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【邦画】『ノーマーク爆牌党』ネタバレ感想レビュー--NON STYLE・石田明に天才雀士の役をオファーするのが悪い

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監督&脚本:富澤昭文/原作:片山まさゆき
配給:AMGエンタテインメント/公開:2018年10月27日/上映時間:?分
出演:石田明、矢本悠馬、長澤茉里奈、高崎翔太、永田彬、モロ師岡

 

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52点
お笑い芸人でありながら、役者として映画やドラマに出演する人は、別に珍しくもない。話題性やイロモノ扱いではなく、あくまで役者の実力を買われてオファーされている人もザラにいる。最近の邦画でよく見かける芸人では、TKO・木下隆行やアンジャッシュ・児嶋一哉など、コントをメインにやってきた人が多い印象がある。コントはネタごとに別のキャラクターを演じる必要があるため、本人が喋っているというタテマエの漫才師よりかは役者の仕事に近いからだろう。もちろん、例外となる人物も山のようにいるが。

ノーマーク爆牌党 (1) (近代麻雀コミックス)

ノーマーク爆牌党 (1) (近代麻雀コミックス)

 

 

と、そんなことを考えていたのは、『ノーマーク爆牌党』という映画を観たからである。本作の主演はNON STYLE・石田明。漫才師としては何度も賞レースで結果を残し、また長らく女子中高生からの絶大な支持を得ていることから、実力も人気も同世代の芸人の中では頭一つ抜けていることは誰もが認めるところであろう。相方のけっこうな不祥事がありながら、それさえもネタにしてTVに出続けているのは、世間が欲しているという大前提があってこそである。

だが、この石田明、本作『ノーマーク爆牌党』のセリフ回しが、とんでもないほどの大根なんである。映画館で、あのレベルの拙い演技を観たのは、久しぶりだ。いや、大根であること自体が悪いわけではない。ボク自身は、演技が上手か下手かというのは役者の評価とあまり関係ないという持論を持っているし。

ある作品で下手だった役者が、別の作品で本当に同じ人かと思うくらい素晴らしい演技をしているという瞬間を何度も目の当たりにしているので、役者自身よりも監督や演出の手腕であると思う。また、下手な演技それ自体が、巧く使いこなせば魅力にも変換できる。これはよく指摘されていることだが、大杉漣はけして演技が巧いわけではない。しかし劇中の絶妙なポイントに大杉漣を配置することで、その演技の下手さがアクセントになったり、あるいは良い意味で違和感を発生させたりと、効果的に用いられることができる。

話を『ノーマーク爆牌党』に戻す。原作は片山まさゆきの麻雀漫画。ボクは未読(それ以前に麻雀が一切解らない)だが、熱心なファンの多い作品らしい。石田明は、麻雀界に突如現れた謎の天才雀士を演じている。細い目やヒョロっとした体格のため、衣装も相まって外見はなかなかサマになっている。だが、喋った瞬間に、そのアウトローな雰囲気は総崩れになる。だって、セリフが棒読みだから。

超簡単に説明すると、ガチガチに守る戦術を得意とするアマチュアチャンピオン(矢本悠馬)が、相手の捨て牌を完璧にコントロールできる天才雀士(石田明)に立ち向かう話である。天才雀士はセオリー無視の牌切りによって相手を混乱させて、自分の望んでいる牌を捨てさせるように仕向けてくる。あ、本当に麻雀解らないんで、専門用語とか間違っているかもしれないです。

いきなり結論を言うと、守るんじゃなくて自分から攻めていかないといけないんだっていう、古臭い精神論が絶対的に正しいってことになる。個人的には、あくまで守りを極めることで対決するか、もしくは攻めるにしても相手の不意を突いた奇襲などのようにロジックがあれば良かったと思ったが。まあそれは無いものねだりか。天才雀士が勝負どころで牌を捨てると雀卓から強風が発生し、周りにいる人が吹き飛ばされそうになるというマンガ的演出が、全体的にリアル寄りの世界観の中であまりにミスマッチなのも、触れないでおこう。

気になるのは、やはり石田明演じる無頼派めいた天才雀士である。これ、石田明が謎めいた圧倒的な存在として中心にいなくてはいけない話だろう。創り手もそこは解っていて、たとえば対局中は主に選手のナレーションによる心の声で進むのだが、この声が石田明だけ無いなど、最低限の配慮は行っている。でもやっぱり、肝心なところで引っかかるのである。

石田明と合法ロリ巨乳(って公式サイトのキャスト紹介に書いてあった。どうかと思うが)演じる女性雀士とのデートシーンがある。このデートは、石田明が強制的に付き合わせているだけで、合法ロリ巨乳は全く乗り気ではない。だがここで最後に、石田明が細かく麻雀を分析したメモを落とし、合法ロリ巨乳が拾ったところで「虚勢を張っているけど、負けるのが怖いだけやねん」みたいなことを言い、自分の素の弱いところを見せ、後ろからハグをする。合法ロリ巨乳は、ほんの一瞬だけ石田明に惹かれる。

合法ロリ巨乳と矢本悠馬は、互いに気になる微妙な距離感にいる。このデートは、合法ロリ巨乳の気持ちを揺さぶることで矢本悠馬を負かすための、石田明の作戦の一環だったのではないか。試合の直前に、合法ロリ巨乳のイヤリングを矢本悠馬に「返しといて」と渡すことで、精神的に揺さぶりをかける。そのあとの合法ロリ巨乳(ちなみにこの人も超大根)の行動がバカみたいなんだけど。

脚本上の問題としては、もしもこのデートが本当に動揺を誘うための作戦だとしたら、イヤリングのシーンさえあれば良い訳で、石田明が合法ロリ巨乳に弱い面を見せる必要はない。となると石田明の弱音が本心だという可能性が出てくるが、前述したように、それは絶対にやってはいけないことである。そして演出上の問題として、孤高の天才性を裏付けるための石田明の決め台詞が普段のキャラクターからかけ離れたもの(賞金の額にケチをつけるとか)なため、あまりに言い慣れていなくて大根ぶりが先に来てしまい、キャラクターの保持が全くできていない。

石田明は、漫才師である。ネタでのキャラクターも、トーク番組でのキャラクターも、常に統一している。それも、実はかなり個性の強いキャラで通している。ひとつのキャラだけで10年以上もやってきた人に対して、急に全く別のキャラクターをやってくれと言ったって、どだい無理な話である。石田明に無頼派めいた天才雀士の役をオファーした人が悪い。いや、オファーしてもいいのだが、キャラクターはいつも通りにするべきだった。実際、原作からはかけ離れるかもしれないが、オーバー気味に相方を小馬鹿にするいつもの石田明のキャラクターを主人公にしても、この話は成り立つのだから。

 

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