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【邦画】『ピンカートンに会いにいく』--人は誰しも、中途半端に終わった過去に囚われてしまう

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監督&脚本:坂下雄一郎
配給:松竹ブロードキャスティング=アーク・フィルムズ/公開:2018年1月20日/上映時間:86分
出演:内田慈、松本若菜、山田真歩、水野小論、岩野未知、田村健太郎

 

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65点
言い方が難しいが、「トウのたった女優」が5人も勢ぞろいすると壮観である。内田慈という女優は昔からよく見かけていて、市川実和子の後を継ぐ神秘性を持った存在だと思っていたのに、まさかこんな人になるとは予想だにしなかった。あと山田真歩。『SR サイタマノラッパー2』のアユムだよ。あれから8年しか経っていないんだよ。なんでこんなにしっかりとオバサンになっているのか。

かつてピンカートンという名の、ブレイク前にメンバーの一番人気が失踪したために解散したアイドルグループがいた。当時小学生で大ファンだったレコード会社の社員が20年ぶりの再結成をもくろみ、今ではすっかりオバサンとなった元メンバーたちに会いに行く。と書くと、この男が主人公のようだが、実際は男とともに行動する元リーダーで性格の悪かった神崎優子(内田慈)が実質的な主人公となっている。

神崎優子は過去を断ち切れず、最近まで芸能事務所に所属していて細々と仕事を続けていたが、やりたくない仕事への投げやりな態度もあってクビを宣告される。神崎は高飛車で人を見下す最低な人間なのだが、それはアイドル時代からそのままで、メンバー探訪の際もその態度を崩さない。内田慈の性格悪い演技は圧巻である。

話のメインは、神崎優子が自分の醜さを自覚し、一番仲が良かったのに失踪した元メンバーと20年ぶりに対峙することで過去を見つめ直すというところ。その分、神崎と失踪した2人のメンバー以外があまり掘り下げられていないのだが、仕方ないか。残りのメンバー3人は、サブのコメディ要員に徹している。

アイドルという特殊な設定を用いているが、中途半端に終わった過去に囚われる現在を清算することで未来を見つめるというのは、誰でも実感できる普遍的な話である。厚塗りメイクの内田慈が顔を斜めに傾けて「過去に囚われる」ことの醜さを体現していているのだが、観ているほうは嫌悪感を抱こうにも自らの過去と重ねてしまうことで素直に突き放せず、何とも言えない気持ちとなる。

リアリティ面での疑問は、無くは無い。神崎優子はつい最近まで芸能事務所に所属していたのだから、ネットで名前を調べれば近況は解るはずだが、大ファンの男はそれすらしていないのは変ではないか。あと、ピンカートンの当時のライブシーンとかだと、ファンが行列を作っていたりしているし、そこまで売れていないというわけでもない気も。20年前って地下アイドルという言葉すら無かったし、一応それなりのレコード会社に所属していたみたいだし。今でいう「売れないアイドル」とは状況が違うのでは。

まあ、監督が『エキストランド』の人(この肩書、すごく便利だと思う)なので、いろいろ自覚的に諦めたのだろうけど。そんなに美人でもないオバサンが過去と向き合って未来を見つめる映画は少ないので、こういうの貴重でしょう。小じわの目立つ5人がビニール素材のテラテラしたアイドル衣装を着て踊るラストは、なぜだか勇気を貰える。

 

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