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【邦画】『仮面病棟』感想レビュー--頭を使った細部の創り込みが後から効いてくる意外な掘り出し物

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監督:木村ひさし/脚本:知念実希人、木村ひさし/原作:知念実希人
配給:ワーナー・ブラザーズ/上映時間:114分/公開:2020年3月6日
出演:坂口健太郎、永野芽郁、内田理央、江口のりこ、朝倉あき、丸山智己、笠松将、永井大、佐野岳、藤本泉、小野武彦、鈴木浩介、大谷亮平、高嶋政伸

 

注意:文中では物語の序盤までしか触れていませんが、一応ネタバレにご注意ください。初見では何も知らずに観たほうが楽しめる作品だと思います。

 

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68点
意外な掘り出し物というか、なんであんなつまんなそうな予告流してんだよとワーナーに文句を言いたくなる良作であった。この手の話は本格ミステリとしての出来をチェックしてしまう個人的なクセのせいで評価が上がっているのはあるが、少なくとも予告から感じる安っぽさは本編ではマイナスとなっておらず、B級テイストなのは狙いでもあった。以下の文章では文句も多いですが、充分に映画を楽しんで満足したことは先に断っておきます。

映画は、事件後の警察署での聴取シーンから始まる。「あなただけなんです。何が起きたか知っているのは」という警察官のセリフから、一人だけ生存が確認される結末は明かされているが、それが誰なのかは示されない。この前フリが後に効いていて、「もしかして順当に主人公が生き残るわけではないのでは」と疑念を発生させることで後半のサスペンスを盛り上げ、一方で生存者が複数いるなどの別の選択肢を眩ます効果もある。

さて、時間軸が遡って本編へ。先輩の緊急の代理として、とある病院で一夜限りの当直医を務めることになった外科医の速水(坂口健太郎)。まずは看護師の東野(江口のりこ)と佐々木(内田理央)に挨拶し、東野から5階建ての病院を案内される。えらく感心したのだけれど、この案内シーンだけでほぼ完璧に間取りや院内の状況を把握できたのね。閉ざされた空間を舞台にしたミステリの場合、小説だと最初のページに間取り図が載ってるので見返せばいいけれど、映像化したらどこに何の部屋があるか解らなくなって混乱することが、よくあるので。各部屋を案内される過程で過不足ない伏線が提示されると同時に、江口のりこの能面のような無表情がホラー導入部のように雰囲気を上げていく。

夜も更け、速水が2階の宿直室にいると内線が鳴る。電話口の東野に言われて1階に降りると、ピエロの面をつけて銃を持った強盗と、銃弾が腹部に掠って負傷した女性・川崎(永野芽衣)がいた。「女を手当てしろ」と強盗に要求され、南京錠で開かずの間となっていた手術室を開ける東野。使っていないはずの手術室なのに最新の設備が揃っているので速水は疑念を抱くが、まずは川崎を応急処置する。その後、院長の田所(高嶋政伸)が現れるもあっさりと強盗に撃退され、彼らと満床の入院患者(ほとんど寝たきりなので放っといても問題ない)は強盗によって監禁される。

病院は5階建てで、階段1階に設置された鉄格子を施錠すると、2階への行き来はエレベーターのみとなる状況。2方向避難が無いので完全に建築基準法違反だが、かつて精神病院に使われていた古い建物ってことで一応の理由付けにはなっている。強盗は1階を見張るでもなく各階をエレベーターで行き来している。そのため、いつどこで強盗と鉢合わせるか解らない状況であり、常に緊張感は保たれている。一方でそれだとこっそり逃げられそうな気もするので、ここはセリフで一言でもいいから唯々諾々と監禁されるほかに術がない理由が欲しかったかも。仲間がいるかもしれないから迂闊に動けない、とか。

今回はネタバレしたくないので、あらすじ説明はここまで。この手の話の常として、多くの人が勘づくであろうどんでん返しはあるが、おおよそは予想できたとしても細部の肉付けは見事だ。映像ならではの伏線もバレるかどうかのギリギリを狙っているスマートさがある。院長や看護師の配役からして怪しすぎる病院に隠された秘密も、ウイルス兵器を開発しているみたいな突飛なものではなかったために、一応のリアリティを損なわずにすんでいた。

あと、ミステリで顔を隠した人物が登場する場合、正体は既に登場しているか途中で入れ替わるかのどちらかなのだが、ここでもちょっとしたミスリードがあったのは良かった。この話の場合、正体は誰でもいいんだけど、まあそれでも。いや本当、頭を使ったアイデアをふんだんに用いた細部の創り込みは素晴らしかった。映画を観ていて感じるちょっとした違和感が、実は意味あるものであったと後から明かされていくのは単純に快感だ。

惜しむらくは、謎解きのために何度も回想シーンが挟み込まれているせいで、後半が間延びしちゃっているのがなあ。映画館で映画を観るときの集中力は半端ないので、そこまで懇切丁寧に説明しなくても解るから。ただこれに関しては「ミステリは種明かしにたっぷりと尺を取るのが当然だ」というジャンル全体に横たわる問題かもしれないが。あと、嘘のセリフを映像にするのは、この作品の場合はマナー違反かと。あ、そういえば今回の監督クレジットは苗字と名前の間の変なマークが無くなっていて、それは今後もそうしてほしい。
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