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【映画駄話】『名探偵コナン』劇場版23作を一挙に観たら、これは007シリーズの日本版だと気づいた

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平成が終わる最後の4日間を使って、『名探偵コナン』劇場版23作を片っ端から鑑賞してみました。実はこれまで一度も劇場版を観たことなく、そもそもコナンの話自体もぼんやりとしか知らなかったので、このままでは令和を迎えられんと全制覇した次第です。その結果、なんとなく思ったことを箇条書きでまとめてみました。

 

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・これは日本の007シリーズではないか
形式はそのままで進化するオープニングから感じる高揚感。完成度の高くないミステリは添え物で、ビルの爆破や乗り物アクションといったスペクタクルがメインの見せ場。主人公が名乗る際のお決まりのフレーズ。かように、あらゆる箇所で007シリーズを想起させる。共通点が多いというより、映画の作り方が似ている。変な道具もいっぱい出てくるし。じゃあ阿笠博士はQなのか。

 

・すべてが解決した後にもうひとアクション起こす
物語が一通り終わった後に最大のスペクタクルを配置するのは、ヒッチコックの方法論であり、コナンシリーズでも踏襲している。この構成によりラストで満足度を上げさせることが多いが、アニメである以上は絵の動きが大きくないと作品の締めとして印象を残せない場合もある。

 

・伏線が、とにかく多い
一番感心したのはこれ。物語自体はおかしいことも多いが、ここだけは手を抜いていない。しかも、わざわざ入れるほどでもない小さなことにまで伏線がある。ほんの数十秒のために、主要キャラの髪形を変えたりしているのだ(その髪型を変える理由まで前作の話と繋がっていたりする)。そのため、これが伏線だなとは気づくのだが、どの程度の重要な伏線なのかまでは判断つかない。この辺の匙加減は巧い。

 

・江戸川コナンが小1
実は中盤まで小5くらいかと思っていたので、かなり驚いた。コナンや灰原はともかく、少年探偵団の言動はとても小1とは思えないほど大人びている。

 

・新一の口調が完全にチビ太
「おめーら」「バーロー」といった江戸っ子口調。チビ太だと気づいてからは、そうとしか思えなくなった。

 

・コナンは蘭に正体を明かせばいいのに
コナンが新一であると知っている人間は狙われるかもしれないという理由は解るんだけど。何が何でも正体を隠そうとすることで不利益ばかり起こっているような。蘭が黒の組織と繋がっているとは思えないので、全てを明かして協力体制をとったほうがいいんじゃないかなあ。あと、ずっと不在の新一の高校での扱いとか、存在しないはずのコナンの戸籍や住民票とか、どうやっているんだろ?

 

・少年探偵団が物語に大きく絡む
最新作『紺青の拳』は例外で、ほとんどは少年探偵団が大きく物語に絡んでいる。大抵は現場に居合わせるし、そうでなくとも落下するヘリから皆を守ったり人工衛星の軌道を変えたりと活躍の機会がある。コナン、蘭、小五郎以外のサブキャラクターは、作品によって大きく関わったり関わらなかったりするので、少年探偵団が重要視されていることが解る。

 

・毛利小五郎は、そんなに麻酔を打たれていない
実は劇場版では数回しかない。ラストの謎解きではなく中盤のときもある。小五郎は方向違いの推理で惑わす役回りなのだが、人が死んだ直後にふざけているみたいで、ただただ腹立たしくなることが多い。小五郎はコメディというよりギャグ要素が強いんだよな。コメディならともかく、爆破がバンバン起こる劇場版にギャグは合わない。

 

・灰原哀は、それほど活躍しない
この言い方は語弊があるけど、基本的に事件から距離を置こうとするし、介入しようとするコナンをたしなめる役回りになっている。で、「どうせ、私が言っても」と呆れるポーズをとる。それでいてコナンから頼まれれば文句を言いつつ内心では喜んで依頼をこなす。コナンにとっての精神的な母親みたいだが、言い方を変えれば「都合のいい女」である。

 

・怪盗キッドは、けっこう抜けている
割とへまが多いし、喋り口調に緊張感がない。怪盗キッドが出てくると作品自体のテイストが少し変わる。

 

・入浴シーンがない
厳密には『沈黙の15分』で小五郎が1回だけ温泉に入るが。子供向けとはいえ、ここまで性的なものを想起させるシーンが極力避けられているのは珍しい。『紺青の拳』での蘭のビキニも、かなりレア。

 

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では、ここから各作品の雑感です。星の数は個人的なお勧め度です(5つが満点)。

 

