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【邦画】『五億円のじんせい』ネタバレ感想レビュー--自己の価値を他者によって決めてもらうのは、こんな時代を生きる上での必要条件である

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監督:文晟豪/脚本:蛭田直美
配給:NEW CINEMA PROJECT./上映時間:112分/公開:2019年7月20日
出演:望月歩、山田杏奈、森岡龍、松尾諭、芦那すみれ、吉岡睦雄、兵頭功海、小林ひかり、水澤紳吾、諏訪太朗、江本純子、坂口涼太郎、平田満、西田尚美

 

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66点
17歳の高校生・高月望来(みらい)は、6歳の時に命にかかわる病気にかかるも、5億円の寄付を受けたことで海外で心臓移植を行い、現在も生きている。それからは年に一回、夕方のニュースでその後の成長を取り上げられ、母親や寄付をした支援者から将来に対する善意の期待を一方的に押し付けられている。表向きは医者になりたいと言っているが、その実は医大に入るのも厳しい成績で他にやりたいこともなく、自分に5億円の価値がないからと、SNSの匿名アカウントで自殺を宣言する。しかしそこに謎の匿名アカウントから「5億円の借金をチャラにしてからに死ね」とメッセージが届く。

けっこう強引なスタートの切り方だが、そこから放浪の旅とともに様々な職を経験し、多くの人との出会いによって、貯金高が増えていくと比例して人間的にも成長していく。定型ではあるけれど、個々のエピソードはリアリティはともかく適度な軽さなので、普通に楽しいエンタメとなっている。一番最初にホームレスの善意に触れるのが構成としてどうだろうと最初は思ったが、すぐに"裏切り"があるので、ひとまずOK。主にアウトロー寄りな人から「他者から自分がどう見えるか」を指摘され、それによって徐々に心境の変化が訪れる手法は、単純だからこそ誰にでも響きやすい。

自己の価値は他者によって決定されると、本作では主張する。昨年末に一般公開された自主製作映画『からっぽ』と通じるテーマだが、最近のトレンドかもしれない。コミュ力至上主義の現代日本にとって、逆に他者との関わりを否定することがかっこいいとされがちではあるが、人は生きていく上ではどうしようもなく他者と関わらなくてはいけない現実がある。そこを肯定しなくては、生きることすらままならない。自己の価値を他者に委ねるのは、こんな時代を生きていく上での必要条件なのかもしれない。

ただ、本作で実は一番良かったのは、西田尚美が演じる望来の母親であった。望来が知らない土地で金を稼いでいる間に、ちょいちょい息子を探して家の近所を歩き回る母親の様子が挟まる。善意100%ゆえに気味悪くなってしまった微笑みによって息子に過剰な期待をかけるが、いざ自分のコントロール下から外れてしまうと、ただただ混乱してしまう。望来の視点では乗り越えるべき最大の壁である母親だが、実は望来と並行して彼女もまた他者との関わりによって成長していることが提示される。この並列の構造のおかげで、作品全体の単純化を免れている。

映画全体の話に戻すと、いい感じのオチが付いた後の一波乱が全体のバランスを崩している(それまでの経緯は何だったの的な)気がするものの、最後の最後に喚きたてる山田杏奈の破壊力によって、強引にハッピーエンドのように思えてしまう大胆さは小気味が良い。『天気の子』と同週での公開がかわいそうなほどの、良質の佳作ではないか。そして『ONE PIECE』は偉大。

 

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