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【洋画】『セールスマン』--よく知らない異国での普遍性

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監督&脚本:アスガー・ファルハディ
配給:スターサンズ=ドマ/公開:2017年6月10日/上映時間:124分
出演:シャハブ・ホセイニ、タラネ・アリドゥスティ、ババク・カリミ、ミナ・サダティ

 

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66点
アスガー・ハルファディ監督は本作によって『別離』に続いて2度のアカデミー賞外国語映画賞を受賞した。快挙である。ところで、「外国語映画賞」っていう基準はアメリカ人の発想だよなあって前から思っている。制作国で区分するのはわかるけど、使用されている言語で区分するなんて。同じく英語を公用語としているイギリスとかでも、この発想は出なさそうだ。

さて、映画はちょっとしたパニックシーンから始まる。主人公たちの住むアパートが崩れそうになり、大騒ぎで住人たちが避難をする。主人公エマッドは、妻のラナを先に行かせ、寝たきりの隣人を助けに向かう。そしてカメラはビルの外を映し、そこではショベルカーが無秩序に穴を掘っている。まるで闇夜に突如現れた怪物のように。

イランが舞台である。国際ニュースではおなじみの国だが、主に映像で見られるのは紛争地帯なため、一般市民の生活状況がいまいちわからない。隣の工事が適当だったためにアパートが崩れそうになる、というのがどの程度の日常性なのかは判断できない。日本の基準で考えたら大問題だが、よく知らない異国が舞台だと、常識外の出来事が起こっても「そんなものなのか」と飲み込んでしまう。ちょっとしたマジックリアリズムであろう。

だがこの話は、お国柄などといったことを超えて、もっと本質的な部分をついてくる。演劇を営む主人公夫婦の話だが、急遽引っ越した先の部屋で妻が何者かに襲われる。夫は憤慨し犯人を探し出そうとするが、妻は警察に行くのも拒む。互いの思いは噛み合わず衝突を繰り返し、夫婦間のすれ違いは肥大していく。イラン特有の女性観も示唆されるものの、基本的にはどちらの感情も痛いほどわかるため、やるせなくなってくる。

同じように、エマッドと周囲の人たちとのちょっとしたすれ違いが、たちまち大きな亀裂となり、物語はグラグラと崩れそうになる。エマッドは、内心ではイラついているものの、世間体というか最低限の社会性を守るために、妻以外の人には直接的に感情をぶつけることはせず、口調を荒くとも理論的な会話を心掛ける。せいぜい演劇中のセリフを変えるくらいだし、ちゃんとあとで謝る。周囲との亀裂を隠そうとしているのが却って精神状態を悪化させる。

エマッドが冒頭に行った「崩れそうなビルから病人を助ける」という正義感溢れる行為と対になる状況が、ラストにある。そして夫婦は、再び演劇の舞台に立つ。かりそめの物語の中にしか自分たちを支えてくれないのかもしれない。

 

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別離 (字幕版)

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