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【邦画】『人生の約束』--丁寧な画作りをしていれば、話が多少変でも気にならない

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監督:石橋冠/脚本:吉本昌弘
配給:東宝/公開:2016年1月9日/上映時間:120分
出演/竹野内豊、高橋ひかる、江口洋介松坂桃李柄本明西田敏行

 

56点
冒頭シーン。富山県新湊市のとある町で、巨大な曳山が隣の町に譲り渡されている。受け取る側の歓喜の様子と、渡す側の暗く落ち込んだ様子から、2つの町の関係性や曳山がいかに大切なものかなど、この話の前提となる部分が数分でおおよそ理解できる。映画『人生の約束』は、このような丁寧な画作りによって、物語を引っ張っている。

主人公の中原祐馬(竹野内豊)は、巨大IT企業のCEO。業績のためなら平気で他人を陥れるようなひどいヤツだということが、これまた丁寧な描写によって説明される。中原のもとに、共同創業者であったが方針の違いから3年前に会社を追放したかつての親友である航平(松坂桃李)から着信がたびたびあり、気になって新湊市に向かうと、ちょうど到着したと同時に娘に抱えられた骨壷と対面することになる。航平は隣町に騙される形で買い取られた曳山をもう一度曳きたいと奮闘していたという話を、町内会長(西田敏行)から聞かされる。

大体このあたりで、以降のおおよその展開は想像がつき、実際その通りに話は進む。中原が死んだ航平の意志を継いで曳山を取り戻すべく奔走し、その過程でひどい性格も改善していくわけだ。もちろん最後は中原が町のみんなと一緒に曳山を曳くシーンがクライマックスとなる。別に形骸化した話の流れをなぞるのは、娯楽映画では悪いことではない。人物造形がステレオタイプなのも同様。

本作で気になるのは、丁寧な画によって説得力を持たせられたストーリーが、後から思い返すとけっこうフワフワしているところだ。たとえば、曳山を買い取ったうえに約束を反故にした隣町の会長(柄本明)。この会長が曳山に何の愛もなく、本作において「倒すべき敵」という位置づけであることは、細かい描写や柄本明の顔面による演技(半目で睨みつけたり)といった丁寧な画作りで充分に伝わる。でも、この隣町の会長がここまで曳山に執着している理由は、よくわからない。ただの嫌がらせ以外にメリットとかあるだろうか。それでいて最後の祭りのシーンの最中、暗闇の中一人ポツンと座っている異様に不気味なカットが挿入される。一瞬、今のはなんだ? って思ってしまう。

もっとストーリーの根幹に関わるところでいうと、あんなひどい性格だった中原が改心し人間味を取り戻したのは具体的にどのタイミングだったのかも、いまいち判然としない。会社に収賄の容疑で強制捜査が入って、役員たちから「会社はあなただけのものではない」などと責め立てられた時か。そこが一番しっくりくるのだけれど、そうなると曳山あんまり関係なくないか。

ほかにも、匿名の投稿がネットでそこまで拡散するかとか、大企業の創業者の一人が亡くなったら新聞に訃報が載るだろうとか、細かい疑問は多い。ただこうした疑問はどれも、観終わったあとから感じたものだ。観ている間は、石橋冠監督の丁寧な画作りに魅了されていたことは強調しておく。画が良ければ、話が多少おかしくても気にならないし、楽しめるものなのだなあ。

ただ一点、そうしたこととは別件で、ものすごく気になったことがある。この話は、航平の娘である瞳(12歳・中1)が、中原と曳山を繋げる重要なフックとして存在しているのだが、どうもこの中原と瞳が男女の関係に発展しそうな雰囲気が常にあるのだ。展開の流れから中原と恋仲になってもおかしくない妙齢の女性が2人(優香、小池栄子)もいるのにも関わらず、そちらには全く気にもとめていないのも不思議だし。不穏な疑念を抱いたまま映画を観続けていると、なんと別れの際には亡き親友の一人娘を熱く抱きしめていた。それ、いいのか?

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 ノベライズ

人生の約束 (幻冬舎文庫)

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