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【邦画】『MR.LONG/ミスター・ロン』--ダラダラとした幸せは全てを救うという単純な思考は罪である

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監督&脚本:SABU

配給:HIGH BROW CINEMA/公開:2017年12月16日/上映時間:129分
出演:チャン・チェン、青柳翔、イレブン・ヤオ、バイ・ルンイン、有福正志、諏訪太朗

 

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53点
これは良くない。純粋無垢なピュアさによって、単純明快で嘘っぱちな世界を構築してしまっている。創り手に悪意が無い分、タチが悪い。

物語は、台湾のどこかでガラの悪い人たちが盗んだか何かの札束を山分けにしようとしているシーンから始まる。不毛な会話を続けていたところ、ミスター・ロン(チャン・チェン)が現れ、ナイフ1本で悪人たちを次々と刺し殺し、金を奪ってその場を去る。ここがアクションシーンとしては愚鈍な動きで、まったくワクワクしない。

ロンは凄腕の殺し屋だということで、次のターゲットのいる日本に渡る。ここで失敗して捕まってしまい、逆に殺されそうになったところを命からがら逃げる。けっこう凡ミスをやらかしているため、ロンの殺し屋としての力量が判断できないのだが。廃屋が並ぶかつての住宅地みたいなところの一角で倒れていると、中国語を話す少年・ジュン(バイ・ルンイン)が現れ、助けてもらう。

そこから、近所に住む人の良いおじさんおばさんたちがズカズカと集まってきて、ロンの料理の腕を知るや否や屋台を始めて、しかも大繁盛するという嘘みたいな話になっていくのである。他地域との交流が全くない田舎の限界集落みたいな場所かと思いきや、幹線道路もあるし有名なコンビニやチェーン店も画面に映るので、それなりの地方都市が舞台らしい。日本語の喋れない身元不明の台湾人を完全なる善意で迎えるだろうか。普通は、警察なり市役所なりに相談するんじゃないか。

そしてまた、このパートが長い。ダラダラと長いのはモラトリアムの表現だとしても、地域住民の善意の結果が100%良い方向に転がっていくため、あまりに陳腐でできすぎている。ロンと、ジュンの母親・リリー(イレブン・ヤオ)との関係も、これまた出来過ぎた展開によって疑似的な家族を構築していくわけである。

これってさ、このあと待ち受ける悲劇を予感させるからこそ、「ダラダラと流れる幸せな時間」が活きるんだと思うのだが。理屈では「このあと悲劇が起こるんだろうな」ってわかるけど、そのお膳立てとして必要な前半の暴力シーンまでダラダラとしているため、感覚として悲劇の予感が生まれてこない。肝心のロン自身が、なんとなくズルズルと幸せなぬるま湯に引き込まれているし。この人、殺し屋に向いてないんじゃなかろうか。

で、面倒なんで端折ってしまったのだが、青柳翔が賢次という役名で主役を演じるもう一つのエピソードもある。ロンと賢次の2つのエピソードが、やっぱり嘘みたいな偶然によって絡んでいるのだが、運命とか因果とかで言い表せるほどのものでもない。ナイフが同じだからどうたら、ってことなんだろうけど。

まあともかく、そんな幸せな日常が壊れる瞬間が唐突に訪れて(ここの幸せな空間がガラガラと崩れていく非情さは良かった)、ロンは去ることになる。黙ってスタスタと去ればいいのに、住民から「出てってくれ」って言われてからなのも、なんか未練がましいのだが。

で、ラストシーンなのだが、それはダメだろう。現実性という点でもダメだし、道路の真ん中に集まって車の走行を邪魔しているというのもダメだし。何よりダメなのは、善意の押し付けによって全てが解決するという気持ち悪いピュアぶりだろう。いくらなんでも、そこまで世界は単純じゃないぞ。

 

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