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【邦画】『劇場版 おいしい給食 Final Battle』感想レビュー--給食に興味の無い創り手が、主人公の給食愛を馬鹿にしているような

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監督:綾部真弥/脚本:綾部真弥、永森裕二
配給:AMGエンタテインメント、イオンエンターテイメント/上映時間:102分/公開:2020年3月6日
出演:市原隼人、武田玲奈、佐藤大志、豊嶋花、辻本達規、水野勝、直江喜一、ドロンズ石本、いとうまい子、酒向芳

 

注意:文中では物語の結末に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。ネタバレしたところで面白さが変化する作品でもないですが。

 

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47点
テレビ神奈川などで放送されたTVドラマの劇場版。最近多いんだよな、地方局で放送されたドラマの映画化。採算が取れるとは思えないのだが、こんな誰も知らないドラマの劇場版が制作されてイオンシネマで公開されるのは、どういうからくりなんだろうか。きっと、映画公開までの過程で誰かしらに富が与えられているのだろう。

時は1984年。常節中学校の教師・甘利田(市原隼人)は、給食を何より愛する給食絶対主義者である。食育を第一に掲げていて、校門に「食育・健康」と書かれた看板が立つ常節中は、甘利田にとって絶好の職場であるが、生徒や他の教員には給食愛をひた隠しにしている。なお、1984年に「食育」なんて言葉があったのかと疑問に思ったが、Wikipedia情報だと19世紀には存在していたそうで。

給食前に生徒全員で食育ソングを歌う謎の規則がある中学だが、甘利田はひとりノリノリのオーバー演技で歌い上げる。給食愛を全然隠せていないが、これは甘利田の脳内を具現化しているのだろう。いざ食べる段階になると、目の前の給食に対してひとつひとつ甘利田の脳内音声による解説が入る。どうやら、ここが本作の見せ場らしい。『孤独のグルメ』のフォーマットを拝借しているわけだが、五郎さんと違ってやたらハイテンションで給食愛がほとばしる脳内音声なので、差別化はできている。

ただ、見せ場であるはずのこのシーンが本作最大の問題個所にもなっていて、まったくもって給食が美味しそうに思えないのだ。何かの肉にかかったオーロラソースについてテンション高く解説したまでは良いとして、先割れスプーンの先端にちょっとつけて舐める描写を繰り返すのは、生理的嫌悪感が勝ってしまう。物を食べる描写って、一歩間違えると不快になりがちなんだから、グルメものは一番気を付けるところなんだけどなあ。

あと、肝心の給食解説も語彙が貧弱で中身が薄っぺらい。すき焼きが出てきても「給料日にはすき焼きというのが日本人の定番だ」みたいな、その程度。そして「美味い」「素晴らしい」といった単語を繰り返すだけで、何も伝わってこない。よく解らない比喩とともにSEは入るものの脳内イメージが映像になることもないし。そこは予算の問題か。

さて、甘利田にはライバルがいて、それが担任を受け持つクラスの生徒・神野(佐藤大志)である。食べ方自体は普通の甘利田に対し、神野は給食をオリジナルにアレンジして食すのだ。ソフト麺は小さくちぎって並べ、様々な給食の具材を乗せて優雅に食べる。甘利田は脳内で「まさにパーティータイム!」と負けを認めるが、もうちょっと惹かれる表現は無かったのか。あと、ソフト麺を手掴みでちぎって食べるの、単純に汚く見えるんだけど。

さらには学校で飼っている鶏の卵を給食に持ち込んだりとやりたい放題の神野だが、一年生ながら生徒会長に立候補する。もっと給食に生徒の意見を入れようというのが公約だ。生徒会長にそんな権限があるのか疑問だが、他の候補者も「学校に迷い込んできた野良犬のために犬小屋を」とかなので、のどかというか。

一方、教育委員会から学校に給食廃止の連絡が来る。「生徒が増えて給食センターでは市内の学校全てをカバーできない。増築も3度もしたし、各学校で給食を用意するのは衛生上の問題がある」と、細かい点は抜きにして理論的に廃止の理由を伝える教育委員に対し、熱意のみで反論する甘利田。教育委員は悪役っぽいキャラクターにしているんだけど、言い分は正しいのでどうしようもない。

で、ここで舞台を1984年にした弊害が出ていて、「生徒が増えたから」と現在の少子化とは真逆の状況が起こっているのね。突然の首相からの休校要請のせいで偶然にも給食の必要性がクローズアップされている今、給食の存在意義を取り上げることで映画にも社会批評性が出せたかもしれないのだが、舞台が1984年ではどうにもならない。現在における給食の最大の存在意義は、家庭の事情に寄らず子供たちに栄養バランスよく食事を与えられることで、一応その辺も軽く触れられるものの、あっさりといなされて終わり。絶好のタイミングだったのに、もったいないなあ。

そんなわけで、給食廃止を知った神野が全校生徒の前でのスピーチから逃げ出したり、放送室に立て籠もって給食愛を訴えたりと、輪郭が詰められてないゆえ出来の悪い学園ドラマのパロディが続く。神野が給食を好きなのは「みんなと同じものを食べられるから」って言っていたけど、オマエひとりだけ給食に鶏の卵を持ち込んでオリジナル給食にしていただろうが。なんだその自己矛盾は。

結局、給食廃止は止められず、生徒たちが各自持ってきた弁当で昼食をとることになる。色とりどりの弁当箱で、おかずを分け合いながら和気あいあいと楽しそうな生徒たち。こんなシーンを最後に入れてしまっては、給食の必要性なんかハナから無かったんだって結論にしか思えないが。全体的にさあ、登場人物の給食愛を創り手がバカにしている気がするんだよね。主人公らの言動を突き放したうえで遠くから嘲笑っているみたい。

あと序盤で、さも甘利田のライバル然とした感じで教育実習生(演じているのは「BOYS AND MEN」の人)が登場しているのだが、ほとんど物語と関わることなく終わっていた。東海地方で活動している男性アイドルグループ「BOYS AND MEN」と、その弟分とされているグループのメンバーが、これくらいの規模の映画にここ最近出まくっているのだが、いったい何なのだろう。『バイバイ、ヴァンプ!』にも、この辺の人らがメインで出ている。パンドラの箱を開けてしまいそうなので、あまり触れないほうがいいかもしれないけど。

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