ヤガンEX

映画とか漫画とか似顔絵とか

【邦画】『トウキョウ・リビング・デッド・アイドル』ネタバレ感想レビュー--ゾンビが本格的なアクションを見せる、超斬新なゾンビ映画

f:id:yagan:20180616105036p:plain
監督&脚本:熊谷祐紀
配給:トリプルアップ/公開:2018年6月9日/上映時間:83分
出演:浅川梨奈、阿部夢梨、尾澤ルナ、中山優貴、山口智也、星守紗凪、尚玄

 

スポンサードリンク
 

 

47点
毎度おなじみ、そんなに有名ではないアイドルグループのメンバー主演のホラーアクションしかも今回はゾンビである。ゾンビ映画って作法がたくさんあるから安直に手を出すと目も当てられないことになるのだが、先に結論を言えば、やっぱり目も当てられないことになっていた。

浅川梨奈セカンド写真集 NANA (KCピース)

浅川梨奈セカンド写真集 NANA (KCピース)

 

 

アイドルグループ「TOKYO27区」のメンバー・神谷ミク(浅川梨奈)は、ライブ終了後に舞台裏で他メンバーに、歌やダンスの出来の悪さについて上から目線で文句をつけて、険悪なムードとなる。って、つい最近、別の映画でほぼ同じシチュエーションを観たが。アイドルグループが舞台裏で喧嘩するシチュも、飽和状態である。で、神谷ミクが「いつか中野サンプラザに立つようなトップアイドルになる」と壮大なのか謙虚なのかよく解らない野望を明らかにしたところで、エレベーターからゾンビが出てきて噛まれてしまう。

この世界では、ゾンビに噛まれると約72時間で自身もゾンビ化してしまう。日本では人権上の観点から、ゾンビに噛まれてもすぐには殺すことはせず、警察によって即刻隔離して、時間が経ってゾンビになってから処分するという。逆に言えば、少なくとも2日間は人間のままなのだから、監視のうえで死ぬ前に好きなことさせてあげればいいのに(『イキガミ』みたいな感じ)と思ったのだが、そこは日本の行政らしい杓子定規な考えのせいだろうか。

さて、隔離される途中でファンだという警官の手を借りて脱走してきた神谷ミクは、私立探偵の犬田満男(尚玄)に協力を仰ぎ、実はひそかに完成しているが政府がひた隠しにしているという血清を探すことにする。しかし脱走したため全国指名手配となった神谷ミクは、警察に加えて、民間のゾンビハンター(街中で銃とかぶっ放しても許されている人たち)からも追われることとなる。特に、日本刀でゾンビを切り倒す女子高生ゾンビハンター・如月(星守紗凪)から執拗に付きまとわれるのだった。

最後まで解らないのだが、この世界において「街にゾンビがいる」というのはどれほどの事態なんだろうか。福満しげゆきの漫画『就職難!! ゾンビ取りガール』のように、道端にいるのが当たり前なほど日常の存在なのか。それとも、熊が里に下りてきたくらいの一大事なのか。神谷ミクたちは、3日間の間に何度もゾンビと遭遇している。公園なんかでは、ゾンビと戦っている後ろで普通に人が歩いているので、やっぱり日常の風景かもしれない。撮影時に人払いできていないだけなんだろうけど

それにしても、こうもあちこちにゾンビがいるのなら、警察というか日本政府は血眼になって神谷ミクの行方を追うよりも、すでに存在しているゾンビたちを駆逐していくほうが先だと思うが。今更、1体増えたところで状況は変わらないだろう。あと、風刺のつもりなのか「TOKYO27区」の他のメンバーが謝罪会見していて記者から糾弾されていた様子が生中継されていたが、ステージ衣装の格好で謝罪ってどうなのか。ウサ耳まで着けていたが

