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【邦画】『斉木楠雄のΨ難』感想レビュー--原作がSFという時点で福田雄一監督の手に負えないのは分かっていたわけだが

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監督&脚本:福田雄一/原作:麻生周一
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント=アスミック・エース/公開:2017年10月21日/上映時間:97分
出演:山崎賢人、橋本環奈、新井浩文、吉沢亮、笠原秀幸、賀来賢人

 

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44点
原作は「週刊少年ジャンプ」連載中のギャグ漫画。テレポーテーション、透視、千里眼、テレパシーなどなど、なんでもできる超能力少年・斉木楠雄が、自らの能力がバレることなく平穏に高校生活を送ろうとするという話である。基本的に一話完結で、「ジャンプ」連載の中では箸休め的な位置にある。

斉木楠雄のΨ難 1 (ジャンプコミックス)

斉木楠雄のΨ難 1 (ジャンプコミックス)

 

 

というわけで、これ、SFでもあるのだ。やっぱり「ジャンプ」は頭使っているなあと感心するのだが、原作漫画は非常にロジカルに話を作っているのである。冒頭からレベル99のRPGが面白くないように、何でもできるフルスペックの主人公は、本来なら物語を作ることさえ難しいはずだ。だが原作漫画は、SFの作法に乗っ取って事象を論理立てていくことで、起伏のある物語を紡いでいく。

例えば、主人公がテレポーテーションできることで、話が成り立たない場合がある。その場合、まず「テレポーテーションは1回行うと、10分待たなくてはいけない」というルールをあらかじめ設けておく。そして事前に数コマ使ってテレポーテーションさせておいて、メインの話の時には使えなくする、とか。こういう細かい気づかいによって、超能力者という大嘘にリアリティを持たせている。

なので、冒頭からの伏線がラストの大オチで回収されるような論理立てした話も多い。それを福田雄一監督が実写化したらどうなるか。もちろん各エピソードをそのまま強引にくっつけるだけであり、あちこちに矛盾が生じるようになる。そんなことは観る前から分かっていたことだ。この実写版、SFにも関わらず論理破綻なんてハナから気にしておらず、テレポーテーション一発で全てが解決するような状況ですら平気で無視している。ここまでくると、いっそ、清々しい。

さて、原作のエピソードをただ並べるならともかく、学園祭の1日というシチュエーションを設けて、その中に様々なエピソードを突っ込んで強引につなげようとしているのだが、どうやらこれは全て照橋心美というキャラクターが斉木楠雄の気を引くために仕掛けた壮大な罠、ということらしい。おそらく作り手としては、斉木と照橋のラブコメをメインにして、他のキャラクターはサイドという扱いにしているようだ。失敗しているけど。

まあそうなると、橋本環奈が演じる照橋心美というキャラクター造詣が肝になるのだ。初登場時の照橋さんは、教室の後ろで女子生徒に囲まれ、「ミスコン出なよ」と言われると口元にグーにした手を当てて小首をかしげながら「えー、あたしなんか無理だよー。○○ちゃん、かわいいから出たらー」とか言っている。斉木にだけはテレパシーで聞こえる心の声により「自分を卑下して、友達を立てるなんて、私、完璧ね」と、計算で美少女を演じていることを暴露している。

いやそれ、男からも女からも嫌われる、典型的なカマトト女だから。完璧な美少女の造詣として間違っているから。原作の照橋さんはこんなんではなく、どこでどうふるまえば完璧な美少女となるか、それこそ完璧にマスターしている。また、完璧な美少女を演じるために、日々たゆまぬ努力をしており、そのため読者のファンも多い。

原作漫画では、完璧な美少女を演じても斉木楠雄だけは虜になってくれないので、斉木を振り向かせようと執着していくうちに「これって恋?」的な話になっているわけである。一方の斉木は、テレパシーで聞こえてくる計算高い腹黒さを最初は嫌っていたものの、照橋さんの「完璧な美少女」となるための努力を目の当たりにして、少しづつ敬意を払ってきているのである。最新刊(23巻)のエピソードでは、連載当初では考えられないほど、2人の心の距離は近づいている。今回の実写化で、この辺の流れを取り込んでいけば、それなりの感動作になったのかもしれないのに。

橋本環奈に変顔をさせればいい(しかも執拗に何度も似たようなのを)というわけではなく、その変顔に至るまでの過程が大事なのだ。といっても福田監督は、話を組み立てることがそもそもできない人なので、期待するだけ無駄である。やっぱり脚本家を別に用意したほうがいいと思うのだが。

 

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