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【邦画】『残穢【ざんえ】 ‐住んではいけない部屋‐』--呪う側の論理があやふやなのは、怪談としては致命傷だ

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監督:中村義洋/脚本:鈴木謙一/原作:小野不由美
配給:松竹/公開:2016年1月30日/上映時間:107分
出演:竹内結子橋本愛滝藤賢一、坂口健太郎、佐々木蔵之助

 

54点

怪談は、なぜ怖いのか。たとえば中田秀夫監督が『怪談』のタイトルで映画化したことで知られる怪談噺『真景累ヶ淵』は、ただ「子孫だから」という理由で主人公は何代にもわたって不幸に陥る。呪われる側からすれば理不尽極まりないが、呪う側にとっては確固たる理由がある、というのが恐怖の源だろう。現実世界でも、相手の勝手な論理によって理不尽に被害を被るケースは多々ある。いつ自分が直面するかもしれない理不尽が怪談のそれと直結することで、恐怖を感じてしまうのではないか。

映画『残穢【ざんえ】 ‐住んではいけない部屋‐』は、あるマンションに住む人たちが部屋の中で不気味な現象を体験するところから始まる。「その場所に住んでいるから呪われる」というのは、たしかに怪談らしい理不尽な話だ。職人監督としての実力は揺るぎない中村義洋監督が、ホラーの定石を押さえまくって創り上げた、映像と音によって感じる恐怖は、なかなかのものだ。また、竹内結子橋本愛といった魅力的な女優を、まったく華を感じさせない貧相な女に見せる演出力にも驚かされる。

ただこの話、タイトルの「住んではいけない部屋」というのもミスリードなのだが、実はマンションの建つその場所に呪われる理由があるわけではないのである。なんせこの呪いの連鎖の源となった事件が起こったのは、全く別の場所なのだから。しかも途中から、「話をしたり聞いたりした者も呪われる」みたいなことになって、とりあえずなんか関係した人たちはみんな呪われていく。呪う側の論理があやふやなのは、怪談としては致命傷だ。

さらにこれ、誰が呪っているのかということさえ、実は統一されていない。最初の事件で死んだ多くの人だったり、その人たちに呪われ“殺された”人が呪う側に回ってきたり。別に順番というわけでもなく、けっこう適当。黒い影とか一瞬だけ見える首を吊った女性とか「殺せ」という男の声とか赤ちゃんの鳴き声とか、怪現象にバリエーションをつけたいという意図もわかるけど、なんかとっちらかっている印象がある。

怪談(あるいはホラー)における「理不尽」を、ストーリーのあやふやなところをごまかす言い訳にしている映画は、実はよくある。でも、やっぱり冷めるよね。

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原作小説

残穢 (新潮文庫)

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