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【邦画/アニメ】『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ~2人の英雄(ヒーロー)~』ネタバレ感想レビュー--親子関係をメインに持ってくるのは『ヒロアカ』の流儀なんだろうか

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監督:長崎健司/脚本:黒田洋介/原作:堀越耕平
配給:東宝/公開:2018年8月30日/上映時間:96分/アニメーション制作:ボンズ
出演:山下大輝、三宅健太、志田未来、生瀬勝久、小山力也

 

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60点
先に個人的なことを言うと、「週刊少年ジャンプ」連載中の原作漫画は単行本で最新刊まで読んでいるが、TVアニメは未視聴という状況。作中で「個性」と称される異能力を持つキャラクターたちが、ヴィランと呼ばれる悪の組織とバトルをするという展開や、作画の技法を含めて、原作は多分にアメコミを意識している。主人公・緑谷出久は、作中世界における公的なヒーローとなるべく専門の学校に通う少年で、共に学ぶクラスメイトとともに、様々な試練を乗り越えるというのが、基本的な筋である。

僕のヒーローアカデミア 1 (ジャンプコミックス)

僕のヒーローアカデミア 1 (ジャンプコミックス)

 

 

原作の印象深いところで、この手の少年バトル漫画には珍しく、家族の存在が大きい。クラス内には、家族が有名なヒーローとして活躍しているがために苦悩するキャラクターが2人もいるし、緑谷出久に至っては、ふくよかで髪の毛を丸くまとめた「日本人が心の中に持つ母親像」そのまま記号的に表現したかのような母親がいる。この母親は、息子が何度も命の危機に合っているため、そのたびに心配し、ヒーロー業に就くことに不安を抱いている。

数多の少年成長譚が「父を乗り越えること」を主題としており、『ヒロアカ』でも緑谷出久は疑似的な父子関係にあるヒーロー・オールマイトとの関係をどう発展させていくかがストーリーの根幹にある。その一方で、絶対に抵抗できない「母性」が別の意味で立ちはだかってくる。母親が泣きながらヒーローになるのを止めてほしいと訴えるシーンは衝撃であった。他のジャンプ作品だと、たとえば『暗殺教室』潮田渚の母親は一種のモンスターであり、父親的に乗り越える存在であるが、緑谷出久の場合は完全なる「母性」が包み込んでくるために、乗り越えるどころか、そもそも一生逃れることはできない。このため、こと母子関係に関しては、今後の展開が読めないのである。

とまあ、原作漫画について長々と書いてしまったが、今回の劇場版に緑谷出久の母親は回想シーンに一瞬出てくるだけです。話自体は、ゲストキャラクターの親子関係がひとつ大きな軸なのだが、父と娘ということもあって、割とパターン通りの「父の過ちを娘が正す」という展開であった。そうはいっても、やっぱり親子関係を持ち出してくるのは、『ヒロアカ』の流儀なのかなとも思ったり。

原作の持つアメコミへの意識を、アニメの中でどのように反映しているかが興味深かった。平和の象徴として讃えられているオールマイトが人前で活躍すると、主線が異常に太いアメコミタッチになるのが、なかなか面白い手法。「一般人が望んでいる理想のヒーロー像」を演じているというのを、作画を変えることで表しているのだ。逸脱なアイデアだと思う。

まあ、既存ファンに向けたサービスが満載で、偶然にも一カ所にクラスメートが集まっているという無理筋な展開ではあるが、それぞれ見せ場を作っていたし(それでもけっこうな数がオミットされていたけど)、過不足なく真っ当な劇場版であった。原作読者として気になるのが、連載序盤ではメインキャラだったはずなのに最近とんと活躍の機会が無い蛙吹梅雨が、今回の劇場版でも事件に絡むことなく終わっていたこと。使い勝手の良い能力を複数持つうえに、冷静沈着で頭も良かったりと、いろいろ万能なだけに逆に扱いに困っているのではないかという、創り手の苦悩が想像されてしまう。

 

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