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【邦画】『ニセコイ』ネタバレ感想レビュー--マンガ的であるとはどういうことか追求し、空間演出もキャラクター造形も手を抜いていない

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監督:河合勇人/脚本:小山正太、杉原憲明/原作:古味直志
配給:東宝/上映時間:117分/公開:2018年12月21日
出演:中島健人、中条あやみ、池間夏海、島崎遥香、岸優太、青野楓、河村花、GENKING、松本まりか、丸山智己、加藤諒、団時朗、宅麻伸、DAIGO

 

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70点
これ、漫画実写化の正攻法での成功例であり、現代日本におけるスクリューボール・コメディの完成形ではないか。それくらい素晴らしく、興奮した。監督が『鈴木先生』(ドラマも映画も)の人だと後で気づいて納得。『チア☆ダン』『俺物語!!』など観逃がしていて申し訳ありませんが、これからはずっとついていく所存です。

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主人公は極道一家「集英組」組長の一人息子・一条楽(中島健人)。まずは冒頭、楽の自室が150畳(パンフより)という巨大な部屋で、真ん中にポツンと布団が敷かれて、傍らにつつましく机が置いてあるという、非現実なスケール感に飲み込まれる。この映画、屋内でも、屋外でも、常に空間が広い。シャフト制作のアニメを実写化したら、こんな感じになるのではないか。

空間そのものが非現実なので、極端な顔芸や叫び(テロップあり)で感情を表現するなどのマンガ的な手法も、自然に受け入れられる。キャラクター達の姿かたちも絶妙で、ビニール素材の安物ウイッグを被せるようなことはせず、作品内の世界観におけるリアリティが保たれているかどうか、髪形だけ見てもギリギリのラインを攻めている。パンフレットにはヘアメイクの人が14名のキャラクターについて解説していたが、ここは誇っていいところだろう。とにかくこの映画、マンガ的であるとはどういうことか追求し、手を抜かずに細部までこだわっている。

話の流れをざっくり説明する。極道の「集英組」とアメリカのギャング組織「ビーハイブ」が一触即発の事態になるが、トップ同士が旧知の仲なのでそれは避けたい。そこで互いのトップの子供が恋人同士だと嘘をつき、付き合っている間は抗争は休止だと宣言する。そんなわけで、初対面からウマが合わない一条楽と桐崎千棘(中条あやみ)は、監視の目を欺くために恋人のふりをする「ニセコイ」を決行する。

こんなことをしないと部下の行動を抑えられない両トップが無能な気もするが、そういう前提をツッコむのは野暮であろう。互いに悪印象の男女が恋人のふりをしなくてはいけないというのは、ラブコメの王道パターンのひとつである。あとは、細部をどう練るのかにかかっている。

楽のほうは、子分たちが素直に恋人の誕生を喜び、余計なお節介を続ける。一方の千棘のほうは、部下のクロード(DAIGO)が、2人が本当に恋人関係なのか疑い、あらゆる手段で執拗に監視を行う。特に前半のコメディ部分の大半は、このクロードに託されていて、彼の度を過ぎた監視方法が笑いを生んでいく。

※ クロードと千棘の関係については、もう少し情報が欲しかったが。いまいち関係性とか互いにどう思っているかとか不明なんだよね。

突拍子もない形で現れるクロードの無表情と、それに反応する楽と千棘の顔を歪ませたオーバーな表情、という落差が笑いを大きく補完する。簡単にやっているようだけど、変顔でサムくならないって凄いことだからね(『センセイ君主』の浜辺美波以来か)。中条あやみは顔の各パーツがハッキリしているタイプの美人なので、歪ませると各パーツの個性が強調されて別種の魅力を放つということが解った。パーツごとではなく配置のバランスで美人となりえている人だと、こうはいかない。

クロードが学校の廊下で銃をぶっ放すなど、普通にありえないマンガ的な状況が楽しい(しかしこれが伏線だったとは…)わけだが、「恋人のふり」ギャグだけを続けていても限界がある。そこで中盤で唐突に警視総監の娘・橘万里花(島崎遥香)という新キャラを投入。哀しいくらいにストーリーには絡まないのだが、アクセントとして機能していた。同時にクロードが「2人の恋人関係を疑う」から「千棘に楽はふさわしくないので、陥れる」に目的が変更。ギャグが退屈になりそうなところで微妙に方向転換していて、中盤を過ぎてもテンションは保たれていた。

とは言っても、臨海学校のエピソード(肝試し、温泉での混浴)はベタが過ぎるうえにブツ切りな感じで終わってしまっていた。どうもエピソードを消化しようとサイクルを早めている感があったような。そして、同級生で楽が本当に思いを寄せている小野寺小咲(池間夏海)が、互いに気づかないままの相思相愛であることが判明し、千棘だけがそれを知ることになる。なお、この池間夏海という人の持つ本能的な小悪魔性は末恐ろしく、近いうちに邦画界に激震を起こしそうな気がしている。

実は冒頭で、楽には子供の頃に結婚の約束を交わした少女がいると提示されている。これ、セオリーとしては相手は千棘と予想してしまうが、一瞬だけ万里花かとミスリードさせておいて、実は小咲だったという大番狂わせとなっている。この展開は賛否両論あると思うけど、ボクは肯定的に受け止めた。一気に物語に深みが増したというか、これによってどっちに転んでも定型が成立しなくなったのだから。楽が「ニセコイ」から本物の恋へと発展して千棘を選んでも、運命づけられた相手として小咲を選んでも、どちらにせよ、やりきれなさが残る。

※ 物語的にスッキリさせるなら、小咲を裏のある人物にしてフラれても仕方ないとするところだが、そうしないのが妙である。ただ個人的には、小咲(というか池間夏海)にはずっと恐怖を感じていたが。

マンガ的な空間の中で、小咲の恋心が露になったために、どうにもならないリアルが押しかかってくる。そんな中でのクライマックスは、文化祭での『ロミオとジュリエット』の劇。どう考えても高校生の出し物とは思えない舞台セット(まず、場所は学校のどこかではなく撮影所だし)の上で、ロミオとジュリエットの話に沿いつつアドリブを交えて千棘は楽に小咲の想いを伝える。

ここから後の風呂敷の畳み方はやや強引だが、こういうのをちゃんとまとめられるのは手練れの脚本家でも難しいから仕方ない面はある。楽が自分の本心を口にして土下座する相手が、ここまで心の内が一切明らかになっていない脇役だったりするのが気になるっちゃ気になるが(そのあと、クロードとも対峙するわけだし)。まあでも、グダグダにはなっていないのは、やはり空港を借り切っての無駄に大きいスケール感によって、マンガ的な空間が保たれていたことが大きい。

ともあれ、マンガ的な非現実な空間にどれだけの説得力を持たせるかに勝負をかけており、成功している。「神は細部に宿る」という格言を具現化したのは快挙であろう。

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