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【邦画】『無限ファンデーション』ネタバレ感想レビュー--即興劇による緊張感に依存してストーリーの粗さを誤魔化しているような

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監督:大崎章
配給:SPOTTED PRODUCTIONS/上映時間:102分/公開:2019年8月24日
出演:南沙良、西山小雨、原菜乃華、小野花梨、近藤笑菜、日高七海、池田朱那、佐藤蓮、嶺豪一、片岡礼子

 

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53点
狙いは痛いほど解るのである。個人的には映画での即興劇が大嫌いなのだが、それでも本作の即興劇は意図があってのものであることは理解している。即興劇によって生まれる独特の空気感が作品のテーマとリンクしているのなら、即興劇に対するボクの評価は変わったのかもしれない。ただ残念なことに、その狙いが成功しているとまでは思えなかったのが、むず痒いところだ。

勉強ができず居残り中の女子高生・未来(南沙良)は、演劇部員のナノカ(原菜乃華)らに服のデザインを描いていたスケッチブックを見られたことで、半ば無理やりに演劇部に衣装担当として入部させられる。即興劇で明確なセリフは用意されていないので、会話では常に「あっ」「えっ?」の応酬が繰り返され、質問と答えがあっていなかったり、聞き返したりもする。たしかに日常会話とはそういうものなのだが、なぜ映画館で日常を見なくてはいけないのかという疑問も、いつものようにある。

即興劇とはいえストーリーは事前に役者全員に把握されているし、何度もテストは繰り返されていたらしいので、思ったよりもスムーズに話は進む。話の流れどころか自分の演じる役の設定すら役者に任されている即興劇って目も当てられないことになるんだけど、本作はそこまでではない。各キャラクターの性格なども事前に詰められているようで、本作における即興劇は、その場の緊張感を産み出すために行われている。その狙いは解る。

問題は、即興劇ではない部分にあるように思える。たとえば細部で言えば、未来がスケッチブックに描いた絵のレベルが、控えめに言っても巧くないところとか。誰もが一目見ただけで「すごーい!」と連発するほどではない。その後に未来が実際に制作する衣装は確かに力作で、かなりの才能であると判明するのだが、であればスケッチブックもそれなりにするべきだったとは思ってしまう。

そこは本当に細部なのでいいのだが、一番気になるのが話の流れである。演劇部による「シンデレラ」の劇を3週間前に控えたある日、主演を務めるナノカが映画のオーディションの書類選考に受かり、最終選考が本番当日と重なっているので出られないと言ってくるシーンがある。ここで先輩らが、「シンデレラ」の劇がどれだけ大切かと口論になり重い空気になるのだが、それまでの練習風景がのんびりムードなので、そんな熱い思いで「シンデレラ」をやっていたのかと違和感があった。なんか、役者として成功しそうな後輩をいびっているようにしか見えなかったのだが。

なお、この話の流れだと、ナノカの代役で未来(衣装係なので出演予定はない)が抜擢されると思ったのだが、そんなことにはならなかった。「未来にも出てほしい」っていう伏線みたいなセリフもあったのに。未来は、亀裂の入った演劇部において、ナノカに誘われて入ったという微妙な立ち位置に困惑して神経が参ってしまう。さらに追い打ちをかけるように、ナノカの友人(ごめんなさい、役名忘れました。演じているのは小野花梨)が、未来の作った衣装にスプレーをかけて滅茶苦茶にする。ここも唐突だったなあ。未来は「自分が友人のナノカを奪ったから」と推測していたが、彼女の本音は結局のところ何も解らないのだった。なぜなら「どうして、こんなことを」という質問に対して答えを言っていないから。別に答が無いこと自体はいいのだが、そこに理由が無く「即興劇だから」という絶対的な言い訳で済まされてしまうのが、何だかなあとは思う。

こうして各シーンを思い返してみると、劇中における緊張感の源は即興劇ゆえによるものであって、強引に作られた話の流れや人間関係からくるものではないと気づく。話の粗さを、即興劇によって誤魔化しているようなんである。ナノカは最終選考に残らなかったので謝罪したうえで演劇部に戻してほしいと頼みに来て、やっぱり即興劇に依存した緊張感のあるシーンとなっていたが、衣装をズタボロにしたほうが何の断りもなく演劇部にいるままだし。こっちのほうがよっぽど許されないと思うんだがなあ。

さて、ここまで全く触れていない件がある。未来は冒頭で、リサイクル工場でウクレレを弾きながら歌う謎の少女・小雨(西山小雨)と出会い、落ち込んだりすると彼女に会いに行って助言を貰ったりしている。小雨は、未来にしか見えていないかのような特殊な存在で、案の定、後に幽霊であることが判明する。リサイクル工場の雰囲気と合わさって、なかなか神秘的な存在(監督は間違いなく小雨に恋しているはず)なのだが、なぜかここも即興劇なのだ。小雨はフィクションだからこそ成立する存在なのに、そのセリフが日常会話なのは、さすがに違うんじゃないかと。

 

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