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【邦画】『マスカレード・ホテル』ネタバレ感想レビュー--声のデカい客の理不尽なワガママに応えることを正しいサービスとする害悪

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監督:鈴木雅之/脚本:岡田道尚/原作:東野圭吾

配給:東宝/上映時間:133分/公開:2019年1月18日
出演:木村拓哉、長澤まさみ、小日向文世、梶原善、泉澤祐希、東根作寿英、石川恋、濱田岳、前田敦子、笹野高史、高嶋政宏、菜々緒、生瀬勝久、宇梶剛士、橋本マナミ、田口浩正、松たか子、鶴見辰吾、篠井英介、石橋凌、渡部篤郎

 

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46点
とあるホテル客(変な形の付け髭をした濱田岳)が、通常のシングルルームにチェックインした直後に「部屋がタバコ臭い」と文句をつける。「すぐに別のお部屋をご用意します」と、スタッフが対応する。案内されている移動中もブツブツと文句を言う客。そして、案内されたのが最高級のスイートルーム。裏では「文句をつけて部屋をグレードアップさせようって魂胆でしょう」とスタッフが会話しているが、お客様第一主義ということで正しい対応とされている。

チェックアウトの行列が待てず「客を何だと思ってるんだ!」と怒鳴り散らす老人客(笹野高史)に対しても、謝罪したうえで優先して対応するスタッフ。この一部始終、エントランスにいる他の客たちの目の前で行われているからね。えーと、声のでかいワガママ客の理不尽な要求に対応するようなホテル、利用したい? 列を飛ばすってことは、律儀に順番を守っている他の客が被害を受けているわけだよ。コイツひとりを特別対応したせいで、多くの客が不快な思いをしているんだけど。

この方針をホテルが推奨しているとすれば、さすがに時代に逆行していると言わざるを得ない。「おもてなし」の間違った解釈であろう。だが劇中では「ルールはお客様が作る」という言葉とともに、正しいものとして話は進んでいく。潜入捜査としてフロントマンに扮した刑事・新田(木村拓哉)は、客だからって何してもいいのかと正論を言おうとした瞬間にさえぎられるし、後に「客の理不尽な要求に我慢して対応する」ということによって成長の証としている。

かと言って、ホテル側も本当にお客様は神様と思っているわけでもないのだ。裏では客への文句も普通に言っているし、備品窃盗の疑いがかかっているなどトラブルの可能性のある客では、常にパソコンで部屋の出入りを監視している(普通に嫌だなあ、これ)。有能フロントの山岸(長澤まさみ)ですら、ホテルのサービスとはこうあるべしという強い信念で行動しているのであって、客そのものに対して敬意を示しているわけではない。

象徴的なのが、目が全く見えないという女性客とのエピソードだろう(なお本作、単発で並べられたホテル客とのエピソードがメインで、犯人や被害者は誰なのかというミステリ要素はサブでしかない)。いつものように特別対応する山岸に対し、新田は刑事としての観察眼から、彼女は目が見えているのに視覚障害のふりをしているのではないかと察する。それを聞かされた山岸は、途端に動揺し、女性客のことを信用できなくなるのだ。これすごく不思議で、「事情があって目が見えないふりをしているのでしょう」と性善説を掲げればいいだけではないか(実際、一度はそういう結論になるのだし)。客に敬意を示していない証拠だ。

いや、ホテルのスタッフが内心では客のことをどうとも思っていないというのは、むしろリアリティがあるからいいんだけど。ただ、そのうえで客の理不尽なワガママに応えることを正しいサービスとするのはダメすぎるだろう。この事件の被害者が犯人に恨まれる理由だって、突き詰めて言ってしまえばホテルの対応が悪かったからってことになっていたし(完全に逆恨みだけど)。

ミステリとしてのダメさもあちこちにある(あの数字列を見て緯度と経度だって気づかないとか)んだけど、それより何より、このホテルのサービスの方向性が根本的に間違っているのが、どうにも耐えられなかった。この間違った「おもてなし」を是として掲げる本作は、日本の未来にとって害悪でしかない。

マスカレード・ホテル (集英社文庫)

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