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【邦画】『ミッドナイトスワン』ネタバレあり感想レビュー--トランスジェンダーへの問題提起すら霞ませる、衝撃的過ぎるサブの話

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監督&脚本:内田英治
配給:キノフィルムズ/上映時間:124分/公開:2020年9月25日
出演:草彅剛、服部樹咲、田中俊介、吉村界人、真田怜臣、上野鈴華、佐藤江梨子、平山祐介、根岸季衣、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖

 

注意:文中で終盤の展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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大前提として、良質な作品である。トランス女性(生まれた時の性別が男性で、女性へと性別が越境した人)を主人公として、現在の日本社会における問題提起の側面もしっかりと抑えたうえで、半強制的に共同生活することになった少女と邂逅していくヒューマンドラマとしても仕上がっている。あらすじだけなら職人的なのに、画面から滲み出る熱量に、抑えきれない作家性を感じる。

「社会から異質なものとして扱われるマイノリティ」を表現する紋切り型なエピソードが多いのは、最初は気になっていた。だが、たとえば悪意なく「オカマ」という単語を使われたりなど、スクリーンを介して客観的に見れば明らかにアウトと判断できる紋切り型なエピソードですら、現在の日本では実質的には払拭されていないのだろう。それを浮き彫りにするだけでも、本作には意義がある。

いかにもな紋切り型エピソードは、内田英治監督がよくインタビューで言う「役者ファースト」によるものかもしれない。カメラや照明にこだわる凝った演出は、技術面に感嘆する一方で、役者の魅力を殺してしまう恐れがある。それよりも定番のありがちなエピソードをありがちな演出で並べるほうが、(他の作品の似たシーンと比べられることもあって)役者の個性は発揮されやすい。

主演の草彅剛は、その小学生のような無邪気さが、タレントとしては武器になったものの、役者としては邪魔になりがちであった。だが本作では、無邪気さを残したまま厚みのある存在に変換させており、それはまさしく内田監督の手腕であろう。もしも演技派の役者であれば、こういうトランス女性の役は手堅くこなしてしまい、別の魅力を発揮されずに終わった可能性がある。ただ、泣き叫びながら心の内を吐露するシーンが何度もあったのは、ちょっと辟易したけど。

そんなわけで、映画と役者の理想的な関係を構築できた作品なのは間違いない。ただこの作品、もうひとつ並行しているサブストーリーがあまりに異常で、メインであるはずのトランスジェンダーの物語が霞んでしまうのである。しかもサブの話、メインの話と対比させるにもこじつけになってしまって難しいし、少しばかりの同性愛要素が含まれていることもあり、トランスジェンダー(この単語は、性的嗜好とは基本的に無関係である)と変に関連付けると余計な誤解を生む可能性もある。扱いが厄介なのだ。

しかもサブの話はホラーレベルの衝撃度を持って唐突に終了し、そのあとは後日談も何もなく、誰もそのことに触れもしない。もはや"りん"なる少女は存在しなかったかのように、物語が進んでいく。もやもやの行き場の無いまま映画は終わるため、トランスジェンダーにおける問題提起などよりも先に、あれは何だったのかという大きな疑問が頭の中に残る。

いや、もちろんサブの話も意味は解るよ。乱暴に言えば、天性の才能を持ったものに対して持たざる者が向ける歪んだ愛情というやつだろう(個人的には、こっちの話のほうが好みだ)。ただ、メインの話とサブの話、テイストからして完全に別物なのだ。同じ箱に入れちゃいけない。この相容れない2つの物語が同居することで、この作品は大変に奇妙なものになっているのである。

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