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【邦画】『悪魔』感想レビュー--普通の大野いとが見せつけてくる、正攻法のファム・ファタール

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監督:藤井道人/脚本:山口健人/原案:谷崎潤一郎
配給:TBSサービス/公開:2018年2月24日/上映時間:83分
出演:吉村界人、大野いと、前田公輝、遠藤新菜、山下容莉枝

 

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67点
谷崎潤一郎の短編を元にした「TANIZAKI TRIBUTE」3部作、最後の1本。3つのうちで、最も正攻法であった。主人公の男による一人称視点がほとんどであり、そいつを狂わせる女が実際に何を考えているかは最後まで解らない。そうそう、ファム・ファタール(魔性の女)はこうでなくっちゃ。

谷崎潤一郎フェティシズム小説集 (集英社文庫)

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映画は、大学に通うため夜行バスで上京する佐伯(吉村界人)のシーンから始まる。バスの中では汚いオッサンの幻覚を見て、気がつくと鼻血を出している。バスの中での鼻血って一大事だが、佐伯は何かの薬をウイスキーで流し込むだけ。どうやら鼻血には慣れているらしい。このあとも佐伯は何度も幻覚を見るのだが、画面上は幻覚シーンも他と区別が無いため、観客としては次第にスクリーンに映っている映像が事実なのか幻覚なのか解らなくなってくる

この、幻覚症状を観客にも疑似的に体験させることが、後々に効いてくる。佐伯は下宿先の大家の娘である女子高生の照子(大野いと)に翻弄されていく。佐伯は2階にある鍵の無い部屋をあてがわれているのだが、夜中にちょくちょく照子が入ってきては、思わせぶりなことをしてくる。

いや、最初のうちは、思わせぶりというほどでもないのだ。若い男の部屋に入りこむ不用心さも、単に無邪気なだけかもしれないし。佐伯のほうが勝手に妄想を繰り広げて狂って鼻血を出すだけである(たまに海老も出す)。本当の小悪魔は「勘違いさせよう」という意志すら持たないのか。あくまで相手のほうから勝手に手を出させるよう、無意識のうちに誘惑をしてくる。おー、怖い。

さて物語のほうは、「照子の婚約者だ」と言い張る同居人の鈴木(前田公輝)が、やたら「照子に手を出すなよ」などと絡んでくる。照子のほうは「あの人、変なんです」と言うし、佐伯も照子のほうを信じるが、あれはすでに照子に狂わされた男の悲惨な末路でもある。当然のように、佐伯と鈴木を相似形として比べてしまい、佐伯の末路をこちらに暗示してくるわけだ。もちろん後になると、鈴木は佐伯へ「僕たちは同じじゃないか」と直に問いを突きつけてくる。

ともあれ、ここまで正攻法のファム・ファタールは、最近の邦画では久々に見た。ビジュアル的には普通すぎて面白みに欠ける(悪口ではないです)大野いとだからこその、狙っていない魔性ぶりは素晴らしかったし(なかなか簡単にできる演出じゃないよ)。佐伯と一緒になって映画館の中で束の間の幻覚トリップをするのが、もっとも正しい鑑賞法なのだろう。

 

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「TANIZAKI TRIBUTE」レビュー

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