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【邦画】『一度死んでみた』感想レビュー--細かい伏線回収ネタにこだわる一方、大元の展開は辻褄を合わせる気すら無いのは、観客をバカにしているからか

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監督:浜崎慎治/脚本:澤本嘉光
配給:松竹/上映時間:98分/公開:2020年3月20日
出演:広瀬すず、吉沢亮、堤真一、リリー・フランキー、小澤征悦、嶋田久作、木村多江、松田翔太、妻夫木聡

 

注意:文中では物語の終盤に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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48点
インディーズのデスメタルバンド「魂ズ」のボーカルを務める女子大生・野畑七瀬(広瀬すず)は、製薬会社「野畑製薬」の社長・計(堤真一)のことが大嫌いで、コネ入社斡旋も拒絶している。あまりに父を嫌い過ぎて自宅のリビングや廊下の真ん中に赤い線を引いてテリトリーを区切っていたりするのだが、こういうギャグ描写が映画全体のリアリティとチグハグなのが引っかかる。堤幸彦には普段は文句を言ってばかりだけど、ギャグ描写も受け入れられるような虚構性の強い空間の作り方は上手なんだよなあ。

野畑製薬が極秘に開発中の若返り薬の情報が外部に漏れているので、どうやらライバルの大手であり経営統合して薬のデータを頂こうと目論むワトソン製薬のスパイが潜り込んでいるらしい。ここでの若返りがどういう意味なのか説明がないが、タイムスリップのごとく身体が数十年前の状態に戻るようだ(それは薬でできることなのか?)。

ところで研究員の藤井(松田翔太)が、若返り薬の開発の過程で「2日間だけ死ねる薬」も作っていた。そこで計は、新たに雇った役員の渡部(小澤征悦)に「試しに社長が死んでみたら、スパイを炙り出せるのでは」と唆され、実際に死んでみることにする。何を言っているのか解らないが、そういう展開なのだ。

誰もが気づくとおり渡部はワトソン製薬のスパイなので、計が死ぬ直前にいくつもの書類にサインをさせる。さらには若返り薬の開発データのありかを聞き出そうとするが「紙の書類で保管している」「開けるのにパスワードがいる」など中途半端なことだけ伝えて死ぬ。計、とても経営トップにしちゃいけないバカである。

しかし渡部のほうも負けず劣らずのバカだった。計にサインさせた書類は遺書で、「社長は娘の七瀬にして、渡部が全面的にバックアップする」と書かれていたのだ。七瀬は社長職を拒否するので渡部が社長代理となりワトソン製薬との統合を推し進めようとするが、役員会議ではけんもほろろに扱われる。法律的なことはともかくとして、遺書の中身を「ワトソン製薬と経営統合する」にしておけばいいじゃん。社長の親族だが会社とは無関係の七瀬を巻き込むとかややこしいことばかりしていて、もう、なんなの。

計画が巧くいかず、ワトソン製薬の社長(嶋田久作)から「死んでいる人間を殺しても殺人にはならんだろ」と告げられた渡部は、計が生き返る前に火葬にしてしまおうと企む(計を本当に殺すと何が得なのかもいまいち解らないけど)。ここから告別式を飛ばしてさっさと火葬にしようとするワトソン製薬と、時間を引き延ばすために何としても告別式を行おうとする七瀬たちとのドタバタ喜劇が始まるんだけど、計の遺体は会社の食堂に安置されているんだよ。こっそり忍び込んで毒でも注射すればよくない?

たしかに、ここから始まる一覧のドタバタは、細かい点では伏線回収が何度もあったりと巧いとは思う。だけどさ、告別式の有無が目的になっているという根本が間違っているから、まったく入っていけない。それに、この話で医者も警察も出てこないってありえないでしょう。たしか渡部は弁護士だったはず(覚えていないしパンフにも書いていない)だけど、法的な話が一切出てこないのも不自然でしかない。

あのね、現代の日本が舞台なんだからね、この場合は医者を呼んで検死のうえで死体検案書を作ってもらって、それと一緒に死亡届を役所に出したところで、初めて死者と認められて遺書も効力を持つわけね。計は社長室で突然死という状況なので、七瀬は「司法解剖しなきゃ」と言うが事情を知っている松岡(吉沢亮)から止められるんだけど、司法解剖をするかどうかは検死した医者から連絡を受けた警察が判断することなの。こういう現実面でのフォローが一切なされていないのがさあ。

コメディだから現実的なツッコミは余計だってのは言い訳にならない。最初から言っている通り、死亡届とか気にならないような虚構空間にする努力がされていないのはただの怠慢でしょう。ムロツヨシあたりにエキセントリックな医者を演じさせるとか、いくらでも策はある。まあ、そんなので成功するとは思えないけど、その程度の努力すらせず世界観の構築を放棄しているのが腹立たしい。堤幸彦だったら絶対にやるから。堤幸彦を褒め称えるのも変な気分だけど。

あと、「2日間だけ死ぬ薬」の話は他の社員(前野朋哉とか西野七瀬とか無意味に豪華な布陣)がたくさんいる場所で行われているので秘密になっていないし。七瀬にだけ見えるけど声は伝わらない幽霊の計がジェスチャーであることを伝えようとするけど、そこは文字を書けばいいんじゃないの? とか、同じく幽霊のリリー・フランキーが当たり前にこの世のものを手に持っているとか、詰めが甘いところばかりが目立つ。

後半もおかしなところばかりで、挙げていくとキリがない。なんかさ、細かい部分での伏線回収ネタばかり重視していて、大元の展開上の矛盾を全力で無視しているところが多すぎるのね。七瀬が父親の顔を張り付けたサンドバッグを普段から殴っているからワトソン製薬の手下の真壁刀義らを撃退できたってのはいいよ。でも、なぜ真壁刀義が自宅に来て、しかも七瀬が手にしているのが開発データだって知っているの? そういう都合の悪い面倒事(ってレベルでもないけど)は全力無視するばかり。堤幸彦だったら、そういうプロット上の辻褄合わせは一応するから。何度も名前を出して申し訳ないが。

この映画、火葬の開始時刻が変わると大げさなテロップで状況説明が入る。いや、その程度のこと、わざわざ説明されなくても把握できるけど。同日公開の『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』は時系列をグチャグチャにしているけど、そんなバカ丁寧な説明はしていない。観客の知力レベルをどれくらいに設定しているんだろうか。都合の悪いところの全力無視とか、あとデスメタルの適当な扱いも含めて、なんか観客をバカにして舐めているとしか思えないのだが。

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