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【名画座】「一瞬と永遠 少女たちが見た風景」@池袋新文芸坐オールナイト--少女たちは夢の世界で「闘い」を挑む

 

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2015/10/24-25


タイトル通り、少女が見た夢のような世界が広がる4作をまとめたオールナイト興行。本来なら全く別個の4本だが、続けて鑑賞することで新たな発見が見えてくる。たとえば劇中で使用されるモチーフも被っていて、ハサミ、蝶の標本は2作品、時計のチクタク音に至っては3作品で用いられていた。また、「後味がいいんだか悪いんだかの判断ができない」という、鑑賞後に放り出されたような感覚に陥ったのがボクにとっては共通点だったか。

 

ひなぎく
監督:ヴェラ・ヒティロヴァ/チェコスロバキア/1966 

10代の少女の頭の中を覗き見てその狂った世界をそのまま実体化させるという、今では珍しくなくなったアート表現は、当時のチェコ情勢からしたらお上に楯突く反社会的行為であったらしい。2人の少女が欲望のまま暴れまくる夢の世界は、圧倒的な不安感も常に混在していて、なるほどこれは彼女らなりの「闘い」なんだとわかる。


『アリス』
監督:ヤン・シュヴァンクマイエル/チェコスロバキア他/1988 

ルイス・キャロル不思議の国のアリス』の、トチ狂った部分を特に抜き出した作品。アリスだけが人間であとは人形もしくは靴下という気味の悪い世界。ウサギの剥製は、破れておがくずがこぼれる腹を安全ピンで仮止めし、嫌な音を立てて時計を舐める。とにかくすべての気味が悪い。『ひなぎく』と違ってこちらは完全に少女の悪夢であり、そんな世界に対する「闘い」の自覚が芽生えた瞬間に現実に戻る。「闘い」を自覚することは、少女にとっての通過儀礼みたいなものだろうか。


『エコール』
監督:ルシール・アザリロヴィック/ベルギー、フランス/2004 

ロリコン歓喜の名作。どれくらい歓喜かというと、年齢一ケタの幼女の全裸シーンがあるくらい。だが、どうとでも取れるメタファーが無数に重なり合い、映画の意味を考え解釈しようとすると、どうしても自分の立ち位置を露にせざるを得なくなる恐ろしい作品でもある。素肌にぴったり張り付いた衣装でバレエを踊る幼女を見ている顔の映らない観客を「現代社会へのメタファーだ」と言うことは、自分が年端もいかない幼女に興奮していると白状するのと同じだ。共感覚がないとその結論にはたどり着かないはずだから。

少女側の視点に立てば、本作の舞台である森に隔離された学校での生活は、何者かによって人為的に作られた夢の世界であり、そこでの「闘い」の経験が後の人生を生きる上で必要になる、ということだろうか。それにしてもラストで男と一緒に噴水を浴びながら見せる少女の笑顔からは、これから起こるであろう悲劇しか想像できないが。


パンズ・ラビリンス
監督:ギレルモ・デル・トロ/メキシコ、スペイン、アメリカ/2006 

舞台は1944年、内戦集結直後のスペイン。絶望しかない現実に生きる少女が、森で要請と出会い、夢の世界から課せられる試練を乗り越えるべく「闘い」を挑む。夢の世界が大部分を占めている前3作と違い、現実と夢、2つの世界が対比されている。圧倒的な現実に打ちのめされた少女は、ほぼ不可抗力によって、夢の世界に定住することになる。もちろん夢の世界の中では「闘い」の結果が尊重され、少女には幸福が訪れるのだが。ひるがえって現実のほうは、少女の「闘い」とは無関係に絶望の終焉を迎えるものの、これをもってハッピーエンドだと言い切っていいのかの判断は難しい。本作において少女の「闘い」には、どれほどの意味があったのであろうか。

 

 

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