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【邦画】『コンフィデンスマンJP プリンセス編』感想レビュー--「どうせ嘘なんでしょ」と穿った気持ちで観るように強制される映画は、果たして楽しいのか

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監督:田中亮/脚本:古沢良太
配給:東宝/上映時間:124分/公開:2020年7月23日
出演:長澤まさみ、東出昌大、小手伸也、小日向文世、白濱亜嵐、関水渚、古川雄大、柴田恭兵、北大路欣也、竹内結子、三浦春馬、広末涼子、織田梨沙、ビビアン・スー、滝藤賢一、濱田岳、濱田マリ、デヴィ・スカルノ、石黒賢、前田敦子、生瀬勝久、江口洋介

 

 

注意:文中で結末までガッツリ触れていますので、未見の方はご注意ください。

 

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前作『コンフィデンスマンJP ロマンス編』を観た時に、全てがコントロールされた物語は果たして面白いのか、考え込んでしまった。予定外のことは何も起こっておらず、あらゆる事象はダー子(長澤まさみ)の手中で思い通りに操作されていたと、最後に種明かしされる。それまでの劇中で起こったサスペンスやロマンスから得られた高揚感を全否定されては、よほど真の物語が魅力的でなければ、失望が上回るのが道理であろう。

さらに本作『コンフィデンスマンJP プリンセス編』では、新たな問題も浮上する。前作の経験によって「これから観るのは嘘の話だ」と観客が前もって身構えてしまうのだ。しかも冒頭に、「ダイアナは本当に交通事故か?」「シンデレラがガラスの靴を残したのは偶然か?」などと出演者たちが観客に語り掛け、この映画は物語を疑ってかかるのが正しい鑑賞法だと念押ししてくる。(陰謀論の例でダイアナを出すのはやめたほうがいいですよ)

さあ、どうだろう。こんなにも疑心に満ちた状態で観る映画は、本当に楽しいのか。亡くなった大富豪の隠し子だと偽って遺産を狙いに豪邸に潜入する話なのだが、正体がバレやしないかというハラハラドキドキや、命を狙われているかのようなサスペンスな展開なども、「どうせ嘘なんでしょ」と穿った気持ちで観るように強制される。いっそのこと思いっきり騙されてみようかと思っても、本来なら観客の視点を担うべき主人公の側が観客を騙すという構造のため、純粋に物語を共有できない。

 

※ ここから先は『コンフィデンスマンJP プリンセス編』のネタバレを盛大に行います。未見の方は自己責任でお願いします。

 

さて、簡単なあらすじ。ダー子ら詐欺グループは、身寄りのない少女・コックリ(関水渚)を仲間に入れる。亡くなった大富豪・レイモンド・フウ(北大路欣也)が10兆円の遺産を全て与えると遺書に記した隠し子・ミシェルの成りすましを、コックリにさせるのだ。ダー子はミシェルの母親と偽って、コックリと共にマレーシアの屋敷に入り込む。しかし目当ての手切れ金は支払われず、クッキーに毒を仕込まれるなど命を狙われたりもする。

作戦を中止して逃げ出すこともままならず、であればフウ家の当主就任パーティーで騒ぎを起こして、その隙に家宝である金証を盗んでトンズラする作戦を立てる。ところがパーティーにはダー子らと因縁のある詐欺師がうじゃうじゃと押し寄せる。しかもダー子らが騒ぎを起こそうとする直前に、フウ家に恨みを持つ男が爆弾を体に巻き付けて現れる予想外の展開。実はコックリは男と街で偶然出会っていて、そのためすかさず身をもって説得し、改心させる。

逃げ出すのに失敗したダー子と仲間たちは宿敵でもあるマフィアのボス・赤星(江口洋介)に策略を見抜かれてしまう。ダー子らは赤星の雇った殺し屋に次々と殺されて、金証を奪われる。そこにカットバックで、フウ家の執事・トニー(柴田恭兵)が、レイモンドが愛人にあてた手紙を子供たちとコックリの前で読み上げるシーンが挟まる。トニーはコックリが偽物であると気づいていたが、先ほどの爆弾男を説得した気骨や、子供たちには本当にやりたいことをさせてほしいという手紙に書かれたレイモンドの意思を尊重し、コックリの嘘を受け入れる。

もちろんレギュラーキャラクターがあっさりと殺されるわけはなく、詐欺師たちがパーティー会場に集まってきたのも、赤星に策略を見抜いたと思わせる(赤星に掴ませた金証は偽物)のも、すべてダー子らの予定通りである。さらにはレイモンドが愛人に宛てた手紙もダー子のでっち上げで、トニーが「真実を知りながら嘘を選ぶ」ところまで完璧にコントロールしている。前作と同じく、ダー子が神の如く森羅万象を操る世界が形成されているのだ。やっぱりなと、この段階では思う。

で、コックリは自分でも思わぬうちにフウ家の当主になり、10兆円の遺産を手に入れたのでした。めでたしめでたし。って、ちょっと待て!

えっと、パーティー会場に爆弾男が来たのは本当のハプニングで、しかもその男はたまたま街でコックリとぶつかっていて、男は大切にしていた人形をたまたま落として、コックリがたまたま拾って、パーティー会場でドレスに着替えてもたまたま持っていたってこと? 何その無理矢理すぎる御都合主義。コックリがわざとらしく植え込みからクワガタを見つけて、本当は昆虫学者になりたかった長男に渡したりとか、不自然な行動を何度も取って人心掌握を重ねているんだけど、それは邪推ゼロで純真な心がさせたってことなの? マジで?

これ、「どうせ全てが嘘なんでしょ」という観客の心理を逆について、もっとも胡散臭いコックリについては「実は全て本当でした~」とやっているのだ。その大胆さ自体は、確かに驚いたし面白いのかもしれない。でも、観客を「逆騙し」するための目的が先走り過ぎていて、肝心の物語が目に余るほど不自然になってしまい、到底これが真実だとは思えないのだ。

毒入りクッキーなんて、結局のところ誰の仕業なのか判然としないし。コックリが不自然に毒に気付くので、絶対に自作自演だと思っていたのだが。あと、いかにも怪しげな貧乏画家として序盤から意味ありげに登場する濱田岳が、本当にただの貧乏画家だったという衝撃。それもこれも、「逆騙し」してやるぜ~という気負いが先走っての不自然さだ。

しかも、全てが明らかにされた後、ダー子とコックリの疑似の親子関係が本物になったと総括される感動的な会話シーンですら、こちらは「どうせ、この後でコックリが全て仕組んだって種明かしがあるんでしょ」と白けながら観てしまうのである。いくら待っても、そんな種明かしは無いのに。全力の「逆騙し」ゆえに、一番の感動させポイントですらスルーしてしまう、酷な作り。

いや、これはきっとリドルストーリー、というか明言されていないだけで全てはコックリの思い通りだったというのが真相に違いない。続編なのかTV版のスピンオフなのか解らないが、やがてコックリの天才詐欺師ぶりが明らかにされるのだろう。そうでなくてはならない。こんな不自然な物語が"真実"であるわけがない。

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