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【邦画】『時時巡りエブリデイ』--K's cinemaでいつも感じる部外者のような感じ

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監督&脚本:塩出太志
配給:Grand Mastter Campany=為一/公開:2017年7月15日/上映時間:71分
出演:鳥居みゆき、仁後亜由美、松本高士、矢島康美、木嶋のりこ、小林タクシー

 

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56点
K's cinemaという映画館をご存じだろうか。新宿のゴチャゴチャしたあたりのビルの3階にあるミニシアターである。スクリーンは1つで84席とこじんまりしているが、ロビーは都内のミニシアターにしては広々としており、ゆったりとした空間にテーブルと椅子が配置されている。

K's cinemaは、自主制作のような低予算邦画だろうと、「1日1回1週間のみ」みたいなサイクルで次から次へとかける。そのため、年間の映画公開本数(最近は軽く1000を超えている)が膨大化している一因となっている。お金払えば誰でも上映できる、みたいなシステムなんだろうか。知らないけど。

さて、そんなK's cinemaでレイトショー中の『時時巡りエブリデイ』という映画を観に行ったところ、ロビーが妙に賑やかであった。どうやら前の回で映画学校の学生が作った短編をまとめて上映していたらしい。学生らしくクリエイティブな会話が繰り広げられていて、部外者にはちょっと居心地が悪い。

ロビーの賑やかさとは打って変わって、『時時巡りエブリデイ』を観に来た客は20人ほどという、いつものK's cinemaの感じ。本作は、鳥居みゆきを主演にした、15分だけ時間が巻き戻るという設定のタイムリープモノ。監督は『死神ターニャ』が東京国際映画祭で絶賛されたという塩出太志だが、ごめんなさい知りませんでした。

自宅の前の道を毎日通る男(松本高士)をベランダから望遠鏡で覗くだけで、あとは自室でダラダラしている鳥居みゆき。訪ねてくる友人(仁後亜由美)に、その男の尾行を頼む。友人は尾行中に曲がり角で男とぶつかり、変な流れで男の自宅アパートに足を踏み入れることになる。

「変な流れで」とは書いたが、前のシーンの何気ない出来事が、きちんと伏線になっている。脚本の細部はそれなりに練られており、このリアリティレベルなら、まあいいだろう。友人は男に「下の名前で呼んでいいですよ」とか言い出したところで、急に時間が15分巻き戻る。「はあ?」と驚く友人。そして、次のシーンへ移る。

これ、すごいよね。まず、タイムリープを最初に体験するのが主人公ではない。そして、時間が巻き戻った後どうなったのかを一切省略している。一応次のシーンの会話で、全く同じ会話をしたらしいことは示唆されるが。ともかく、翌日は鳥居みゆき自身が男を尾行する。そして同じように曲がり角で男とぶつかり、同じように男の部屋に入り込み、同じようにタイムリープする。

それから色々あって、鳥居みゆきと友人は「お互いの頬を平手打ちしたら15分だけ時間が巻き戻り、2人の記憶だけがそのまま」であると突き止める。いや、最初のタイムリープの時とは状況が違うじゃん。その辺は最後のほうで種明かしされるものの、2人が一切気にしないのが引っかかるところ。

さて、「告白してフラれたら15分巻き戻して、何度も告白を繰り返す」みたいなネタをいくつかしたあと、物語は混沌としてくる。割と大きなネタバレなので曖昧に言うが、「タイムリープできる人が複数いる」という状態なのだ。巻き戻せる時間もバラバラ。誰かが時間を巻き戻した最中に、別の誰かが時間を巻き戻している。かなり複雑なことしているのだが、論理破綻していないだろうか。ボクには解らなかったが。

まあともかく、鳥居みゆきは「鳥居みゆきを演じる」ということに関しては完璧だし、そこをキワモノ扱いせずきちんと演出されていたのですごく良かった。特に、鳥居みゆきとタバコがこんなにも似合うのは発見であった。また、画面の彩度を極端に落として淡い感じにしているのと、セリフのあと一拍置いてから次のセリフを言うという不思議なテンポによって、独特の世界観が構築されていたのも好印象。

SFとしては根拠のない後付け設定が多かったけど演出は良いなあとか思っていたら映画が終了(エンドロールでさらに混沌に拍車がかかっていたが)。案の定、監督と出演者(1シーンのみ出演の人)が登壇してくる。そして、今から30分程度の短編を流すと言い出す。

明日も仕事なので早く帰りたいのに、とは正直思った。もちろん、監督は上映時間を言ったうえで「夜も遅いので」と帰宅を促すエクスキューズを流している。あちらには不手際は一切ない。ただその場で席を立つ客は一人もおらず、雰囲気的に帰りづらかった。思うに、20人程度の観客のうちの多くが、この映画の関係者ではないだろうか(少なくともボクの横に座っていた人は、そうだった)。

他のミニシアターでもままあることなのだが、特にK's cinemaはこういう「自分以外は関係者じゃないか」という錯覚にとらわれるような内輪サークル感に陥ることが多い。上映作品の傾向から仕方ない面はあるが、あのサロンめいたロビーの雰囲気も一因になっていると思う。K's cinemaに行くと、いつも部外者のような気持ちでいることになる。

7年前くらいに撮ったという短編上映後、5分くらいのトークもあり、全てが終了。ひとつしか開けられない扉を出ると、監督以下6人くらいから一斉に「ありがとうございました」と言われるので、うつむきながらそそくさと外に出る。これ、本当に嫌なのだ。あちこちで「あー、来てたんだ」とか「このあと、どう」とかいう会話が聞こえてくる中、逃げるように映画館の外に出る。

K's cinemaの内輪サークル感、どうしたものだろうか。

 

 

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