ゾンビ映画を撮るなら最も詰めておかなければいけないはずの、ゾンビのスペックについても、不明な点が多い。というか、何も考えていない。如月は警官に「近くにゾンビが溜まりそうな廃墟とか無い?」と尋ねるのだが、なんでゾンビが廃墟に溜まるんだ? ネズミやゴキブリと同じようなもんかと思ってないか? で、低予算アクション映画の撮影場所としておなじみの倉庫の中で、複数のゾンビを相手に日本刀でバッサバッサと切り倒していく(別に脳を破壊しなくても、時代劇と同じように腹とか切るだけでゾンビは倒れる)。すごく珍しいんだけど、ゾンビがちゃんと受け身のアクションができているのだよね。JAC並みの動きを、ゾンビが見せる。超斬新。ゾンビ特有の個性が全く感じられない。

一方の神谷ミクが、かつてライブを行った野外コンサート会場で思い出に浸っていると、そこへ現れたのが「童顔巨乳大好きゾンビ」(テロップで出る)の集団。神谷ミクの写真が載ったチラシをポケットから出して本人だと確認すると、すぐさま襲いかかる。だからなんでこう、人間と同じ思考や行動ができるのか。同じく会場に来ていた熱狂的ファン2人が助けるべく立ち向かうが、ヲタ芸やペンライトによる応戦も空しく、あっさりゾンビの餌食となって食べられてしまう。

このファン2人は冒頭のライブシーンから何度も登場してきて、日本中が敵になった神谷ミクを純粋な心で助けようとしていたのである。ギャグのつもりなのは解るけど、ここで何の活躍すらせずあっさりやられるのは、扱いが酷いのではないか。という脚本上の問題もあるのだが、それよりずっと問題にしなくてはいけないことがあって、72時間経ったらゾンビになるという設定はどうなったんだよ!

複数のゾンビから一斉に噛まれたからゾンビ化する前に出血多量で死んだってことなのか。面倒な事情を観客に丸投げして、あとはそっちでうまく解釈してくれっていうの、本当やめてほしい。あと、なんで「童顔巨乳大好きゾンビ」が男ファンに執拗に構っているのか。さっさと見切りをつけて神谷ミクを襲うはずだろう。で、この「童顔巨乳大好きゾンビ」、壁を蹴ってバク転までしてくるという、やっぱりゾンビらしからぬアクションを繰り出すのである。

※ ついでにもうひとつツッコミを入れると、序盤から思っていたことなのだが、神谷ミクは既にゾンビ化が進行中の状態なのだから、さらに噛まれたところで実害はないんじゃないか?

さて、実は如月は神谷ミクの熱狂的ファン(それにしても、やたら都合よくファンが登場しては手助けしてくれるのだが、それだけ多くの民衆を虜にしているのなら、すでにトップアイドルのような気もする)だったため、協力して都庁の中にあるゾンビ研究施設で監禁されている血清を持つロシア人を助けに行くという展開になる。ちなみに、血清の存在を公表しない理由は、ゾンビがいなくなるとゾンビハンティングという楽しみが無くなってしまうので、民間のゾンビハンター会社が政府を言いくるめているかららしい。もしかしたらボクの理解が間違っているかもしれない、と思ってしまうくらいメチャクチャである

しかし研究施設に潜入すると、そこでは研究の過程で「意志を持つゾンビ」が生まれてしまい、職員らをゾンビにして従えて、占領していたのだ。「意志を持つゾンビ」は人間だった頃の記憶も持っていて、「あーあー」としか聞こえない言語で会話もしている(字幕が出る)。それはゾンビじゃなくて宇宙生物とかの描写だと思うが。で、豚のマスクを被ったりして武装した「意志を持つゾンビ」と、如月や神谷ミクや犬田がバトルするのである。

この映画、ゾンビの側にちゃんとしたアクション俳優を使っているらしく、全体を通してバトルシーンはそれなりに見られる(スピード感を出したいのか、軽く早回しにするのはちょっとどうかと思ったが)。ただ、これだとやっぱりゾンビであることが邪魔になってしまうんだよね。本来、ゾンビがアクションしちゃいけないんだから。別にロメロに敬意を示せとまでは言わないけど、せめて作品中でゾンビの定義は統一してほしいなあとは思った

 

スポンサードリンク