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【邦画】『雪の華』ネタバレ感想レビュー--中条あやみ演じる狂人に囚われた登坂広臣が、ついには自分も狂ってしまうサイコホラー

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監督:橋本光二郎/脚本:岡田惠和

配給:ワーナー/上映時間:125分/公開:2019年2月1日
出演:登坂広臣、中条あやみ、高岡早紀、浜野謙太、箭内夢菜、田辺誠一

 

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55点
なかなか面白い、コメディ要素の入ったサイコホラーであった。別にこれはボクの穿った見方でもなく、若いカップルが多めだった公開初日のバルト9では、何度か笑いが起こっていたわけだし。上映後は困惑でザワついていたし。

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何の病気だか解らないが、とにかく余命一年しかない美雪(中条あやみ)は、宣告されたその日にひったくりに会うも、クリスマスツリーを運んでいた男に助けてもらう。ここで雪が降ってきて、美雪が「雪」と目の前にあるものをそのまま言うので、またいつもの「何でもセリフにするやつかよ」と最初は思うのだが、これは美雪の狂人ぶりを表しているのだと後に解ってくる。

桜の花を手に取ろうとして倒れたりしたのち、季節は巡って夏。美雪は偶然に、助けてもらった男を見かける。後を追うと、そこはだだっ広いカフェ。男は店員の悠輔(登坂広臣)だと判明するが、店に入って注文をしても相手は自分を助けてくれたことを覚えていない。そんな中、悠輔とカフェ店長(浜野謙太)との「100万円が用意できないと店が潰れる」という会話を聞いてしまう美雪。つい、悠輔に「100万円あげるので、1ヶ月だけ私の恋人になってください」とお願いしてしまう。

立地も良くなさそうだし、客が来ていない割に広すぎるのがカフェの経営を悪化させている原因だと思うのだが。あと、100万円でどうにかなる程度なら大した危機でもないような。そんな疑問はともかく、知らない女からの急な謎の頼みに、本気で気味悪そうな顔で「はぁ?」と返す悠輔。まったくもって正しい反応である。これ、ずっと美雪の視点だから目立たないけど、悠輔からしたら恐怖でしかないからね。しかしカフェが大事な悠輔は100万円を受け取ってしまい、謎の気味悪い女と1ヶ月間の恋人契約を結んでしまう。だから『まどマギ』は義務教育にするべきだって。安易に契約なんかしたら、後で取り返しのつかないことになるんだから。

自宅アパートに帰宅した美雪は、ノートを取り出して恋人とやりたいことをつらつらと書き始める。「これを使う日が来るとは思わなかった」とか、誰もいない部屋で自分の行動をいちいち口に出して説明する美雪。これはもはや「全てセリフで説明している」という演出上の瑕疵ではない。この女が完全に狂っていることを表現している。そしてここから、美雪の狂人ぶりは加速していく。

この、相手にとっては理由も解らず好意を寄せてくる謎の女という役柄は、『3D彼女』とまったく同じである。中条あやみのはまり役ということか。確かにこの人、素材としては小松菜奈に近いところがある。もっと小松菜奈のほうが生々しさがあるので、「関わったらヤバそう」という恐怖が伝わりやすいが。

さて、美雪と悠輔の恋人契約によるデート。自分の思う恋人像に沿わないと途端に不機嫌になる美雪と、100万円を受け取ってしまった以上は必死に相手に合わせようとする悠輔。あまりに類型的な恋人像を強制してくる美雪の態度はコメディとしては面白いし、ホラーとしても悠輔の「相手の思っていることを間違えたら、どうなるか」という緊張感と戸惑いがこちらにも伝わってくる。

美雪の狂人ぶりが最も発揮されたのは、悠輔の妹弟と美雪が会った時。不機嫌な悠輔の妹(箭内夢菜)に対して、「あ、もしかして私に嫉妬してます?」と無邪気に言い放ち、「嫉妬されるなんて~」とメチャクチャ喜び始める。唖然とする妹だが、弟のほうが美雪に乗っかったため、結局は打ち解けることとなる。展開は強引ではあるが、ここは映画館で最も笑いが起こっていた。

そのあとは、医者(田辺誠一)から死期が前倒しになったと伝えられたので、慌てて2人でフィンランドに旅行して、「恋人なんだから」ってことでキスまでするが1ヶ月の契約が終わって、帰国後はそれぞれ別の生活を始めることとなる。この映画、とにかく美雪のセリフが多いのでシーンひとつひとつが長く、それゆえ話の展開が遅いうえに緩急によるドラマがほとんどない。まあ、美雪の狂人ぶりを尺を使ってたっぷりと見せている、とも言えるが。

そして季節はさらに巡って冬。最後のチャンスとばかりにオーロラを見に冬のフィンランドへ単独で乗り込む美雪。死期が迫っている病人が旅行とか止めたほうがいいと思うが、狂人なので仕方ない。医者から美雪の病気やひったくりの件を聞かされた悠輔(普通のホラーなら、同じタイミングで観客にも種明かしされるわけだが)は、美雪を追ってフィンランドに向かう。日本からフィンランドって、飛行機だけでも9時間かかるんだけど、この映画の中では気軽に行ける場所みたい。

あと、けっこうな医療費がかかっているはずの美雪もなのだが、それ以上に雄輔が2回もフィンランドに行けるほどの貯蓄があったのかという疑問もある。両親がいなくて、学生の妹弟2人をカフェの給料で養っている悠輔が、なぜ思い付きでフィンランドに行けるのか。住んでいるアパートも安普請にしか見えないし。

ただこれは、美雪に囚われた悠輔のほうも狂ってしまったと捉えるべきだろう。家族も仕事も放っぽり出して、なけなしの財産に手を付けてまで、ひとりの女に会いたいがために我を忘れて突っ走る悠輔。サイコホラーであるならば、女の毒牙にかかった男の末路としては、順当である。ヒッチハイクした車(タクシーの手配すらしていない)が倒木のために進めなくなった時に、積雪の中を走り出す悠輔は、はたから見ても完全に狂っていた。

最終的に美雪が死ぬ描写の前に映画が終わっていたのも、恐怖の余韻を残す。この後、二人で心中しかねないからね。とにかく、狂った女につきまとわれ、ついには自分も狂ってしまう男の話、という素晴らしいサイコホラーであった。

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