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【邦画】『眉村ちあきのすべて(仮)』感想レビュー--現実と虚構の間を揺れ動く一連が、まさに眉村ちあきのすべてなのだろう

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監督&脚本:松浦本
配給:SPOTTED PRODUCTIONS/上映時間:75分/公開:2020年
出演:眉村ちあき、徳永えり、品田誠、月登、小川紗良、嶺脇育夫、南波一海、吉田豪、冨田勝、石阪勝久

 

注意:文中で中盤の展開に軽く触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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昨年の「MOOSIC LAB」で上映された際、観た人が皆ざわついていたので気になっていた作品。本来の公開日は4月4日だったのだが、ご存じの通り映画館での上映は現状不可能なため、代わりに行われたストリーミング配信上映にて鑑賞した。先に結論を言ってしまうと、まあ、変な映画でした。

めじゃめじゃもんじゃ

めじゃめじゃもんじゃ

  • アーティスト:眉村ちあき
  • 発売日: 2019/05/07
  • メディア: CD
 

 

眉村ちあき。公式プロフィールなどでは「弾き語りトラックメイカーアイドル」なる肩書だが、アイドル寄りのシンガーソングライターみたいな立ち位置だろうか。一風変わった歌詞だったり、天然か計算か微妙なところを突いた言動だったりがウケているようだ。本作で流れたイベントか何かの映像では、「株式会社を立ち上げました」と発表して、物販コーナーで株券を売っていた。眉村ちあきに関しては『ゴットタン』で見た程度の知識しかないので、間違っていたらごめんなさい。

映画は、眉村ちあきがノートパソコンの前で楽曲を作っている姿から始まる。ドキュメンタリーにしてはカメラ位置など作り込みすぎだと感じたが、急にマジックで紙に歌詞を書き始めて、そのキュッキュッという音だけが次のシーンに少し被っていたのは面白かった。映画自体はオーソドックスなドキュメンタリーで、ライブやイベントなどの資料映像と、音楽評論家やタワレコ社長など関係者のインタビューで構成されている。

だが途中で、眉村ちあきがカメラ目線となり「映画の途中ですが…」とこちらに向かって語り掛けてくる。メタ展開としてはありがちだが、ドキュメンタリーでこれをやられると面食らう。だって、ドキュメンタリーにメタって意味不明でしょう。何が起こっているのかと困惑していると、(仮)のついていたタイトルは変更され、急にSFが始まるのである。

いきなり舞台は変わり、眉村ちあきに関する驚愕の事実が露見される。徳永えりが役名で出てくるのでフィクションなのは解るが、一方で小川紗良は本人役として登場して眉村ちあきを取材しており、ナレーションも担当している。この小川紗良の存在により、突飛な世界観なのにドキュメンタリーの続きにも思えてくるような、不思議な感覚に陥る。ドキュメンタリーパートの関係者のコメントがSFパートと繋がっているのも、この展開の強引さを和らげる効果を持つ。

けっこう驚いたのが、一から構築されたSF世界が、低予算にも関わらずチープさをほとんど感じないのである。ファンがボランティアで制作したらしいミニチュアセットも、もちろん大作映画と比べれば安っぽいはずなのだが、物語自体の強引さによって気にならなくなっている。髪型と服装が同じだけでクローンと言い張るとか、あえて部分的に完成度を放棄すると、むしろフィクションの強度は増すのであろうか。

で、このあとも何度も衝撃の展開が巻き起こり、そのたびにタイトルも変わる。そして(仮)の取れた「眉村ちあきのすべて」が最後のタイトルとなると、奇想天外な物語の終着点として実際のワンマンライブの映像に繋がっていく。ドキュメンタリーという現実から始まり、現実と虚構の間をものすごい振れ幅で揺れ動いた末に、再び現実であるワンマンライブへと戻る。天然と計算の間を揺れ動く彼女自身とも重なるようなこの一連が、まさに眉村ちあきのすべてなのだろう。

惜しむらくは、これはやはり映画館という空間で"体験"してこそ、真価が発揮される作品なのである。自宅のソファに座って鑑賞するだけでは、作品をきちんと享受できたか自信が無い。いつかまた映画館で本作が観られる世界になってほしいと心から望んでいる。

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