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【邦画/ドキュ】『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』感想レビュー--形骸化したパブリックイメージの確認作業をするだけの映画

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監督:遠藤尚太郎
配給:松竹メディア事業部/公開:2016年10月1日/上映時間:110分
出演:テオドル・ベスター、山本益博、服部幸應、犬養由美子、道場六三郎

 

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47点
どうも皆様、お久しぶりです。当ブログに関しては、約2ヶ月ぶりの更新となります。しばらく尋常じゃなく忙しく、映画鑑賞どころではなかったのですが、晴れて映画三昧の日常に戻ることができそうです。当ブログの更新もぼちぼち再開していく所存です。

 

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この間の日曜まで、すげえ忙しかった。

 

さて、試験勉強の日々から解放されて最初に映画館で観たのが、築地市場を1年間に渡って取材したドキュメンタリー映画『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』。なんかこの流れだと厄介な時事ネタに触れたくなるが、そこは置いておきます。全国公開は来週からで、現在は築地から近く歌舞伎座の斜め前にある東劇という松竹系の映画館で先行上映されている。

本作の冒頭、隅田川に沿ってカメラが移動する空撮とともに、築地市場の説明が英語でナレーションされ、日本語の字幕がつく。英語圏のイントネーションで「TSUKIJI」と発音されると同時にカメラは築地市場上空を映し出す。「えっと、なんで英語?」と疑問に思う隙もなく、立派なひげを蓄えた外国人の文化人類学者が現れ、築地の良さを英語で語っている(もちろん字幕つき)。映画が始まってからしばらく、日本語が聞こえてこない。

「築地市場の裏側に密着したドキュメンタリー」のはずだが、アプローチの仕方に違和感を覚える。さらに引っかかる映像が流れる。築地市場の様々な光景がスクリーンに映し出されるのだが、どれもスロー再生されているのだ。走行するターレーなどにとどまらず、仲卸の人が受話器を取るところさえスロー。そこに情緒的なスローテンポのBGMが被さる。あ、この監督は自分の作品に酔ってるなって、ここで気づく。ちなみにこのスロー再生は、このあとも何度も何度も登場する。

築地市場という特殊な場所でカメラを回すだけで、面白い映像は撮れるだろう。それでいいのに、なぜスロー再生という小手先の技巧を付け足してしまうのか。確かにその映像は神秘的かもしれないが、これはミュージックビデオの手法だ。フィクションならまだしも、ドキュメンタリーであからさまな映像加工をやるのは危険である。本作の監督、本職はミュージックビデオや広告らしいので慣れていることをやっただけかもしれないが、編集処理によって作られた「神秘的な映像」を見せられるだけでは、築地市場の魅力を感じることはできない。

本作で伝えられる築地市場とはいかなる場所か。ボクでも知ってる料理人や料理研究家が入れ替わり登場しては築地の素晴らしさを語るところとか、仲卸の人の「マグロを売るのはビジネスじゃない」的な発言とか、「ここには仲間がいる」(この「仲間」というのが本作の重要なキーワードになっている)とかから察するに、築地市場とは「義理人情に溢れた世界」ってことらしい。特に外国人の「ここではお金を落としても戻ってくる」という興奮気味の発言をそのまま流すのは、最近よくある「日本すごい」系のバラエティ番組と同じだ。

築地を1年取材して得た結論がこれでいいのか。それって誰もが築地市場に対してなんとなく思い浮かべる、形骸化したパブリックイメージでしかないのではないか。いや、1年に渡る取材の結果から築地がそういうところだって確証を得て映画によって主張するのはいい。でも、受け手に納得させられるほどの具体的な説得力が本作にあるとは思えない。というより、築地が「義理人情に溢れた世界」というのは当たり前の前提で、本作はそれの確認作業をしているみたいだ。やっぱり、築地が「義理人情に溢れた世界」だっていう固定観念が先にあって、カメラを回しているときやインタビューのときも、その固定観念を補強するものばかり集めてしまっただけなんじゃないかなあ。

別に全てのドキュメンタリーがジャーナリスティックである必要はない。まさか築地市場の移転がここまで政治的な問題になるとは撮影中は想像だにしてなかっただろうし、批判的な視点が欠いているとか言ったって仕方ない。ただ、1年も取材していて、築地市場の「義理人情に溢れた世界」ゆえの綻びとか問題点とか全く見なかったとは思えないけど。

それより問題は、築地市場に対して新しい着眼点を一つも提示していないし、そんなことする気もなかったことだ。氷屋とか、「築地市場の中ではこんな変わった商売もあるんだよ」的な視点で深く掘り下げたら面白そうなのになあ。

最後にダメ押しで登場する英語のナレーションを聞きながら、もしかして本作の主題は「築地市場を題材に映画を撮ってる俺」なんじゃないかって、ちょっと思った。

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