1997『時計じかけの摩天楼』★
コナン劇場版シリーズ最大の謎「なぜ一般人が大量の火薬を手に入れられるのか」という問いに、実は第1作だけが答えを出している。しかし犯人の穴だらけの計画には辟易する。「木の下→木の根っこ→猫」って、それは推理なのか。ミステリ方面がくだらないので、小学校の校庭にヘリが落下したりといった惨事とのバランスが悪すぎる。

 

1998『14番目の標的』★
名前に数字が入ってる人物が順番に狙われるという、ミステリなら定番だが無意味に手間のかかる手段をとる犯人に疑問。物語にツッコミを入れず、大がかりなアクションだけを楽しめばいいのか。あとから解るが、実は最初の2作が抜きんでて話が変。

 

1999『世紀末の魔術師』★★★
人が死んだあとはあまりふざけないし、閉じた空間の中でサスペンスを盛り上げ、物語の帰結としてのスペクタクルを提示する。ちょっとした世界史雑学を織り交ぜるあたりを含めて、順当なエンタメ映画となっている。99年の邦画と考えたら、なかなかのものではないか。

 

2000『瞳の中の暗殺者』★★★
テーマパークを舞台とすることで、アクションのための様々なシチュエーションに一応の理由付けをさせているのは良いアイデア。真犯人を黒人間(って名称でいいのか?)にすることで、正体の解らないままアクションをさせるのはアニメならではの手法で、ちょっと面白い。

 

2001『天国へのカウントダウン』★★★
サブストーリー(本作では黒の組織)が本編の解決後に爆破なり何なりを起こしてラストを盛り上げる構成は、これからも何度も出てくる。小学生が車でビルからビルへ飛び移る大アクションを見せられたら、「すげぇ」としか言葉が出ない。日本版007であることを決定づけた作品。ちなみに、灰原哀が意外とマヌケだったことが判明。

 

2002『ベイカー街の亡霊』★★★★
急に方向性の違う作品が登場。閉じ込められた仮想空間でゲームオーバーになると現実世界でも死ぬという、まさかの『ソードアート・オンライン』ネタ。2002年でこれは早すぎる。ホームズや切り裂きジャックの豆知識も大量に含んでいて楽しめる。脚本は野沢尚。だからか。

 

2003『迷宮の十字路』★★★
サブキャラクターのひとりにスポットを当てて、京都の観光名所を行ったり来たりする。話は小さくまとまっていることもあり、印象としてはスピンオフに近い。

 

2004『銀翼の奇術師』★★★
蘭が新一の助言を受けながらジャンボ機を操縦して着陸させる。日本の007シリーズであれば絶対に必要なクライマックスであろう。それとは別に人がひとり死んでいるのだが、もはや本編であるはずのミステリが添え物のような扱い。それもまた007。


2005『水平線上の陰謀』★★★★★
ありがちな倒錯ミステリと思いきや一捻りあり、定型パターンを破る展開が続いた後に物語の帰結として一大スペクタクルまで直線的に連なっている。シリーズの中でもシナリオの練られ具合はトップクラス。長年ダメキャラであった小五郎が活躍するだけで胸が熱くなる。

 

2006『探偵たちの鎮魂歌』★
狂った金持ちのデスゲームもの。あまりに壮大な設定にしてしまったために、犯人の計画がツッコミどころ満載になっている。制御できない要素で死んでしまう可能性があるなら、人質として成り立たないのではないか。そもそも、ターゲットに外れない腕輪をつけて管理下に置くのなら、『バトルロワイヤル』の島のように密閉空間にしないと無理だろう。横浜の街に普通に出れるって。

 

2007『紺碧の棺』★★
南の島での宝探しという王道ストーリー。あまりに王道で話も派手さがないので、逆に物足りなくなってしまっている。

 

2008『戦慄の楽譜』★★★★
珍しくアクションよりもミステリのほうが比重が大きく、ストーリーで引っ張る。外では爆発が連続しているホールの中でクラシックの歌声が響く状況に映画的な興奮を覚える。スペクタクルの演出に新たな方向性を見出した作品。

 

2009『漆黒の追跡者』★★★★
黒の組織が本格的にストーリーに絡んでくる。シリーズの中でもトップクラスのシリアスさで、小五郎が完全に浮いている。初見者への配慮はしつつも、原作・TVアニメの大きな流れを踏襲したほうが面白さは加速するのかも。

 

2010『天空の難破船』★★
飛行船の窓から平気で子供を投げる人物が登場しながら、結局は誰も死なない。事態の壮絶さに比べて怪盗キッドがヌケていたりと、何かとアンバランスに感じる。冥途の土産に教えてくれる真犯人が、ついにコナンにも登場。別に必要もないのに物語にかかわる人物を演じる某ゲスト声優が違和感のあるレベルで下手なのが気になって仕方ない。

 

