車を走らせて、その模様をネットで生配信する企画に、いつの間にか変更している。霊が出て盛り上がれば視聴者数も増えるだろうと、霊媒師やら怪談師やらに参加してもらうように頼みに回る社長。ちなみに、その道中で木村裕子(実在の電車アイドル)がファンイベントと称して線路周りの草むしりをファンにやらせていたが、これがギャグだとしても、アイドル稼業のおぞましい一端が垣間見えたようだった。

さて、幽霊電車決行の日。参加しているのは、生配信撮影係の木村裕子ヲタの青年、占い師の女(広瀬じゅずという名前。触れたら負けなのは解っているが触れてしまった)、怪談師の男という社長が呼んだメンバーと、心霊キャラをつけようとしている地下アイドル、謎めいたサラリーマン風の男。って、仕込みじゃない参加者は2名だけなのか。収益は生配信に頼っているとはいえ、日野日出志デザインのチラシも効果なく、こんな閑古鳥状態でイベント決行するのもなあ。

社長は数日前から体調不良だったため、当日の参加を社員から止められていた。しかし、銚子電鉄のアルバイトで霊感の強い女子高生とともに、こっそりと電車に乗り込む。幽霊電車のイベントでは、社員が幽霊やゾンビ(本来、この2つを同列に扱っちゃいけないけど)に扮して驚かすが、車内もネット上も白けるばかり。だが、徐々にマジの怪奇現象が起こりだして、車内はパニックになる。

一方の(途中下車していた)社長&女子高生は、生配信を見て想定外の状況になっていると知る。しかも、電車内には子供の霊も現れ、それがトラックに轢かれて死んだ社長の息子と同じ名前であった(物語の都合でトラック事故を出すの、そろそろやめないか)。そこから何度も「お父さんに帽子を渡す子供」の回想シーンが流れる。で、実は有能な陰陽師であったリーマン風の男が結界を張って悪霊と対決しつつ、生配信を通じて「銚子のどこかにある祠を元に戻してくれ」と視聴者に頼む。それを聞いた社長が、心当たりのある女子高生(映画序盤で祠が壊されるシーンがある)に案内されて、事態を収拾すべく奔走する。

ざっくりとあらすじを書いてみたけど、話の骨格自体は、そこまで悪くない。きちんと細部を詰めれば、それなりのB級ホラーにはなったと思う。悪霊メイクや床から出る無数の半透明の手などの心霊CGも、少ない予算にしては頑張っていて、『事故物件 恐い間取り』と比べても遜色ない(いや、ちょっと言い過ぎた)。細かいツッコミどころは無数にあるが、とりあえずはスルーしておく(というか、スルーせざるを得ない理由が、実はある)。本作の本当の問題は、この後の展開にあるのだ。

悪霊は退散され、電車は無事に止まり、某ブルース・ウィリス的なオチがあったあと、エンドロールが始まる。と思った瞬間、ここで急に舞台は、銚子電鉄の役員が勢揃いしている会議室に変わる。実は冒頭の説明会のシーンの後から、この会議室のシーンの直前までは、銚子電鉄が制作した映画の中身だったのだと、ここで明かされる。なんか最近の小規模映画、この手の入れ子構造が多くないか。この映画内映画は公開したものの大赤字で、役員たちから総攻撃を受ける社長。ちなみに、この会議室のシーン、静止画にセリフを重ねている謎編集なのだが、おそらく本物のお偉いさんなので、まともな演技ができなかったためだと思われる。

こういう、映画内映画の入れ子構造にしたことで何が起こるかというと、劇中でのおかしな箇所への指摘に意味が無くなるのだ。なんせ、本編は「大赤字になった映画の中身」として扱われているわけだから、矛盾点があろうが構わないし、むしろ内容がダメであればあるほど、設定としては正しいという逆転現象が起こってしまう。

※ もうひとつ、幽霊電車の生配信中は、「幽霊ヤラセバレバレ」とか「自称アイドル、かわいくない」とか、ニコ生風の動画コメント(かなり辛辣なもの)がつく。観客より先回りしてセルフツッコミが入るわけで、こちらが矛盾を指摘するのを阻止しているのだ。映画全体を通して、観客からのツッコミ防止のための過剰包装みたいな感じが目立つ。

いや、銚子電鉄なる特殊な形態の企業が制作したのなら、これもひとつの戦略として認めるべきかもしれない。自虐がひとつの芸になっている以上、「これは酷い映画という体なので、矛盾はあって当たり前なんですよ」とアピールすることで、未熟な部分を誤魔化すのもアリ、との考え方もできるだろう。だがそれならば、肝心の自虐に関してだけは手を抜いてはいけない。そこで冒頭の説明会のシーンを思い返してみると、社長が自虐ネタを言うたびに、聴衆の笑い声を挿入しているのだ。嘲笑とか含み笑いとかじゃなくて、純粋に面白いネタに笑っている、という演出。

これでは、自虐を鉄板ネタとして誇らしげに披露して、悦に入っているだけではないか。自虐にだって技術やセンスは必要なのだが、その前段階で躓いている。電車の売り上げを煎餅が上回るという事実自体は面白いかもしれないが、その事実をどう話芸に転換するかが、自虐を扱う上での腕の見せ所だろうに。笑い声を足して、さも面白いかのようにごまかしている時点で、全てを放棄しているのと同じだ。これでは、「酷い映画ですよ」アピールに説得力を持たせるのも難しいであろう。

さて、映画のラスト。実際の社外取締役&銚子市議会議員の某有名人が臨時の社長になる小ネタ(ここ、もうちょっと捻れば面白くなったと思う)のあと、話は2ヶ月後に飛ぶ。なぜか返り咲いていた社長は、新商品の菓子「おとうさんのぼうし」を提案する(入場特典で貰ったやつ)。これがなんと、「倒産防止」の願いを込めて「おとうさんのぼうし」だと。そこから親子の帽子のエピソードを映画の中に取り込んだのだと。それだけのためにトラックで子供を轢き殺したのだと。こんなダジャレのために約90分も映画を観させられていたとは。脱力。
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ていうか、原作あったのか。

電車を止めるな! 呪いの6.4km (PHP文芸文庫)

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  • 作者:寺井 広樹
  • 発売日: 2019/06/08
  • メディア: 文庫
 

 

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