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【洋画/ドキュ】『主戦場』ネタバレ感想レビュー--爆笑ポイントが何ヶ所もある非常に楽しいエンタメ映画

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監督&脚本:ミキ・デザキ
配給:東風/上映時間:122分/公開:2019年4月20日

 

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74点
あるテーマに沿って、様々な主張を持つ多くの人物たちのインタビューをメインに並べ、合間に関連する映像や写真などの資料を挟み込む。ドキュメンタリー映画の手法のひとつとして定番であるが、素人(役者ではない人、という意味で)が喋っているのを延々と聞かされるだけなので、ともすれば冗長になりがちなリスクもある。ところが、本作の場合はこれがエンタメとしてなかなかに面白くエキサイティングなのだ。

つい吹き出してしまう爆笑ポイントが何ヶ所もあって、純粋に楽しい。現役の国会議員が、日本と比べて中国の製造業は技術力で敵わないとか真顔で言っているのだから。家電量販店とか行かないのかな。しかも、こんな面白いギャグを言っているのに、聞き手(日系アメリカ人2世の監督)は、何も言わずに放っておく。ここでツッコミを入れれば漫才として成立するのだが、喋りっぱなしのまま終わるので、むしろ満足げに少し口角を上げる発言者の顔のアップが高度な笑いを呼び起こしている。

そう、この映画、インタビューされている人の顔が異様にアップなのだ。TVもしくはネット配信なら普通の大きさだが、映画館のスクリーン約半分を人間の顔面が占拠しているとさすがに圧倒される。この迫力によって、発言内容はより印象的に膨らむ。ロジカルであればよりロジカルに、エモーショナルであればよりエモーショナルに、メチャクチャであればよりメチャクチャであると、顔面アップの映像とともに脳内に焼き付けられる。

ただ、笑いに関して言えば、多少の物足りなさも感じる。おもしろ素材はたくさん集まっているので、『水曜日のダウンタウン』ばりに悪意を持って編集すれば、もっと爆笑を取れるのにと、もったいなく思ってしまう。ここは監督の実直な性格が反映されているからであり、そのおかげで映画自体の説得力は増しているのだが。

たしかに、一度に行われたインタビューをバラバラにして、ある発言のあとにそれを否定する別の人の発言を流すような編集はされている。安易にやってしまうと恣意的な印象操作になりかねないが、本作では事実関係の確認について行われていることが多いので、まあ正当な所作の範囲であろう(というか、この映画は基本的に事実関係の確認作業がほとんどだ)。「日本人は嘘つきが悪いという美徳な精神だが、他国では騙されるほうが悪いと捉えられる」なんちゅう無根拠な発言は、即座に反例を出してもらわないと困る。日本人として恥ずかしいので。

映画の趣旨としては、ある出来事について事実か事実ではないかと相反する主張があるため、その検討を行っている。事実ではないと主張する人(以降、否定派と呼びます)の根拠は大きく2つある。1つは「証拠となる文書が残っていない」ということ。これについては「文書が残っていない理由がある」という反論が即座に下される。否定派は、例えるなら「カルロス・ゴーンの調査報告書にピエール瀧の名前が無かったので、ピエール瀧はコカインをやっていない」みたいなことを平然と言っていたりする。うん、例えが解りにくいですね。ただ実際これくらい解りにくいことなので、ちゃんと聞いていないとスルーしてしまいがちなのだが。

否定派のもう一つの根拠が「当事者の言っていることが二転三転している」というもの。これについては、何十年も前の出来事を何度も正確に伝えられるのかと疑問を呈される。少なくともボクは無理だなあ。たった3ヶ月ほど前に、TVに出るという稀有な体験をしたのだが、それですら朝からの行動とか司会者との会話の内容とか正確に思い出して人に伝えるのは不可能だ。いくら印象に残る体験でも、ぼんやりとした表現になったり話をスムーズにするために無意識に脚色したりしてしまう。

きっと否定派の方々は、何十年も前の体験でも正確に思い出して人に伝えられることができるのであろう。そうでなければ、そんな主張を掲げることなんてできない。ところが、まさにインタビュー中に自らの過去の体験を正確に思い出せず、事実誤認を堂々と喋る否定派がいたりする。当事者でも体験談が多少はあいまいになる事例を自ら体現しているのだ。こんな体を張ったギャグには、笑いをこらえきれない。

否定派の主張と、その反論根拠の提示が順繰りに繰り返されたのち、満を持してラスボスが登場する。ここまでに登場した多くの否定派とつながりのある人物なのだが、いきなりの衝撃発言をかましてくれる。あまりのことに、編集では発言部分を2回繰り返している。そして、これまでに登場した誰よりも"幼稚"な発言をつらつらと述べるこの人物に、監督も呆れ返ったのだろう、オリジナルの肩書で呼ぶなど、ナレーションで小馬鹿にし始める。編集によって監督の明確な悪意が露になった瞬間だが、悪意を示すことこそが正義となる状況では致し方ない。

ともかく、このラスボスの一言を聞くためだけでも、映画館に足を運ぶ価値はある。滅多にないよ、観客全員が一斉に呆れ返る共有体験なんて。この貴重な映画体験と遭遇できるチャンス、ぜひとも逃さないでほしい。

 

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