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【邦画】『狂える世界のためのレクイエム』--自主制作映画とはいえ、キャスティングさえうまくいけば、それなりのものにはなる

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監督&脚本:太田慶
公開:2018年2月17日/上映時間:88分
出演:阿部隼也、東亜優、山村真也、永里健太朗、小宮孝泰

 

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53点
20年以上映画会社で働いているサラリーマンのおじさんが、映画学校に通って書き上げた脚本を映画化したく、自ら資金を集めて創った自主製作映画である。ネットで検索すると見つかる出演者のコメントなどから、素人が映画を創ることの壮絶さが漏れ聞こえてくる(明らかに、楽しそうな撮影現場ではなさそうだ)。しかも創り上げてから3年経っての一般公開である。下北沢トリウッドでレイトショーのみでは「それは一般公開と言っていいのか?」という感じだが、初日舞台挨拶の場で出演者のひとりは「まさか公開されるなんて」と驚いていた。

さあ、困った。こんなひとりの一般人が熱い思いだけを活力に手弁当で創った映画を、シネコンでかかっている大作と並べて論じていいのだろうか。公開された時点で同じ土俵に上がっているという建前はあるものの、ねえ。技術的な部分についてツッコむのは野暮であろう。そもそも無理なんだから。もうひとつ困ったことに、この映画のテーマが判明するのは、上映時間88分のうち1時間以上経ってからなんである。ここに触れるとネタバレなのだが、かといって触れないと何も説明できない。

あらすじを書いてみる。派遣切りにあって自宅アパートで1週間(短いな、しかし)もゴロゴロしている男(阿部隼也)が、通り魔事件を起こそうとするも外に出るも直前でためらってしまい、逆に飛び降り自殺しようとしている女(東亜優)を助けてしまう。その女にテロリストになるよう言われ、恋心もあって従うようになる。2人はテロを起こす準備として心身を鍛えるため、太極拳やヨガを毎日やるようになる。

うん、これを読んでいる人は意味不明だと思うが、実際に映画を観ていても同じ気持ちになるので心配しないでください。で、男はある日、河原で「映画を撮らない映画監督」(小宮孝泰、本作唯一の知名度のある役者)と出会う。この映画監督、途中まで本筋のテロの話とは関係ないのだが、かなりの頻度で登場しては、映画に対する熱いがひねくれた思いを喋り倒す。この映画監督が、実際の監督の代弁者なのだろう。

本筋のテロのほうは、アイドルオタクとか元暴力団のチンピラといった仲間を招き入れて組織を大きくしようとしているのだが、いかんせん盛り上がらない。そこで実行あるのみとしてブラック企業の社長を刺し殺すという計画を立てる。実行するのは主人公の男である。

ネタバレを避けるためにぼやかすけど、最後に「映画を撮らない映画監督」がテロ組織たちの前に現れて、そこからメタ的な展開に入ってくる。ベタではあるものの面白くないわけではないし、一応は映画に対する批評的な視点も混じっているし、やりたいことはわかる。ただやっぱり、ここまで長い。伏線も何もなく、最後に急にこんな展開にしているせいで、それまでの話がどうでもよくなっている。築き上げたものを自らぶち壊しているのだが、いいのだろうか。

主演の男女2人の顔は抜群に良かった。あの顔だけで、この映画の吸引力は高まっていたし、ワケのわからない話にもかかわらず最後まで飽きずにいられた。自主映画とはいえ、キャスティングさえうまくいけば、それなりのものにはなるんだな。自分も映画学校に通って映画を創ってみようかなと少しだけ思った。いや、やらないけど。

 

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