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【邦画】『SCOOP!』レビュー--「深夜までパソコンに向かい記事を1本仕上げる」シーンは大根仁監督の原風景なのか

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監督・脚本:大根仁
配給:東宝/公開:2016年10月1日/上映時間:120分
出演:福山雅治、二階堂ふみ、吉田羊、滝藤賢一、リリー・フランキー

 

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63点
大根仁監督といえば、商業的な成功と評論家による評価の両方をバランスよく手中に収めており、日本におけるエンタメ映画の今後を左右する重要な存在とまでなっている。そんな大根仁の映画監督としてのデビュー作『モテキ』では、ライターである主人公の青年が深夜までパソコンに向かい記事を1本仕上げるというシーンによって、ある種の成長をしたのだと表現されている。

で、本作『SCOOP!』で、全く同じ「深夜までパソコンに向かい記事を1本仕上げる」シーンがあるのは驚いた。大根監督の原風景か何かなんだろうか。まず、なんでいつもオフィスが暗いのか。パソコンに向かうんだったら、電気を点けようよ。目が悪くなるよ。

大根監督は『バクマン。』でも、「病み上がりにも関わらず連日の徹夜によって漫画を仕上げる」というクライマックスで物語を盛り上げていた。『バクマン。』の場合は「そういう形で熱意を見せたら編集長の心が動くはず」という計算もあったのだろうが、その論理を一切説明しないのは「人が寝ずに頑張っていたら誰だって感動する」と信じているからだろう。ボクが編集長の立場だったら、こんなにも自分の体を大切にしない漫画家なんて、怖くて一緒に仕事したくないけど。

まあ、暗いオフィスで一人パソコンに向かうという絵ヅラは昔からよくあるし、そこに「仕事を頑張っている」というイメージがくっついているのも確かだ(実際は、夜はちゃんと寝たほうが仕事の効率は上がります)。さすがにこういうシーンを成長の証として安易に用いちゃう大根監督のブラック企業礼賛気質には引いてしまうが、そこはひとまず置いておくとする。

『SCOOP!』は、芸能人の下世話なスキャンダルばかり追う中年カメラマン(福山雅治)と、無理やり一緒に仕事をさせられる新人記者(二階堂ふみ)によるバディムービーである。職業モノとしてのリアリティはそれほど追求されていない。あんな目立つ車で張り込みなんかしないだろうし、いくらなんでもバレるだろという位置からカメラを構えているし。スクープカメラマンのテクニックとかを期待して観に行くと肩透かしを食らうことになる。

大根監督作品は、普遍的な物語を根っこにして、凝った映像処理などによる「時代の空気感」を周りにデコレーションしていくのが特色である。デコレーションの技法は多岐にわたり、いつもいつも素晴らしいが、『SCOOP!』で矢継ぎ早に並べられるスキャンダル記事のページなどからは、どうしても一昔前という感じを受ける。陰惨な事件の容疑者の顔写真を載せた程度で部数が飛躍的に上がる時代じゃないだろう。本作で一番ワクワクしたのは、記者たちが過去の逸話を言い合うでオウムとか和歌山とか新潟といったワードが出てくるところだった。新潟って、あのことだよなあ、きっと。ともかく、『週刊文春』がブイブイ言わせているのと同じ時代の話には思えない。

さて、そんな一昔前の空気感をデコレーションした本作の中に隠された普遍的な物語とはなんだったのか。それは大根監督の原風景である「深夜までパソコンに向かい記事を1本仕上げる」シーンからわかる。二階堂ふみは、どんな気持ちをキーボードにぶつけることで、記事を書きあげたのか。答えは「人が死んだら悲しい」だ。この映画のテーマはそれだ。なんだそりゃって思うかもしれないが、映画『SCOOP!』は、2時間かけて「人が死んだら悲しい」ってことを訴えているのだ。

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