2011『沈黙の15分』★★
007なら絶対に通るべきスノーアクションが満載の一作。ここ何作か抑え気味だった派手なアクションが連発して息つく暇もない。決壊したダムの水を止めるために自ら雪崩を起こすなんて、もろジェームズ・ボンドでしょう。ただ、結論が解っていること(コナンが死ぬわけないので)を最後に延々とするのなら、絵的な面白さが無いと退屈する。

 

2012『11人目のストライカー』評価不能
シリーズきっての謎作。「さあ、ゲームを始めよう」系の真犯人が、やたらと無意味に手間のかかるデスゲームを仕掛けてくる。それより何よりキングカズの超絶棒読みが耳から離れない。特別ゲスト出演にしては尺が長いと思っていたら、ラストに回想シーンで再登場してくるし。Jリーグとのコラボだからか、競技場での観客の避難がありえないほど迅速。

 

2013『絶海の探偵』★★
防衛省と海上自衛隊の全面協力の下、イージス艦を舞台に殺人事件を解決する。自衛隊員や海上保安員の中に殺人犯やスパイがいたり、海での捜索を切り上げようとするなど、ある程度の懐の深さがうかがえる。事件解決後にスペクタクルが起きるいつものラストだが、海上を捜索するだけでは絵的に動きが少なく冗長に感じる。『沈黙の15分』同様、結論は解り切っているのだから。

 

2014『異次元の狙撃手』★★★
急に劇場版初登場のキャラクターたちがわんさか登場。スカイツリー(をモデルとしたタワー)を舞台に、派手なアクションが繰り広げられる。シリーズの中では可もなく不可もなくの印象だが、この真犯人が無関係の子供を殺そうとするとは思えないのが引っかかるところ。

 

2015『業火の向日葵』★★
ゴッホの「ひまわり」をめぐるアートミステリ(原田マハのブームに乗ったのかな)。鈴木財閥なる設定によって、どんなに非現実的な建物や防犯システムもアリにしてしまう強引さは巧いかも。物語としては、複数の短いエピソードが乱雑に配置されていて、散漫な印象。損保ジャパン日本興亜美術館が実名で登場して実際に展示している「ひまわり」が盗まれる。これを許可できるあたり、コナンがある種の権力になったと想像してしまう。

 

2016『純黒の悪夢』★★★★★
よくネットで名前を見かける安室透って人をやっと認識した。黒の組織が物語に加わると、尋常じゃない爆発にも必然性が出てくるので良い。冷酷な人物が子供たちとの交流を経て心変わりをするベタな展開だが、これまでシリーズがそれぞれ積み上げてきた2つのもの(黒の組織と少年探偵団)が初めて重なることで、意外にも胸を打つ。個人的にはコナン劇場版のベスト1。

 

2017『から紅の恋歌』★★★
競技かるたという地味なテーマながら、冒頭から爆破は大盤振る舞い。外で爆破が続いている中で気づかずに競技かるたを続けるクライマックスは『戦慄の楽譜』と同じ構図だが、だとしたらかるたシーンをガチに作ってほしかった。それが絵になるのは『ちはやふる』で証明済みなのだから。

 

2018『ゼロの執行人』★★
シリーズでは異色の警察内部もので、警視庁公安部と東京地検公安部、そしていつもの警察たちが組織内で駆け引きを行う。公安から裁判手続きからIoTまで、専門的な情報量が格段に多い。最後の愁嘆場が長く、しかもアニメ的に動きの少ない危機を挟んで2回もあると、さすがにくどい。しかしネタ抜きに「僕の恋人は、この国さ」ってセリフはインパクトすごいな。

 

2019『紺青の拳』★★★
シリーズ初の海外がメイン舞台。また、ここまで肉弾アクションが多いのも初めてか。自分勝手な理由でシンガポールの街を壊そうとする真犯人はシリーズ随一の狂いっぷりかも。怪盗キッドが殺人犯と間違われる展開は2回目なので、またかとも思うが。劇場版では初めてきちんと登場した京極真については基礎知識を入れておいたほうがいいかも。

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個人的なベスト5+1は以下の通りです。まあでも、記憶から消せないほどのインパクトを残したのは『11人目のストライカー』だけど。

 

1『純黒の悪夢』
2『水平線上の陰謀』
3『ベイカー街の亡霊』
4『戦慄の楽譜』
5『漆黒の追跡者』
次点『から紅の恋歌』

 

あと関係ないことだけど、どうも日頃の映画館通いのせいか映画を観ている間は空腹を忘れる体質になっているらしく、コナン劇場版マラソン(って名付けていた)の間は1日に食パン1枚だけで平気だったりした。そうか、金が無くて食料が買えなくなったら映画を観ればいいのか。これが今回気づいた一番有益な情報である。

 

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