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【邦画】『人狼ゲーム デスゲームの運営人』ネタバレあり感想レビュー--急激な路線変更をしているのは監督が原作者に変わったからなのか?

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監督&脚本&原作:川上亮
配給:AMGエンタテイメント/上映時間:103分/公開:2020年11月13日
出演:小越勇輝、中島健、ウチクリ内倉、花柳のぞみ、坂ノ上茜、桃果、朝倉ふゆな、森山晃帆、星れいら、山之内すず、三山凌輝、森本直輝、黒沢進乃介、福崎那由他

 

注意:文中で(直接ではないですが)終盤の展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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本作の公開に先立って、映画『人狼ゲーム』シリーズの過去作をまとめて全て鑑賞した。各々のレビューは別記事に載せたので参照して頂ければ嬉しいが、シリーズの傾向を大まかに説明すると、熊坂出監督による最初の2作は雰囲気重視の不条理劇で、空間演出や役者の演技に、定型に収まらないアート性があった。3作目からは監督が綾部真弥に変わり、エンタメ路線に軌道修正され、泣いたり暴れたり殺したり殺されたりなど、若手の役者による大仰な演技を見せ場にしていた。

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そして本作8作目で、監督が原作者の川上亮に変更される。ここでまた、急激に作品の方向性が変わっているのが興味深い。監督の意向がきちんと反映されているのだろう。川上亮監督『人狼ゲーム デスゲームの運営人』は、これまで蔑ろにされがちであった頭脳戦が、作品の一番の肝となっている。おそらく、『人狼ゲーム』シリーズを一度も観たことがない人が想像するであろう内容に近い。

たしかにこれまでも、誰が処刑されて人狼に殺されて、という話の展開は非常にロジカルであった。そこは原作小説の通りだと思われるが、映画では頭脳戦の要素はあまりメインとはならず、屋台骨として作品の裏側で支える役回りであった。そのため役者には(ときにメチャクチャなほどの)自由な演技指導ができたのである。だが原作者にとっては、作るのに苦心したであろう物語構成を裏に回されてきたことへの鬱憤があったのかもしれず、それゆえ本作での路線変更かもしれない。ただの想像だけど。

『人狼ゲーム デスゲームの運営人』は、いつものように集められて生死をかけた人狼ゲームを強制させられる高校生の様子と、その様子を別室で監視している運営側の様子が、並行して進む。高校生が9人と少なくルールも複雑ではないし、さらには運営側の会話によって状況が解説されるので、話の流れは非常に掴みやすい。監督が何を重視しているか明らかだ。

だが頭脳戦を前面に出そうとしているあまり、役者の演技のほうが蔑ろにされている。棒読みなのは別にいいのだが、ひとりだけ話についていけず騒ぐとか、他人を騙そうとやたら流暢に喋るとか、あまりに紋切り型で逆に白々しい演技ばかりなのが気になる。過去作では、たとえパターン演技でもより過剰にすることで、個々の役者に見せ場を作る意図はあったはずなのに。このシリーズは若手役者の見本市という機能もあると思うのだが、本作に限っては、出演者たちの実力はいかほどかの判断も難しい。

主人公は運営側の正宗(演:小越勇輝)で、人狼ゲーム参加者の中に、かつて家庭教師で教えていた夏目柚月(演:桃果)がいると気づく。「用心棒」の役職を得た彼女を生き残らせようと、こっそりメモを渡すなどしてアドバイスを与えていく正宗。だが人狼側も強運を発揮して、柚月ら村人側を追い詰めていく。なお、小越勇輝が聞き取れないほどの小声(別にダジャレじゃないよ)で喋って気弱な感じを出すのも、ものすごく紋切り型。

メモの受け渡しシーンなどに多少のサスペンス性はあるが、尺も短く作品のメインにはしていない。それよりとにかく話をロジカルにしようと意識を集中している。それを売りにしても構わないのだが、ロジカルにしようとするあまり、過度な辻褄合わせが悪目立ちしている箇所が多々ある。ひとつは感情よりも優先された説明セリフであり、ひとつは処刑・殺害シーンの簡略化である。役者の演技を主軸に置いていた過去作からすると、この2つを抑え込まれるなんて、ありえない事態だ。

細かいところで言うと、本作の処刑シーンでは、首輪が勝手に締まるだけで血が流れない。これも床の血痕をどうするのかという過去作では無視されてきた件を解決するためのロジカル=辻褄合わせによるものだろう。人狼の返り血の件にも丁寧な注釈がついている。ロジカルさを重要視したために、そういう現実面が些事で無くなっているのが本作の特徴である。

あと特筆すべきは、本作はシリーズでも珍しく、ラストに観客に向けてのどんでん返しがきちんとある。いや中身はベタではあるのだけれど、過去作では「論理を超えた向こう側」にオチをつけることが多いのに比べて、本作は論理を突き詰めた結果としてのオチだ。伏線の含まれたシーンを短く繋げて真相を説明するとか、今まであんまりやらなかったじゃん。完全に作品の方向性が変わっている何よりの証拠であろう。

この路線変更が、次作以降にどう作用していくのか(まず監督は誰になるのか)は解らないが、これからも新作が公開されれば観に行こうという気になったのは確かである。あと、前作までの流れで、運営側を実体として作中に登場させるのはマズい傾向だと思っていたのだが、本作によって釘が刺されたのは本当に良かった。このシリーズは観客が主人公に共感するのではなく、神の視点で俯瞰的に鑑賞するのが正しい作法なのだから。
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 原作小説

人狼ゲーム  デスゲームの運営人 (竹書房文庫)

人狼ゲーム デスゲームの運営人 (竹書房文庫)

  • 作者:亮, 川上
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 文庫
 

 

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