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【邦画】『前田建設ファンタジー営業部』感想レビュー--現実であるがゆえの強度によってマンガ的な演出にも説得力が増している

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監督:英勉/脚本:上田誠/原作:前田建設工業株式会社、永井豪
配給:バンダイナムコアーツ、東京テアトル/上映時間:115分/公開:2020年1月31日
出演:高杉真宙、上地雄輔、岸井ゆきの、本多力、町田啓太、山田純大、鈴木拓、水上剣星、高橋努、濱田マリ、鶴見辰吾、六角精児、小木博明

 

注意:文中で直接的な結末には触れていませんが、ネタバレにご注意ください。

 

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69点
自分自身の属性や経験と絡めて映画を評することは、あまりしないようにしている。だって、著名なタレントでもない単なる一般人の個人的なことなんて、何の参考にもならないでしょう。家族がテーマの映画だとして、自分の場合はこうだったとか聞かされても、知らねーよと思われて終わりではないか。個人の経験をさも唯一の絶対的真実だとして「だから、あの描写は間違っている!」とか言い出す人にはなりたくないし。

前田建設ファンタジー営業部1 「マジンガーZ」地下格納庫編 (幻冬舎文庫)
 

 

だが、映画『前田建設ファンタジー営業部』を観ている最中、ずっと自分自身の仕事上の経験を思い出していた。なんかもう身につまされる出来事が多くて、冷静に観てられなかった。一応、ボクは土木は専門外であるし、劇中の登場人物には自分に近い立場の人はいないのだが。話を進めるために自分の職業を(ぼんやりとだが)説明すると、映画は設計や積算の作成をゴールとしているが、ボクは実際に施工が始まってから現場に常駐して行う仕事に就いている(職人ではない)。映画中で作成されたものが、後になってダイレクトに仕事に響く立場だ。

大手ゼネコン「前田建設」が、ウェブコンテンツとして『マジンガーZ』に登場する格納庫の設計や積算を行う。話は単なる実話であり、劇中での仕事内容は地味なものだ。だが、実話であることで作品の強度が増していて、マンガ的ともいえる突飛な演出にも説得力が生まれている。撮影場所も前田建設のオフィスをはじめ実物が使用されていて、工事中のトンネルやダムの裏側など、本物であるが故の迫力が、作品の外周を支えている。

小木博明演じる部長がノリと勢いでファンタジー営業部を立ち上げ、無理やり巻き込んだ社員4人とともにマジンガーZの格納庫の施工計画を行う。この部長、カリカチュアされているものの大企業にひとりはいそうなタイプで、ここでもう説得力がある。巻き込まれた側の社員たちは、当初はやる気は無いものの、ひとりづつ何かしらのエピソードによって目の前の仕事の達成に目覚めていく。配役の妙も素晴らしく、たとえば当初は無気力なものの子供との触れ合いから真っすぐな瞳で熱血モードに切り替わる先輩社員に、上地雄輔なんてピッタリであろう。

ベタな構成の「困難な仕事を達成する物語」なのだが、実話であることの強度と詰め込まれた細部、そして『マジンガーZ』の映像そのものの力も加わり、マンガ的な演出による違和感を気にすることなくダイレクトに劇中人物の情熱を共有できる。もうそれだけでエンタメとしては完成している。この域まで到達できる日本映画の大作がいくつあるかと考えれば、貴重な作品なのは間違いない。

ただ、これはボク自身が近い仕事をしているからかもしれないが、劇中での仕事風景の様子に居たたまれなさを感じてしまうのも事実なんである。ボランティアで終業後に会議をしている(てことは残業代は出ないのか?)とか、何度も繰り返される「私物です」というセリフなど、ブラック企業と言われがちな状況を個人の熱意なのだから正しいものなのだとしているところは、やっぱり拒否反応が出る。全体を通してゼネコンらしい体育会系のノリで突き進んでいるのだが、そのノリに巻き込まれる身としてはねえ。具体的な経験をここで言うわけにはいかないけど。

発注元は絶対なんだからと、途中で発生した大幅な仕様変更に取り組んでいくあたりも、なんかいろいろ思い出す。この話の場合は「これは無理ですし、お金がかかりますよ」と発注元を説得する手段が無いわけだが。このタイミングはいい方で、現実には施工が始まってから「マジンガーZを横に動かしたい」とか言い出されたりするんだよ。そしたら今度は現場に莫大が負荷がかかるんだ。で、元請のゼネコン社員は体育会のノリで「やったろうぜ」って感じになって、雇われ者は唯々諾々と従うしかなくて…。

えーと、仕事の愚痴になりそうなので、ここで強制終了します。繰り返しますが、映画はエンタメ作品として素晴らしかったです。エンドロールも楽しい仕上がりで良かった。

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