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【邦画】『いけいけ!バカオンナ ~我が道を行け~』感想レビュー--2010年から現在に至る10年間の話なのに時代性や時間経過への配慮が皆無ではカタルシスは生まれない

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監督:永田琴/脚本:北川亜矢子/原作:鈴木由美子
配給:アークエンタテイメント/上映時間:100分/公開:2020年0731月日
出演:文音、石田ニコル、真魚、小野塚勇人、花沢将人、藤田富、菅谷哲也、小西遼生、田中要次

 

注意:文中で結末までガッツリ触れていますので、未見の方はご注意ください。

 

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話の骨格自体は悪くないのである。未読だが、おそらく鈴木由美子(『白鳥麗子でございます』の人)の原作漫画がよくできているのであろう。見栄っ張りで自尊心の強い"バカオンナ"の20代の半生を追った物語。原作はバブル期が舞台だが、映画では2010年から現在までの10年間に変更されている。"バカオンナ"の10年間のエピソードが羅列され、そこには女同士の友情が根幹として横たわっている、という狙いのようだが、どうもなあ。

いきなりラストに触れるが、直前に喧嘩別れした親友の結婚式に主人公が緑ジャージで乗り込んで、思いのたけを叫ぶクライマックスが用意されている。ベタではあるが、10年間に渡る友情物語の帰結として、まあ良いラストになりそうである。だが残念なことに、そこにカタルシスは無い。その理由を一言で言えば、それまでに至る積み重ねが全くなされていないからなのだが。

まずは2010年、大学3年生のユウコ(文音)が、後に親友となるセツコ(石田ニコル)と出会う合コンのシーンから始まる。当初はちやほやされるユウコだが、遅れてやってきたセツコの美貌に男性陣の心が奪われる。セツコがいかに美人でイケてる女なのかスロー映像の中での周囲の男のリアクションによってポップな表現で誇張され、ユウコの顔芸&心の声によって最悪の第一印象であることも説明される。『モテキ』以降めっきり増えた表現方法である。

悪印象の残ったまま数日が過ぎ、ユウコとセツコが映画『ピンポン』ばりの本気モードで卓球をしているシーンになる。これ最初は何かの状況を卓球に例えた印象描写かと思ったが、本当にオシャレなバーにある卓球台(そんなバー、あるの?)で勝負しているのね。男グループから「卓球うまいね」ってナンパされるんだけど、豪快なスマッシュを決めて「うおっしゃー!」とか叫んでいる女だぞ。『モテキ』風のリアリティの欠いた誇張表現が、主人公の主観映像とかではなく実際にその場で起きていて、まずそこに違和感がある。

あと、どう頑張っても実年齢32歳の文音が21歳の女子大生に見えない。いや、10年間を同じ役者が演じるのだから、そこは多少は目を瞑ってもいい。石田ニコルも同様だが、10年間の年齢の経過を感じさせるメイクなり服装なりの配慮が一切なされていないのが問題だ。テロップで1年後とか4年後とか出るんだけど、2人の見た目は何も変わっていないので時間経過している感じが無い。共通の友人役の真魚(『カメラを止めるな!』の人)は、服装や髪形を頻繁に変化させているのだけれど、なぜそれをメインの人物にはさせないのか。

時間の件で言えば、もうひとつ、劇中に時代性がほとんど感じられない。文音という役者の素材もあるだろうが、ユウコは見た目からしてバブル感が強いし、卒業後に勤務するアパレル会社とか出てくるバーとかも、2010年代のリアルとは思えない。スマホやインスタをアリバイ的に出しただけではなあ。こういう話で時代性が皆無なのは致命的であろう。

で、これが一番問題なのだが、ユウコとセツコの友情に関する話が非常に少ないのだ。実は2人とも自宅ではジャージ姿でカップ麺をすすっていると知り、ともに好きな映画が『キングコング』(1933年の一番古いやつ。なかなかなセンスだが、映像を無許可で使えるパブリックドメインのものを選んだだけかも)ということで意気投合するのだが、友情を深める描写は序盤のそれくらい。

あとはユウコの失恋エピソードがあってはセツコが慰めに来たり、逆に女優に転身したセツコが仕事で行き詰ったらユウコが励ましたり、そんなのが繰り返される。で、とってつけたように「あなたは親友なんだから」的な締めくくりをするんだけど、いや急に言われてもって感じだし。何か貴重な体験を共有しているわけでもなく、たまに会う友達って程度の距離感で、特別な親友とは思えない。

で、時が経って2020年。セツコは自身が企画した舞台を成功させるが、そこで女優は辞めて結婚すると宣言。しかも相手がバツイチ子持ちの50男(田中要次)なのでユウコは大ショックを受ける。そしてセツコをカフェに呼び出して、「いい男」の名刺を並べて「あんなのと結婚するな。ここから好きなのを選べ」とか言い出す。すでに婚約していて式の日取りまで決まっているセツコは当然激怒するが、ユウコは結婚式の招待状を破って「私との友情か結婚か選べ」とか言い出し、そのまま喧嘩別れになる。

いや、わかるよ。ユウコが「自分の理想とするセツコ」を無意識に押し付けている描写だって。でもこれ、内面がどうこう以前に、ユウコがどうしようもなく失礼で非常識なやつって印象が強すぎるから、ユウコに対する共感の余地が一切ない。セツコのほうは10年間ずっとそれなりにマトモなのもあるし。この後に冒頭で触れた結婚式のシーンになるんだけど、直前のユウコの非常識ぶりのせいで、迷惑な女が乗り込んできて式をぶち壊しているとしか思えない。

まとめると、

 1.戯画的な誇張表現が劇中で実際に起きているのでリアリティが皆無
 2.時代性や時間経過への配慮がなく、劇中世界に違和感がある
 3.友情物語の積み重ねがなされず、主人公の非常識さだけが際立つ

以上の理由によって、感動を起こすべきラストシーンに物語上の説得力がなくなりカタルシスを発生させることができておらず、"バカオンナ"が騒いでいるだけの話になってしまっているのである。丁寧に作り込めば良質の佳作にはなっただろうに、もったいないなあ。

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