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【邦画】『恐竜の詩』ネタバレ感想レビュー--丹波市の雑な紹介とジェネリック家電PRを1800円払って見させられる苦痛

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監督&脚本:近兼拓史
配給:アールツーエンターテインメント/公開:2018年6月2日
出演:とみずみほ、澤田敏行、古和咲紀、近田球丸、サニー・フランシス、芳野友美、永津真奈、KAZZ、小板橋みすず、中村葵

 

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20点
いやー、久々にとんでもない映画に出会ってしまった。これを観た直後なら、どんなダメ映画を観たとしても優しく許せてしまいそうだ。簡単に言うと、1800円を払って兵庫県丹波市の雑な紹介とジェネリック家電のPRを延々と見させられたのだ。都内で上映しているのがここだけだったので吉祥寺の「ココロヲ・動かす・映画館〇」(通称・ココマルシアター)に初参戦したわけだが、この不思議な映画館でのアレコレ(今回は触れませんが)を含めて、色々と貴重な体験をしたわけである。

監督は「ウィークリーワールドニュース・ジャパン編集長、ハリウッドの映画学校ISMP(インターナショナル・スクール・オブ・モーションピクチャーズ)インストラクター/日本事務局長、一般社団法人ジェネリック家電推進委員会委員長」(以上、公式サイトより)という怪しい肩書を多数持つ近兼拓史。『たこやきの詩』から始まる下町シリーズ(って言っていた。今回に関しては下町じゃなくて田舎だと思うが)の3作目である。ちなみに4作目も予定あり。

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さて、ストーリー。兵庫県丹波市で恐竜の化石が発見された。ほぼ全身の骨格が揃っており、新種の可能性が高い。丹波市役所(本物の建物)では大騒ぎとなり、恐竜を使った町おこしをしようと画策するが、博物館やら原寸模型やらを作るとなると2億円かかる。そんな財源があるわけない。そこで市長(もちろん本物)は知り合いの大坂の商社社長に電話をかける、そんなわけで社長命令で丹波市にやってきたのが、腕利きすぎてインドに行っていた営業マン・澤田敏行とその家族であった。

恐竜の発掘の様子が地方ニュースの映像という体で流れていて、なかなかよくできていると思ったのだが、実はこれ、本物の映像であった。全く知らなくて申し訳なかったのだが、丹波竜と名付けられる恐竜の化石が出土したのは実際の話だったのね。ラスト近くに登場する、博物館や原寸模型も丹波市に実際にある。ということは、費用2億円というのも本当のことなんだろうか。

ともあれ、澤田は、まずは丹波市で廃墟ビルとなっていた会社事務所兼社宅の修繕から始める。地元の工務店に夫婦で訪れ値切り倒し、(下水道が完備されていない地域なので)排水タンクを設置したりと、修繕の様子を尺を使ってたっぷりと見せる。金が無いとか言いつつ、自宅の壁紙、めっちゃ良いやつ使っていたけど。なお、別に事務所の修繕は、映画本編とは特に関係が無い。というかこの映画、こういうストーリーと無関係なシーンが7~8割を占める

冒頭のあらすじを整理して書いたけど、実際は「澤田一家が丹波に着く」→「恐竜の化石が発見される」→「市長が電話をかける」→「澤田家の高校生の長女のナレーションによる家族紹介(ここで修繕後の自宅内部の画が使われる)」→「自宅兼事務所の修繕」という順番なので、時制が変にグチャグチャなんである。意図は不明。あと、冒頭から始まってやけに空撮が多い。最近の低予算映画って、ドローンのおかげで無意味な空撮が多いんだよな

さて、土産物屋やスーパーを回って丹波市の名産品や地酒を丁寧に(観客に向かって)紹介した澤田は、満を持して丹波市の町おこし計画をプレゼンする。まずは2004年に6つの町が合併して誕生したという歴史から始まり、市の事業予算なども丁寧に説明してくる。観客に向けてなんだろうけど、物語上は市長以下職員に余所者が説明しているわけで、「そんなの言われなくても知っとるわ」って怒鳴られてもおかしくない。ちなみに丹波市って、合併の際の命名についてひと悶着あったはずだけど、その件には一切触れていない

澤田は、丹波市の町おこしキャンペーンとして2つの柱を提案する。ひとつは、丹波三宝(小豆とか、丹波市の名産3つのこと)に加えて、今回発見された丹波竜、そして丹波市の人と自然(うわぁ…)をセットにした丹波五宝をアピールしていこうというもの。もうひとつが、2億円の財源を確保するために、ジェネリック家電を推進していこうというものである。

ジェネリック家電とは、山善とかで扱っているような、大手メーカーの家電の旧型くらいの性能だが格安の家電のことらしい。いち家庭当たりの家電を全てジェネリック家電に買い替えれば10万円(だったかな)も節約できるという。これを丹波市の各家庭が行えば、2億円は溜まるのだと力説する。えーと、本当に何を言っているのか解らないのだが、家電を買い替える時点でお金を払うわけで、支払いが通常よりも安くできるというだけであって、お金が増えるわけではないよね。あと、そうやって各家庭で節約した分を、市がぶんどるってどういうこと? ヤクザより酷いな。

