立山連峰(たぶん)
-----
最初はスルーしていたのである。富山市にある「富山シアター大都会」という名前のシネコン。映画サイトなどで情報を見てみると、スクリーンが5つもあり、3Dにも対応していて、最新のハリウッド映画や大作邦画などを上映している。富山県でロケを行った『人生の約束』を1日6回も上映しているところを除けば、別段変わったところもない普通のシネコンのようだ。だが、富山出発の前日、何気なく公式サイトを覗いてみたら、ちょっと驚いた。
すごいな。このデザインは、少なくともプロの仕事ではない。リンクされているスタッフブログは、新作の公開情報と割引デーの告知のみで、スタッフの生の声もなければ写真もない。そしてパチンコ店の情報が並列で記載されている。どこを見てもチープさが漂っているのだが、どういうことだろう。気になったため、急遽予定を組み替えて、まず「富山シアター大都会」に行ってみることにした。
しかしこのサイト、「アクセス」と書かれたボタンをクリックすると、Yahoo!マップに飛ぶので映画館の位置はわかるのだが、最寄駅とかバス停とか車での経路とか一切書かれていないので、どうやって行けばいいのかわからない。検索してみるとwikipediaに最寄りのバス停が記載されていたので、それに従うことにする。wikipediaの情報を信じるのは危険ではあるのだが…。
ひとつも輝いていない人生なのに
「かがやき」という電車に乗ってしまってスミマセン
さて決行日である2月6日。朝5時に起きて東京駅に向かい、北陸新幹線「かがやき」に乗って富山駅に着いたのが9時頃。30分ほど待ったところで目当てのバスが来たので乗り込んだところ、ボク以外に乗客はお婆さんが2人。そのお婆さんたちはすぐに降りてしまい、運転手と2人きりでバスに揺られる。いつものことだが、知らない土地で路線バスに乗るのは恐怖である。電車と違ってスマホからすぐに経路図を出すこともできないし、車内にも情報が少なすぎるため、本当にこのバスであっているのか、不安なまま乗り続けなければならないのだから。スマホで現在地と映画館の位置を表示して、近づいていることを常にチェックすることで、気分を落ち着かせる。
どこ、ここ
30分ほどバスに揺られたのち、wikipediaに書かれていたバス停に着いたので降りると、周りに家と畑しかない場所であった。こんなところにシネコンがあるのか? 焦りを抑えつつもスマホの地図を便りに集落(この表現がぴったりな場所だ)を歩くと、巨大な道路に出て、ついに映画館「富山シアター大都会」を発見する。
富山シアター大都会
「富山シアター大都会」は、映画館とパチンコ店が同じ建物に入っているのだが、外観に関しては完全にパチンコ店だ。看板の「シアター」がなければ、ここが映画館だとは気づかない。いや、たとえ「シアター」の文字があろうとも、この建物の中で『ザ・ウォーク』が3D上映されているとは絶対に思えない。なんかすごいところに来ちゃったぞ。
サービスデーが、めっちゃ多い
入口横では「全館デジタル化完了!!」と大きくアピールしている。映画好きからすればフィルム上映ができなくなるのはマイナスじゃねって思うのだが、一般の感覚では綺麗な映像に越したことはないのだろう。
左はパチンコ店、右は映画館の入口
入ってすぐの様子
中に入ってみると、たとえばチケットカウンター上のプログラムを表示するモニターなど、最新のシネコンらしいところはたくさんある。上映しているのがメジャー大作なので、POPなどの販促物も豪華である。しかし一方で、地方都市のパチンコ店っぽい場末感も同時に持ち合わせている。設計時のソーニングで余った場所をむりやりロビーにしたかのような空間とか。あと、4畳ほどの小さな喫茶コーナーの店名が「パピヨン」なのだが、ここが映画館である以上はその名から連想されるのは小型犬ではなくて脱獄囚だぞ。
場末感のあるロビー
真ん中にある仕切りの意味がよくわからない
喫茶パピヨンのメニュー
最新シネコンとしての設備と、場末のチープな雰囲気が、狭い空間にひしめき合って互いに主張している。このチグハグさが、「富山シアター大都会」に対してボクが抱いた印象であった。
さて、せっかくなので富山県新湊市でロケを行った『人生の約束』を鑑賞する。一般料金1700円なので、普通より100円安い。基本的に自由席。客は20人ほどで、主におばさんの団体。若いカップルが2組ほどいたのは、ちょうどこの日が学生割だったからか。おばさんは上映中でもよくしゃべるのだが、おばさんだから仕方ない。西田敏行が出てくるたびに盛り上がっていた。設備や座席なんかは、まあ普通のシネコンでした。
『人生の約束』のパネル
上映後、ロビーに出てみると、『人生の約束』のロケ地などを紹介した巨大なパネルが目についた(入場時は気づかなかった)。地方では、こういうアピールは有効なんだろうなあ。公開から1ヶ月も経っている、内容的にも派手ではない邦画が今も1日6回上映されて、土曜日の昼間とはいえ1回あたり20人も集客しているのは、けっこうなことだと思う。そんなことを考えていると、パネルの裏に何かがあった。ちょっと覗き込んでみる。
え?
これ、35mmフィルムの映写機だよね。すげえ。こんな間近で実物を見たの初めてだ。ちょっと触っちゃったよ。なんでここに置いてあるの? そして、なんで隠してあるの? どういうこと?
冷静に考えれば、おそらくデジタル化で不要になったとき、ロビーの展示品としてここに置いていたのだろう。だけど『人生の約束』の巨大パネルを置く場所がほかになくて、映写機を隠すようにパネルを置いてしまったってことだろう。にしてもさあ。そりゃあ、「富山シアター大都会」に来る客の多くは、35mmフィルムの映写機を見たってなんの感慨も持たないのかもしれないが。でも、仮にも映画館で働いている人が、映写機をこんなぞんざいに扱っているってのはどうなのか。
入口横にあったデジタル化の猛アピールを思い出し、映画館における映画愛の無さとか考えながら、複雑な思いで富山駅に戻る。と簡単に書いているが、バスを使うのは危険と判断して、あいの風とやま鉄道線の東富山駅まで歩いて40分かけてたどり着き、30分待ったところで電車に乗って富山駅まで戻った。すげえ疲れた。「富山シアター大都会」って、自家用車以外で来ることは想定されていないんだな。まあそれは車社会である地方都市の常ではあるが。
本当にこの先に駅があるのか不安なまま歩いていた
↓後編へ続く
-----
過去記事