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【邦画】『あなたにふさわしい』感想レビュー--「2組の夫婦が軽井沢の別荘で5日間を過ごす」という設定が理解できない不甲斐なさ

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監督:宝隼也/脚本:高橋知由
配給:アルミード/上映時間:83分/公開:2020年6月12日
出演:山本真由美、橋本一郎、島侑子、中村有、鶏冠井孝介、紺野ふくた

 

注意:文中で直接のネタバレはしていませんが、念のため未見の方はご注意ください。

 

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どうしよう。自分には、この映画を理解することができない。それ自体は、特に自主制作の邦画では毎度のことだが、今回は理解できない原因が作品ではなく自分にあるのがハッキリしている。それがつらい。

2組の夫婦が、軽井沢の別荘で5日間を過ごす。この導入部が、自分の知っている世界には存在しないのである。大学生の仲良しグループであれば、長期休暇に皆で別荘に行くイベントに違和感は無い。あるいは夫婦同士であっても、子供連れであれば家族ぐるみの付き合いなんて形容される自然な行為であろう。

しかし、新婚でもなく倦怠期気味の夫婦2組が一つ屋根の下で5日間(!)も過ごすって、あくまで自分の中では、想像したこともない異常な状況だ。自分が結婚しておらずそういう経験がないから、というだけではない。KGB所属の女スパイとか、ゾンビに囲まれた小さな町の警官とか、いくら突飛なものでも虚構である映画の中では素直に受け入れられる。でも、本作の状況は、あまりに想定外で、最初の段階で理解が追い付かなかった。

ひとつのシチュエーションと登場人物たちの関係性を明示したうえで、それぞれのパートナーとしての関係性は「ふさわしい」かどうかを、ちょっとした哲学を交えて追求していく物語である。具体的にセリフで言及されていく中身については、何をしたいかは解る。ふさわしいかどうかを「名前をつけられるか」によって判断しようとするのも面白い。

この探求心には興味をそそられるし、本当なら自分なりの考えを目いっぱい語りたい作品なのだ。でもやっぱり、大元の「2組の夫婦が別荘で5日間を過ごす」という設定が邪魔をする。ここを理解して乗り越えない限り、どんな推論もハリボテに過ぎない。自分の想像力と経験値の低さを恨むしかない。

一応、夫婦2組とは別に、ある人物が登場する。脚本の初期段階では、この人物は2組の夫婦に大きく絡んでいたらしいのだが、完成した作品では絡みは少なく、実質的な主人公の思想を際立たせるためだけに存在する小道具のような扱いになっていた。圧倒的な他者が既存の関係性に入り込んで引っ掻き回すのであれば、ひとつの定型であるが、本作はそれを選択しなかった。

元々はコメディタッチのストーリーで、試写の段階でもまだ、旦那に浮気される女性は奔放な性格だったという。そうしたありがちな虚構性が含まれていれば、自分も「よくある設定だ」とすんなり入っていけただろうし、むしろ大好きな作品になっていたかもしれない。だが本作は、そうした自主制作映画らしい定型の要素をできる限り減らしている。それはつまりエンタメ性の排除であり、なかなか大胆な戦略だ。たしかに哲学的なテーマをストレートに訴えるためには有効ではある。

だが、虚構性のある映画的な定型の要素を外していき、より現実に近づけていくことで、(その現実とは埒外にいる)自分からは遠ざかっていく。いかに自分が映画的な虚構の中に逃げ込んでいて、現実を広げようとしていないかを突きつけられ、非常につらい。そういう意味では自分にとってふさわしくない映画なのだが、そのことに気づかされるという点では「あなたにふさわしい」映画なのかもしれない。

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