で、ここから、ジェネリック家電アピールが積極的に始まるのだ。蛍光灯とかドライヤーとかタコ焼き器とか大量のジェネリック家電が矢継ぎ早に登場しては「電気代と込みで+3000の節約」とかいうテロップが出る(ついでにチャリンチャリンというSEも入る)。だから、何がプラスなんだよ。タコ焼き器なんて、ハナから買わないほうがよっぽど節約だろ。市役所職員は方々に電話をかけて「お願いします」(これしか言わない)と頼み込んでいて、何をお願いしているのか謎なのだが、見事に2億円を確保するのである。ワケが解らないよ。

一方、女子高生の澤田家長女は、声が素敵(これは確かに良い)ということで放送部にスカウトされ、地元を紹介する放送部のコンクールに出場することとなる。その素材集めとして、名産の丹波布を織る時の音を採集したりしている。長男である小学生の課外学習のシーンもあるので、子供2人のパートで丹波市の名産や観光スポットなんかを紹介していくということか。と思ったのだが、その辺の川で遊んでたりするだけだったりする。ここさえちゃんとしていて、丹波市に行ってみたいなと思わせるような映像になっていれば、一応この映画に価値はあったはずなのに

長女は、丹波布を取材する代わりに着物のモデルになってくれと頼まれる。そしてちゃんとしたスタジオで、着物を着てカメラの前でポーズをとる。この辺りで気づいたけど、この監督って人間を撮ることに何の興味もなさそうなんである。長女を演じている古和咲紀という人はスター性があると思うのだが、ただただカメラを向けているだけ。何かしら監督のフェティッシュを感じさせる瞬間が普通はありそうなものだが、一切ない。長女じゃなくても誰に対してでもいいけど、役得とばかりに自分の性癖をつまびらかにするような、作家性の発露が本当にゼロ。ただただジェネリック家電と丹波市の紹介をするだけで、このストイックさは何だろうか。ともかく、これがこの映画のつまらなさの最大の原因であるわけだが。

さて、中盤近くで小学生の長男が公園で恐竜の卵を拾ってきて自宅で孵化させて、牛乳や栗を与えて育てるというエピソード(嘘じゃないです。本当です)を挟みつつ、放送部のコンクールが始まる。審査員席に並ぶのは実在の関西の新聞記者とかラジオパーソナリティとかで、いちいちテロップで名前と肩書が出る。なんだこれ。そして、まずは京都代表の高校生が、用意してきた映像とともに京都の紹介を読み上げる。ここで初めて登場した学校なのだが、マジで発表の様子を丸々上映している。審査員のコメントも、ちゃんと流す。ここ、どう考えたってダイジェストにすべきだろ。次の大阪代表も同じように全て流す。急に大阪の下町の紹介をされているのだが、一体、何を見させられているのか

3番手で、やっと長女の高校の番である。客席に市役所職員が応援幕を広げて騒いでいたのだが、まさか丹波市役所の町おこしプロジェクトって、高校生の放送部に丸投げしていたのか。こんな、客席に関係者しかいなさそうなコンクールで丹波市を紹介するだけで、どういうアピールになるんだよ。長女の発表は、他の高校よりたっぷり時間を使っていたのは良いとして、自然が美しいとか虫がいるとか漠然としたことばっかりで、やっぱり丹波市の魅力は伝わってこなかった。何より、取材までした丹波布に一切触れないのは酷くないか

審査員のラジオの人が長女の声を褒めて勧誘したりといった茶番の後、最後に神戸代表の高校の発表が始まる。これも丸々やるのかよ。実はこの映画、最初のほうからちょいちょい防災グッズのアピール(もちろん本編と何の関係もない)があって、取り扱っている営業マンが「利益はほとんどないが、まずは市民の安全を最優先に考えるのが我々の役目だ」的な迷い事を言ったりしていて辟易していたのだが、まさかここで震災の写真を使ってもうひとプッシュしてくるとは。あの震災の被災者は怒っていいと思う

で、長女の高校が優勝して、でも全国大会では初戦敗退して、飼っていた恐竜は大きくなってきたので7000万年前に帰して(だから本当です。信じて下さい)、恐竜の原寸模型と博物館は完成して、物語的には全て終わっているはずなのに、とってつけたように丹波市アピールはそれでも続いていく。土産物屋で名産品を紹介した後、「サニーのみんなの家」というサニーって名前のインド人が経営している食堂が映し出され、名物の「ご飯に炒って潰した小豆と栗と生クリームを乗っけた食べ物」(名付けてサニーライス)が出てくる。こうして文字にするだけで胃が気持ち悪くなってくるが、まあ丹波市の名物料理なら仕方ないか。と思ったら、これって劇中で創作された架空の料理なんだと。サニーなる人物は関西のローカルタレントで、丹波市とは無関係。もう、本当に意味が解らない。せめてそこは徹底してくれ。

まあ、拾ってきた恐竜が丹波竜のような首長竜じゃなくて、完全にトリケラトプスだったのは構成が間違っていると思います。ツッコむべきはそこじゃないかもしれないけど

 

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