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【邦画】『いざなぎ暮れた。』感想レビュー--島根のご当地映画だが、観光アピールしたいのか地方のリアルを伝えたいのか解らず、どっちつかずの結果に

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監督&脚本:笠木望
配給:吉本興業/上映時間:83分/公開:2020年3月20日
出演:毎熊克哉、武田梨奈、青山フォール勝ち、岸健之助、和田まんじゅう、奥村隼也、山口提樹、潮圭太、どさけん、江西あきよし、大皷長次、蒼央蒼央、小池澄子

 

注意:文中では物語の結末に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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53点
島根県松江市の海沿いにある美保関でオールロケをしたご当地映画。吉本興業配給で沖縄国際映画祭の「地域発信型映画」上映作品というだけでも怪しげだが、モナコ国際映画祭で2冠、ヒロインが武田梨奈などなど、油断ならない要素が多々含まれている。しかし予告やチラシなどの雰囲気からは、閉塞した地方の現実を露わにした純文学的な作品のようにも思える、はたして、どちらに転ぶのか。

冒頭で「平成三十年十二月三日」とテロップが出るのでどういう世界線なのかと謎だったが、元号が令和ではない理由は最後まで特に無かった。歌舞伎町でホストクラブを経営しているノボル(毎熊克哉)は、恋人でキャバ嬢のノリコ(武田梨奈)を助手席に乗せた愛車で、東京から10時間かけて美保関までやってくる。ノボルの父親が実家と絶縁したために疎遠状態である祖母に会い、金の無心をしに来たのだ。しかし借金取りからの電話で、利子返済の期日を一日間違えていたと知り、今日の昼12時までに振り込みを行わないといけなくなる。

ここで現在時刻がテロップ表示され、すでに返済まで1時間を切っていると示される。わけもわからず連れてこられたノリコには「結婚の挨拶」と嘘をついて実家の醤油屋を訪れるノボル。半分ボケ気味の祖母はのんびりと対応するのだがノボルは大して慌てもせず、なぜかとんとん拍子で「ノボルの父親が新婚旅行のために貯めていた貯金の通帳」が見つかる。タイムリミットを設けた割にはサスペンスを入れる気は無いらしい。万事うまくいくと思われたときに腹違いの弟(青山フォール勝ちという名前の吉本芸人)が現れ、邪険に家を追い出される。

こっそりと通帳とキャッシュカードの入った箱を持ってきたノボルだが、肝心の暗証番号が解らない。実は大手醤油会社「太陽醤油」の取締役だった父親の誕生日をネットで調べるが、ATMで試してみると暗証番号ではなかった。既に亡くなった母親の誕生日は思い出せず、わざわざ墓所まで行ってみるが墓石にも書いていない(墓石に誕生日が書かれるのはキリスト教だという豆知識あり)。と思ったら、通帳の入っていた箱の中に母親の免許証が入っていた(頭の悪い脚本だな)。しかし母親の誕生日も暗証番号ではない。

そこに通帳を盗まれたことに気づいた義理の弟が現れ、「出雲は東京や京都よりも前からあるんだ!」と謎のマウントを取ってくるも、ノリコに手首を捻ってからの金的で撃退される(こんなんでも、武田梨奈のアクションがあるだけマシではある)。通帳とキャッシュカードを返すふりをして母親の免許証を渡すノボル。しかしその後、ノボルのおかしな行動を不審に感じたノリコがどこかへ行ってしまうし、暗証番号も解らず手詰まり状態に。

あ、言い忘れていたけど、借金振込の期限は午後3時まで延ばしてもらっている(最初から3時でよくない?)。ノボルは箱の中から、鳥居の前で撮影された両親の写真を見つける(裏面には撮影されたときの西暦が書かれている。別にいいけど、西暦を暗証番号にしているかも、とは思わないのかね)。何か手掛かりがないかと、写真に写っていた灯台を頼りに、撮影場所へ向かうノボル。美保関の灯台って有名な観光スポットらしいけれど、劇中では特に紹介されない。

撮影位置を割り出して訪れたところ、たしかにそこに鳥居があった。そこへ急に現れる観光客カップル。自撮りをしながら「今度は鳥居の中に夕日の見える時期に撮影したいね」と、不自然な会話によって写真そのままの光景を口にする。ノボルがどういう意味か聞くと、夏至の日の夕方になると鳥居の中に夕日が入るような光景になるので人気の観光スポットなのだと、カップルが棒読みで教えてくれる。ここが映画唯一の観光アピールポイントであった。ゼロならともかく、一か所だけ観光アピールしてくるから、映画の目的が判断できなくなる。

カップルは、写真裏面の西暦から、その年の夏至の日を割り出す(ネットで調べる素振りすらないのだが、即答できるのすごくないか)。写真の撮影日を知ったノボルは慌てて戻るが途中で車がエンストし、郵便局に着いた時には期限の4分前だった。ここから現金を引き出して振り込む一連の操作をするのに4分じゃ明らかに足りないと思うのだが。サスペンスを盛り上げる気がないなら思わせぶりな時刻表示は無いほうがいいのに。暗証番号は夏至の日付で大正解だったが、急に思い直して振り込みをやめ、借金取りからの電話も取らないノボル。

ちょうど美保関では神事の祭が行われていたので、ぼんやりと様子を眺めるノボル。ここで実際の祭の映像がインサートされる(明らかに画質が違う)。2隻の船に乗ったぎゅうぎゅうの人が互いに櫂で水を掛け合う、『東大王』で出題されそうな変わった祭なのだが、何をしているのか説明はされない。映像だけだと興味深い祭なんだけど、なんでここで観光アピールしないのか。ノボルが祭りに参加するわけでもないしなあ。

ノリコと再び落ち合ったノボルは、一緒に海に飛び込むとかしたあと、翌日に実家の醤油屋を訪れ、引き出した現金を弟に渡す。弟によると、ノボルの父親は実家の醤油屋を裏切って大手の「太陽醤油」に入ったくせに、ここの味を受け継いでいないからけしからんのだという。しかしノボルは「太陽醤油」の会社ロゴを見せ、夕日と鳥居をモチーフにしているから父親も美保関の魂は受け継いでいるみたいな理屈を言い出す。そんなんで仲たがいが解消って、なんだかなあ。

この映画、たぶん観光地でもある美保関をアピールする目的があるはずなのに、さびれて活気の無い地方都市のリアルのほうが存分に伝わってきちゃうのね。美容院が無いとかのセリフは自虐ギャグとして受け止められても、スクリーンに大写しにされる薄暗い道路や改修されていない建物や人のいない様子から感じるリアルについては、ごまかしができていない。かといって入江裕監督の小規模映画のように閉塞した地方都市の問題点を主題にしているわけでもなく、薄っぺらい家族愛や郷土愛を物語のオチにして強引に幕引きしている。どっちつかずの状態になっていて目的がはっきりしないので、観ているほうは困惑するしかない。

あとラストシーンで、東京に戻る車中でノボルはホストクラブをやめるとか言い出していたけど、借金をブッチした件はどうするつもりなんだろうか。

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