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【邦画】『初恋』感想レビュー--三池崇史監督なりの、東映実録シリーズを未来に継承するための作戦

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監督:三池崇史/脚本:中村雅
配給:東映/上映時間:115分/公開:2020年2月28日
出演:窪田正孝、大森南朋、染谷将太、小西桜子、ベッキー、三浦貴大、藤岡麻美、顏正國、段鈞豪、矢島舞美、出合正幸、村上淳、滝藤賢一、ベンガル、塩見三省、内野聖陽、三元雅芸、内田章文、小柳心、山中アラタ、谷嶋颯斗

 

注意:文中で直接的に結末には触れていませんが、念のためネタバレにご注意ください。

 

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67点
『十三人の刺客』以来の、首輪が外れて誰にも制御できなくなった三池崇史監督による作品である。三池監督は要求されたものを淡々と制作する職人監督のふりをしてこっそりと三池印を忍ばせる地道な作業をずっと続けているが、ごくごくたまに、こういうリミッター全開の作品をぶっこんでくるからワクワクする。

さて、映画『初恋』を既に観た人なら共感を得てくれると思うが、振り返ってみるとあんまりストーリーは覚えていない。いや、もちろん脚本もきちんと練られているのだが、組織内での裏切りとか極道と中国マフィアの抗争とか、鑑賞後は正直どうでもよくなっている。記憶に残るのは片腕でショットガンを構えてぶっ放す中国人とか、ブリーフ一丁でエイサーを踊るおじさんとか、そういう瞬間的なポイントばかりだ。冒頭で生首を転がして「これはこういう作品です」と宣言して以降は、ひたすら(いろんな意味での)刺激的な一瞬に全力をかけている。物語は、それらの一瞬を繋げるための装置に過ぎない。

東映実録シリーズのフォーマットを拝借した構造だが、三池監督にオマージュとしての意識は無いだろう。劇中で巻き起こるいかにもな裏切りや抗争は、刺激的な一瞬を作るために利用されるのみだ。まず第一に撮りたいアクションがあり、そのために「キャラクターAとキャラクターBが対立する」のような設定が必要になるので、「その前の段階で裏切りがバレるようにする」みたいに前フリを用意する。こんな感じで作られる物語のために、実録シリーズ定番の裏切りとか抗争とか持ち出されるわけで、東映の歴史ある財産も三池監督にとってはただの便利な小道具でしかない。

そのため、東映実録シリーズ必須の哀愁だったり美学が、本作のヤクザや悪徳警官には与えられていない。登場人物ですら、一瞬の刺激的ショットを産み出すための小道具なのだ。撮りたい一瞬を全て撮り終わったら、さっさと殺しちゃうし。誰ひとりとして死にも重みがないのも、実録シリーズから逸脱している。

一見すると三池監督が東映実録シリーズを侮蔑しているようだが、これは算段のうちだろう。現代において、ヤクザや悪徳警官をかっこよく憧れる存在として描くことはできない。かつてのように美学や哀愁を取り入れるのは不可能なのだ。そのため白石和彌監督は『孤狼の血』においてヤクザや悪徳警官を徹底的に醜くボロボロにしたが、三池監督の場合は実録シリーズに対して無感情を装い、あくまでフォーマットのみを現代に復活させている。こういう利用は延命措置の方法の一つとして間違っていない。東映魂は、こうしてひっそりと受け継がれていくのだろう。

最後に。本作の中で、東映実録シリーズのフォーマットから離れて行動している人物が2人いる。ひとりは町で偶然助けた女性を守り抜こうとする主演の窪田正孝で、もうひとりは恋人を殺され復讐の鬼と化したベッキーである。どちらも愛する者を思って感情で動いているカタギであり、小道具として動かされているわけではない。そのため、この2人だけは他の人物と違って人間的な厚みがあり、それゆえアクションにも瞬間的な刺激だけではない陰影が含まれている。もちろんこの「カタギだけは人間的にする」というコントラストも、実録シリーズへの無感情を装うが故の狙いであり、企みは大成功を収めている。
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